『綺譚花物語』クラウドファンディング、発起人の黒木夏兒です。
おかげさまでただ今、ご参加いただいている方の人数は359名となり、達成率も72%、目標の180万円までの残り金額は50万円を切っております。
私の中で翻訳に「火」が付く時、それは大抵「台詞」がきっかけです。どれか一つの台詞が、例えばある人物に対する呼称だったり、主人公の語尾だったり、主人公の一人称だったり、時には本当にワンシーンのみの脇役の台詞だったりするのですが、その人物が頭の中に入ってきてぱーっとその人物の口調で喋りだす時がある。そうすると、とにかくその作品を訳したくてたまらなくなる、その人物に「その人物が私に伝えてきた」その口調で喋らせてやりたくてたまらなくなるのです。
今回、もちろんそれは茉莉の台詞でした。まだ茉莉がどういう少女なのか、全く情報が得られていない状態で、まだ後編しか手元にない状態で、ページを開いた最初の台詞から、彼女は自分の言葉で自分の口調でしゃべりだしました。
しかし、『綺譚花物語』はオムニバスです。なので当然それぞれの話に、多少はそういった瞬間があるのです。
第三話の場合、それは蘭鶯でした。
蘭鶯の口調はどこかねっとりとしています。新米の女中が蘭鶯を生まれながらのお嬢様だと思う程のお嬢様口調。しかし、決してそれだけではない口調。すんなりと「らしい」口調で喋りだし口数も多いくせに、どこかつかみどころがない。「妾身(わたくし)」「小姐(お嬢様)」など独特のルビが多い口調でもあります
第一話は、実はとても大変でした。詠恩はどこか天然な、英子はどこか皮肉屋な口調です。そして特に英子は、なかなかその「皮肉屋」という役割から離れて素を出そうとしないのです。おかげで英子の素口調は本当にところどころしかありません。
第四話、阿猫と蜜容の会話は、割とスムーズに私の中に湧いてきました。オタトークという極めて馴染みのあるシチュエーションだったせいでもあるでしょう。なので、実はこの二人に喋らせたい台詞は、少し違うシチュエーションで湧いてきたものになります。
「でも、私『違う』から」。「私も『違う』って」。
原文では「但我不是」。何ではないのかと言えばレズビアンということになるでしょう。「でも私レズビアンじゃないから」「でも私そうじゃないから」。どれも「らしくない」気がしました。どう「らしくない」のかと言えば「何」が「何」なのかを限定してしまっているからだということになります。
阿猫の感情を「恋」だと限定してしまっている。阿猫を「レズビアン」だと限定してしまっている。それは「無可名状」ではなくなってしまうし、蜜容の言葉でもない。ならどうするのか?「何」が必要のない言い方にすればいい。
「でも、私『違う』から」。
これらの日本語は、もう生まれています。それでも、本が出なければ決して日の目を見ることのない日本語の台詞たちです。
クラウドファンディングの残り期間は18日。既に三週間を切っております。そして、目標金額に到達しない場合、本は出せません。
彼女達が私に伝えてきた口調で『綺譚花物語』の中で生き生きと日本語を喋れるようになるよう、今一歩の応援をよろしくお願い致します。この作品の魅力をお伝えするために様々な活動もしておりますので、皆様もどうかこれらの情報の拡散に、口コミやツイートなどでご協力ください。
『綺譚花物語』の魅力を感じていただける情報源としては、以下の三つがございます。是非、ばんばんリンクを張って情報発信をお願い致します。
マンバ通信さんでの記事「翻訳出版クラファン中! 台湾発の百合漫画『綺譚花物語』昭和11年の台中市に、ひっそりと咲く少女たちの恋」
サウザンコミックスの編集主幹、原正人さんのYouTube「海外マンガch / 原正人」への出演「サウザンコミックス第4弾クラウドファンディング実施中! 『綺譚花物語』(原作:楊双子、作画:星期一回収日)について台湾本翻訳家の黒木夏兒さんにお話をうかがいました」
またクラファン特典として、『綺譚花物語』の舞台である台中市で、本作の聖地巡礼を楽しんでいただくためのガイドブックを作成いたします。現在の台中で阿猫と蜜容が虎爺を探して巡った廟や、二人が住んでいるエリア、院生である蜜容が通っている大学などはもちろん、昭和11年当時の台中市で主人公たちが立ち寄っただろう名所の跡地や現在も残っていて見学可能な公共施設、さらにはお屋敷や、主人公たちの通学ルート、さらには民間施設をリノベーションしたカフェなども網羅した、マニアックな聖地巡礼ガイドブックになります。
加えて出版のあかつきには出版記念イベントに、原作の楊双子さん、作画の星期一回収日さん両名の御出演が決定しております。
さらに11月2日(火)には「『綺譚花物語』から知る台湾百合漫画の世界」というイベントも行います。ご視聴のお申し込み、お待ちしております。