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世界15カ国で翻訳された北欧グラフィックノベルの傑作
シリア内戦下に生きる少女の物語『ZENOBIA』を翻訳出版したい!

「子どもが子どもらしく過ごせる時間と場所を」シリア難民の支援活動を続ける松永晴子さんに聞く

『ZENOBIA(ゼノビア)』はシリア紛争下、戦禍をのがれるためにボートに乗って海をわたる、少女アミナのストーリーです。同じように難民として、またシリアにとどまって生活している子どもたちはたくさんいます。アミナと同じ年頃の子どもたちの現在を少しでも知りたいと思い、ヨルダンにあるシリア難民キャンプで支援活動をされているNPO「国境なき子どもたち(KnK)」の松永晴子さんに、発起人の荒木美弥子と共にお話を伺いました。

 

−−松永さんは、ヨルダンのザアタリというところにあるシリア難民キャンプで、子どもたちの支援活動をされています。主にどのような活動をされていらっしゃるのでしょうか?

松永 私が所属している「国境なき子どもたち」では、難民キャンプ内にある学校で、教育プログラムを提供しています。シリア人やヨルダン人の先生と協力して、5年生から10年生の生徒を対象に、演劇、音楽、作文などの科目や体育の授業を行っています。

 

5年生男子、KnKの授業を受ける子どもたちの様子

 

−−紛争から逃れて難民キャンプにたどり着いた子どもたちは、通常の授業もおぼつかない状態では、と想像しますが、語学や算数といった主要教科ではなく、演劇や音楽を教えるのはどうしてですか?

松永 演劇や音楽、作文の授業では、子どもたちが自分の思いを自由に表現できるように心がけています。親族を目の前で殺されたり、爆撃に怯えたり…過酷な体験を自分なりの言葉や絵にすることは、過去を客観視し、傷を癒す助けになります。そしてなによりも、子どもたちはこうした表現活動を楽しみにしてくれて、学校に通い続けるモチベーションになっています。

 

−−むしろ、傷ついて混乱した状態だからこそ、表現活動が重要な役割を果たすのですね。私たちが想像を絶するような体験をして、現在、難民の子どもたちは、どのような状態なんでしょうか?

松永 学校が始まった当初はこれまでに受けた心の傷などから、暴力的な行動や情緒不安定な状態などが見られました。また、シリアでの戦況の悪化につれて学校に通えなくなり、学習の遅れはもちろん、集団生活の基本的なルールがわからないという子も多く、授業を成立させること自体が大変な状態でした。

今では、毎日の授業や私たちのプログラムを通じて、少しづつ落ち着きを取り戻しているように見えます。長期化が新たな問題も生み出していますが、キャンプ内の生活環境も改善され、学校の授業や家の手伝いの合間に見る、テレビやゲームを楽しみにしている子も多いです。

 

班活動で作ったチームメンバーの名前を、折りたたみの紙に一人一人書いたしかけを見ている子どもたち

 

−−アミナのように海をわたってヨーロッパへ向かうのは、新天地を求め帰らない覚悟で。一方、ヨルダンなど近隣の国へ向かった方は、一時的な避難で、情勢が落ち着いたら国に戻ろうと考えている方が多いと聞きました。

松永 一般的にはそのように言われており、難民キャンプにいる方は、すぐに戻れると思っていたのに想定より長期化してしまった、という方が多いと思います。現在、紛争は収束に向かっていると考えられています。しかし、一度国を出てしまった人が元どおりの生活に戻れるようになるには、様々な困難があり、見通しが立てられないままの人がたくさんいる状況です。長期化するキャンプ生活で大人たちが疲弊していく中で、子どもたちが少しでも自分たちの将来の夢を考えられるようにと、キャリア教育も始めました。

 

5月、砂埃が波のように押し寄せるキャンプ

 

−−難しい状況ですが、学校に通う子どもたちの姿は希望でもありますね。松永さんが難民の子どもたちの支援活動をされる情熱は、どこから来るのでしょう?

松永 もともと美術の教員をして教育にかかわっていたこともあり、とにかく子どもたちの支援をしたかった。私は、どこにいても子どもが子どもらしく、子どもらしいわがままを言っているのを見ているのが好きなんです。子どもたちが厳しい現実の中で暮らしている、その生活の中で少しでも、安全な場所、楽しい時間を提供したいと思っています。

 

−−松永さんには、『ZENOBIA(ゼノビア)』の英語版を読んでいただきました。どのような感想をもたれましたか?

松永 印象的なシーンがいくつもある、シンプルな絵の中に考えることのたくさんある本でした。悲しいお話ではありますが、これを多くある悲劇の一つとして消費して流してしまわずに、知るきっかけにして欲しいです。

ニュースで見るのは、市街戦で破壊された街やボートで戦争を逃れる難民の姿など、センセーショナルな映像ばかりですが、そんな中でも生活をしている人、日常生活があるということを知って欲しい。この本には、アミナがシリアで幸せに暮らしていた頃の様子が印象的に挿入されているところがあります。これらのシーンがきっと、子どもたちがどのような日常を送っていたのか、ということを想像させる手がかりになるはずです。

 

−−『ZENOBIA(ゼノビア)』には詳しい背景が説明されていない分、ストーリーの解釈は様々で、読んだ人に委ねられています。この本を教材に、学校でワークショップなども行われているそうです。自分たちに引きつけて考えることができる、そういう普遍性があるからだと思います。

最後に、私たちにできることはなんでしょう? こういう状況をなんとかすべきと思っても、なかなか行動に移すのは難しいです。

松永 まず想像して、そして共感すること。実際、日本にも難民、移民の方々がいらっしゃいます。戦争や難民は、決して遠くの国の、自分に関係ない話ではありません。確かに、行動することは難しいけれど、自分の近くにいる人について考える、関心を持つことから始めて欲しいと思います。

 


今回、「国境なき子どもたち」への寄付をセットにしたコースを新たに支援リターン として追加しました。ヨルダンにいるたくさんのアミナのために行動したい!と思った方は是非ご参加ください。

■ 書籍+「国境なき子どもたち」への寄付コース(¥5,000 税込)

《内容》

・書籍『ZENOBIA(ゼノビア)』日本語版1冊

・認定NPO法人「国境なき子どもたち」への寄付(※1口あたり、書籍代と決済手数料等を引いた2,500円)

 

「国境なき子どもたち」の活動に興味を持った方はこちらもご覧ください。

【クラウドファンディングに挑戦中!】シリア難民キャンプの子どもたちの教育と居場所を守りたい!

『わたしは13歳、シリア難民。』編著 国境なき子どもたち(合同出版)

 

松永晴子(国境なき子どもたち(KnK)シリア難民支援 現地事業総括)

愛知県出身。筑波大学大学院芸術研究科芸術学彫塑(ちょうそ)分野修了。日本とベトナムで美術教師を務めた後、2011年から2年間、青年海外協力隊としてヨルダンで美術教育に携わり、その後も半年間、同国でNGOの活動に参加。 2014年4月からKnKのヨルダン活動に従事し、現在はシリア難民支援の現地事業総括として子どもたちの教育支援を行う。

2018/12/18 12:22