このプロジェクトは、これまでの仕組みだけでは翻訳出版できなかった世界の本を続々と出版している出版社のサウザンブックス と、グローバルな出版ビジネスを各種展開する翻訳専門のトランネットが、フィリピン発の本格ミステリー小説『Smaller and Smaller Circles (仮:迫る包囲網)』の翻訳出版(英語→日本語)を目指すプロジェクトです。
サウザンブックスについて
サウザンブックスは、言葉や文化の壁を越え、心に響く1冊を翻訳出版する出版社。世界には、面白い本や必要とされている本が多くありますが、翻訳出版は初期コストが嵩むため、ビジネスラインに乗りにくいという理由から、未翻訳のタイトルが本当に数多くあります。そこでサウザンブックスでは、これまでの仕組みだけでは翻訳出版できなかったそのような本を、クラウドファンディングを活用して先行予約を取ることで続々と出版しています。6タイトルの出版プロジェクトを成立させ日本中の書店で販売中です。
トランネットについて
トランネットは2000年に設立の出版翻訳専門の翻訳会社で、年間150~200タイトルの書籍を翻訳しています。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するために出版翻訳オーディションを開催し、出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介しています。また、近年は日本の書籍を海外、特に欧米諸国に向けて発信するJapanese Writers' Houseプロジェクトも運営しています。
発起人(株)トランネット 近谷浩二から
出版翻訳の世界に足を踏み入れて十余年、これまでに2000冊近い翻訳書の出版を見届けてきました。改めて考えてみると、原書は欧米の出版社から発行されているものがほとんどです。このことについては普段から疑問を持ちつつも、本の質、量、ともに西洋が世界を圧倒しているのだから仕方がない、と自分自身に言い聞かせていたかもしれません。先日のカズオ・イシグロもそうですが、ノーベル賞を受賞した作家は、13年のアリス・マンロー、二人おいてボブ・ディラン、そしてイシグロ。カナダ、米国、英国と続いています。
2年前の2015年秋、シンガポール作家祭に参加してみると、アジア出身の作家や出版社が数多く参加しており、私が日本の文学を世界、特に欧米に向けて紹介する活動に従事していることを知ったあるマレーシアの作家が、「私も他の日本人作家とともに紹介して欲しい」と真剣な顔で言ってこられたのです。私はそれまで、日本人作家をいかに世界、とくに欧米諸国に知ってもらうかということに専心していましたが、このことをきっかけに、西洋を中心に回っている文学の世界に対して、「西洋以外でも文学が書かれていること」をもっと世界で知ってもらうにはどうしたらいいのか、という問題意識を持つようになりました。
国際的なブックフェアの様子
欧米の作品ばかり翻訳される流れを変えていきたい!
世界中の犯罪小説を出版する独立系出版社と、ユニークな作品を提案する作家エージェンシーが発掘した問題作
欧米の文学が日本を含めたアジアで翻訳出版される流れは皮肉混じりに「西高東低」と表現されることもありますが、その「逆流」をそろそろ本気で考えていく時期に来ているのではないか、と。そして、本書をアメリカの出版社に売り込んだ、フィリピン、シンガポール、インドを拠点に活躍する女性三人の文芸エージェント、Jacaranda Literary Agencyの活躍が私の魂に火をつけたのは間違いありません。彼女たちは子育てをしながら、あるいは弁護士という安定した職業を投げうって、アジアの新しい才能を発掘することに情熱を傾け、アメリカやインドの出版社との橋渡し役として日々奔走しています。
この本との出会いは、芥川賞作家の中村文則さんとシンガポール作家祭に参加するため、羽田空港の出発ロビーで何気なくメールをチェックしていたところ、中村さんの小説の英訳版を出版しているアメリカのSoho Press(世界中の犯罪小説を出版する独立系出版社)から届いた一通のメールが始まりです。そのメールには、「中村文則さんによろしく。シンガポール作家祭での成功を祈っています。ところでSoho Pressは今年、フィリピンの犯罪小説を出版しました。興味があればサンプルを送ります。日本でこの小説を翻訳出版できる可能性はあるかしら?」とありました。
私はもともとミステリーや犯罪小説のファンというわけではありませんでしたが、フィリピンの作品というのがめずらしく、しかも、このフィリピン人の著者の代理人を務めている、当時ナイロビ、シンガポール、そしてマニラに拠点を置いていたJacaranda Literary Agencyという作家エージェンシーの推す作品はユニークなものが多いのはよく知っていました。
シンガポール作家祭にて作家の中村文則さんと
単なるエンタメ作品に終わらず、フィリピンの社会問題を鋭くえぐり出す
そんな経緯もあり、本書を手に取ってみたところ、エンターテイメントとして面白いだけでなく、フィリピンの社会問題が鋭くえぐり出されていました。日本でも子供の貧困が問題になっていますが、フィリピンの貧困問題といったら日本の比ではありません。ゴミ拾いをしてその日その日を生き抜く子供たち。腐敗に慣れきってしまっている警察組織。著者は、フィリピンのそのような状況が、本作を書いた90年代も今もまったく変わっていないと怒りをあらわにしています。
日々のニュース等で報じられるフィリピンとは異なるレベルで同国の実情を容赦なくつきつけてくる本書の翻訳出版を実現し、多くの方に読んでいただきたいと切に願っています。
