Julian is a Mermaidへ応援コメント
私がこの絵本に出会ったのは、今年のはじめにアメリカの絵本編集者の方にインタビューさせていただいた際、いま読んでおくべき1冊としてこの絵本を挙げられていたことがきっかけでした。
私がこの絵本で好きなポイントは、なんと言っても、前半部分で人魚に出会ったジュリアンが、自分も人魚の姿になって魚たちと泳ぎ回るところまで一気に空想を膨らませる、言葉のない連続3見開き(6ページ)の場面です。たとえば、モーリス・センダックの絵本『かいじゅうたちのいるところ』でも、クライマックスの3見開き(6ページ)で言葉が用いられていないことは有名です。この場面については様々な解釈がなされていますが、主人公の少年マックスの内面にある野生的な欲望を発露させる場面だという解釈があります。このように、子どもたちの心の内奥にある願いや気持ちの爆発を、絵本においては絵だけのページを用いて表現することがあります。
子どもは、まだ言葉という道具を思い通りに使えない存在でもあります。どのように説明すれば自分のことを相手に伝えられるか、納得してもらえるかということは、大人でさえ難しい問題です。とくに、性的指向に関することは、少しずつ状況は変わっているとはいえ、両親を含め周囲の人にいちばん相談しづらい性質のものだと言えると思います。ましてや、小さな子どもであるジュリアンであれば、なおさら。もしその気持ちを言葉で説明させようとしたら、周囲にどう思われるかを心配したり、うまく説明できるだろうかという恐れを感じて、隠してしまうかもしれないものです。しかしこの作品では、そのような口に出すことが簡単ではないけれど心の中に渦巻き次々に溢れ出してくる願望・イメージを、この6ページによって見事にすくい上げ、本の中に写しとっているのです。短い場面ですが、ここで達成されていることはこの絵本の価値のひとつであり、すでに外国で様々な受賞をしているのも、いまこの絵本を求めている子どもや大人がいるからではないかと感じます。
私自身も、子どもの頃から言葉を思い通りに使えず、口喧嘩も苦手で、言いたいことがあっても言葉にまとまらないもどかしさをずっと抱えていました。しかし、口には出せない様々な感情や思いを確かに腹の中に秘めていて、それをなんとか目で見える形にできないかと思ったことから、絵と物語に取り組むようになりました。絵であればすくい上げられるものを形にするために、マンガや絵本を作り続けたいと思っています。作家としては、そうした「絵が表現できることの可能性」を改めて感じさせてもらえたことも、この絵本に惹かれている理由のひとつです。
誰もが自分の思い描くイメージを自由に広げられる、そのことを応援するこの絵本が、日本語でも読めるようになって欲しいと心から願っています!
山本美希
マンガ作家、筑波大学助教。現在、トーチwebとGINZAのウェブサイトにてフルカラーのマンガ『かしこくて勇気ある子ども』を連載中。主な著作は『爆弾にリボン』、『ハウアーユー?』、『ねえ ねえ あーそぼ』。『Sunny Sunny Ann!』は、第17回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した。大学では作り手に役立つ研究・教育を目指して、絵本・マンガにおける物語表現の調査に取り組む。
プロジェクト終了まで残り20日、
あと48%ほどでプロジェクト成立です。
そして、参加いただいている人数は約200名に。
SNSなどでの情報拡散・プレゼント用に複数冊でのご参加など、
最後までお力添えのほど、どうぞ宜しくお願い申し上げます!