翻訳ミステリー大賞シンジケートの運営をはじめ、多数のミステリー小説の書評や寄稿を行う杉江松恋さんから『Smaller and Smaller Circles(仮:迫る包囲網)』プロジェクトに応援コメントをいただきました!
ミステリーが好きで、もっといろいろな国の作品を読みたいと思っています。日本に紹介される作品は当然ながら英米のものがほとんどなのですが、最近になって北欧やドイツのものが増え、フランス・ミステリー再評価の兆しがあり、ラテン・アメリカを含むスペイン語圏からも翻訳されるようになり、と嬉しい傾向があります。
その中でもっとも紹介が遅れているのがアジア・ミステリーなのです。最近になって中国語圏の作品が少しずつ読めるようになりました。これは島田荘司さんが中心になって「本格ミステリー」の輪を広げようという運動があるためで、2017年には陳浩基『13:67』が年末ベストテンの上位を独占するなど、嬉しい驚きがありました。ただ、翻訳紹介されているアジア・ミステリーにはまだ偏りがあります。一つはいわゆる「本格」もの、つまり謎解きの関心を中心に据えたものがほとんどで、それ以外のミステリーの要素、サスペンスやスリラーといった作品がまったく訳されていないことです。また、翻訳されるのがほとんど中国語圏の作品である点にも、もどかしさを感じます。それ以外の諸国でもミステリーは読まれ、そして書かれているはずなのに。マレーシアの書店で、「これは明らかにミステリーだな」と直感した本を手に取りつつ、「でも読めないから」と棚に戻してしまった悔しい体験を今も思い出します。
ですから今回、サウザンブックスがフィリピン産のミステリー、しかもクライム・サスペンスをクラウド・ファンディングで出版するという話を、私は心から嬉しく聞いたのでした。ほとんど日本に作品が紹介されていない国の、しかもミステリーが読めるという喜び。そしてこれがもしかしたら、未知の扉を開けることになるのかもしれないという期待。その二つを共に感じています。もっともっとたくさんの国のミステリーが読めるようになりますように。
杉江松恋:ライター、文芸評論家、書評家。
■ブログ:http://mckoy.cocolog-nifty.com/hansei/
■ツイッター:@from41tohomania
1月には杉江さんを招いた原書の読書会を企画中です(詳細は追ってお知らせします)。本プロジェクトの成立後は、初版部数が多く望めない海外の作品を続けて手がけて参ります。引き続き、海外文学好き・ミステリー好きの方への情報拡散、どうぞ宜しくお願いします!!