この本には主人公の少女が安心、安全を求めてたどる過酷な道のりと、彼女がかつて過ごしていた、何気ない日々の暮らしが描かれています。「私はここよ」。お母さんとの「かくれんぼ」の時間には、そんな楽し気な声が響いていたことでしょう。彼女の日常の一端に触れながら、戦闘が始まる前に通ったシリアの街の風景が、私の心の中にもそっと、よみがえっていきました。そして改めて、思うのです。最初から難民だった人はいなかった。最初から戦場だった街はなかった、と。少女の身に起きた悲劇は、望まずして慣れ親しんだ家々を追われた人々の声を凝縮していました。「ここ、私はここにいるよ」。そんな声にならない声が今日も、受け止め、答える人々を待っているはずです。誰も置き去りにしない社会であれるようにと、ZENOBIAは私たちに問いかけてくれます。
フォトジャーナリスト 安田菜津紀
プロフィール
1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
昨年末に刊行の、女優点タレントとして活躍の場を広げるサヘル・ローズさんとの共作の写真詩集『あなたと、わたし』(日本写真企画 )が話題。
『あなたと、わたし』
発行・発売:日本写真企画
発売日:2018年12月15日
定価1,500円+税
ISBN : 978-4-86562-084-9