ひこ・田中
正直なことで手に入るものもあれば、嘘をつくことで手に入るものもあります。とはいえ、正直でないと決して手に入らないものもあります。それは「自由」です。
一見、嘘をついても得られそうですし、嘘をついた方が手に入れやすいなんて思えもしますけれど、「嘘の自由」なんて欲しい?
この絵本は、とっても正直なジュリアンとおばあちゃんを描いています。
人魚の格好をしたきれいな女性たちに憧れたジュリアン。彼は自分も人魚になりたいと思いますし、正直にそれを実行に移します。ジュリアンが家の中の色んな物で自分を人魚に仕立て上げたときのご自慢顔の正直さときたら! 見ているこっちも嬉しくなります。
ところが、おばあちゃんはもっと正直。盛り上がっているジュリアンに顔をしかめます。そして“Uh-Oh”だって。
だけど、大丈夫。ジュリアンにとって、最高ならそれでOKです。そして、おばあちゃんが連れて行ってくれたのは、正直さに溢れた自由空間。その豊かな色彩に目眩がしそうです。
さあ、みんなの祝祭だ!
なりたいものになってみれば、本当の自由の楽しさがわかります。
自由の楽しさを知らなければ、誰かを不自由にしてたって、わかりません。
この絵本を眺めれば、ジュリアンと一緒に、もっともっと自由になりたくなりますよ。
ひこ・田中(1953年 -)
児童文学作家。『お引越し』で椋鳩十児童文学賞受賞。同作が相米慎二監督により映画化される。『ごめん』で産経児童出版文化賞JR賞受賞。同作は冨樫森の手で映画化された。『なりたて中学生』で児童文学者協会賞受賞。他に「レッツシリーズ」(ヨシタケシンスケ:画)、『ぼくは本を読んでいる。』『大人のための児童文学講座』『ふしぎなふしぎな子どもの物語』