『Smaller and Smaller Circles』はフィリピン発の本格ミステリーにしてアメリカに「逆流」して出版された頼もしい作品であり、日本の読者にお届けする価値ある一冊と信じています。そして本書に興味を持ってくださったみなさまと共に日本語発刊に至るまでの道程を共有させて頂ければ、これに勝る喜びはありません。本作をきっかけに、トランネットとサウザンブックスは今後も継続して価値ある作品の日本語版発刊をみなさまと共に実現していきます。さらにはこれらの作品が日本語以外の様々な言語圏にも羽ばたいていけるよう、世界の出版関係者や翻訳者と積極的に情報共有し、この新しい流れを作っていきたいと思います。
発起人:近谷 浩二(ちかたに こうじ)
1991年立命館大学法学部卒業。UCLA Extensionで映画製作の勉強をした後、全米映画俳優組合員に。帰国後、(株)トランネットに入社し翻訳出版プロデューサーとして世界の書籍を取り寄せて日本語版をプロデュースするとともに、国内の本を海外、特に欧米諸国で翻訳出版することに注力。現在は芥川賞作家や直木賞作家の海外でのブランディングにも従事。
『Smaller and Smaller Circles』を発掘したJacaranda Literary Agent は、小説からノンフィクション、児童書に至るまで幅広いジャンルを扱う、南アジアで初めて設立された文芸エージェントです。バンガロール、シンガポール、マニラに住む三名の辣腕女性エージェントたちが、アジアを中心に才能ある作家を発掘し、アメリカやイギリスとの橋渡し役となって世界の出版界から注目されています。創業者のJayapriaは本と人をこよなく愛するインド人女性。英訳版『窓際のトットちゃん』を読んで以来、熱烈な黒柳徹子ファンとなり、いつかトットちゃんをインドの文学祭に招待したいと夢見ています。ナイロビやバンガロールを拠点に子育てをしつつ、アジアやアフリカの作家を欧米に紹介しており、彼女たちの情熱的な活動は各方面から絶賛されています。
※写真はJacaranda Literary Agentとトランネット
1997年夏、フィリピン・マニラ。野積みされたゴミ山がいくつもそびえるケソン市パヤタス地区のゴミ処分場で、顔の皮を剥がれ、内臓を抜き取られた少年の死体が次々と発見されます。付近では最下層の貧しい人々が暮らし、子供たちにゴミを拾い集めさせることで糊口を凌いでいました……。フィリピン国家警察から捜査への協力を要請された法人類学者サエンス神父は、残忍な連続殺人鬼を見つけ出すため、かつての教え子で友人でもある心理学者ルセロ神父とともに全力を尽くします。
犯人が心に抱える深い闇とはいったい何なのか?
フィリピン国内でロングセラーとなり異例の販売部数を誇る本作は、中村文則の作品をはじめとした世界の優れたクライムミステリーを出版するNYの出版社、Soho Crimeの目に留まり、2015年に原作から大幅に加筆されたものがアメリカにて出版されました。
さまざまな階層の人物たちの事情や思惑が入り乱れるなか、カトリックと科学を専門とし、正義を貫き事件を解決へ導こうとする主人公2人の人物描写と、シンプルで無駄のない文体が読者を作品世界へと惹き込む傑作です。
著者:F.H.バタカン
マニラ生まれ。フィリピン大学大学院卒業後、政府の情報機関であるフィリピン・インテリジェンス・コミュニティーで10年近く勤務し、諜報活動や詐欺調査などの専門訓練を受ける。2000年、シンガポールへ移住し、放送記者を経て、ニュース番組のプロデューサーとして放送ジャーナリズムの世界に身を置く。2002年、本書と同タイトルの短編小説を出版して作家デビュー。パランカ記念文学賞、フィリピン国民文学賞、マドリガルーゴンザレス賞を受賞。
■Smaller and Smaller Circles - Official Trailer
■メディア掲載の書評より
“鮮やかで衝撃的。夢中で読んでしまう。 神父探偵による警察ドラマが、フィリピンへの魅惑の窓を開く。”
—バリー・ランセット、作家
“内容的に物議を醸すかもしれないが、ハイレベルな犯罪小説”
—CNN フィリピン
“目まぐるしく展開する犯罪小説が、カトリック教会の役割とその支配を暴き出す……暗く、ザラザラして、アメリカンノワールのように魅きつけられる、見逃すわけにはいかない一冊”
—ストランド・マガジン
“フィリピンのケソン市を舞台にした、古典的で良質なシリアル・キラー小説。”
—ガーディアン
“単なるエンターテインメント小説に終わらず、フィリピンの貧困や不正に読者の目を向けさせてくれる”
—ニューヨーク・ジャーナル・オブ・ブックス
“まるで神父版シャーロック・ホームズ。国籍の違う魅力的なホームズを求める推理小説ファンにはぴったりの一冊”
—ブックリスト
“バタカンの見事なデビュー作にして、フィリピンを舞台にした初のサスペンス小説。あらゆる次元で入り組んでいて、示唆に富んでいる。続編が待ち遠しい!”
—ブックページ
■主な登場人物
・ガス・サエンス:神父、法人類学者。
・ジェローム・ルセロ:神父、心理学者。ガスの捜査の相棒。
・フランシスコ・ラスティモーザ:フィリピン国家捜査局(NBI)の長官。
・ジェイク・バルデス:NBIの副長官。
・フィリップ・マーパ:NBIの副長官。
・ベンジャミン・アーキナス:NBIの捜査官。弁護士の資格を持っている。
・ジョアンナ・ボニファチョ:テレビ局の事件記者。ガスの元教え子。
・アレックス・カルロス:歯科医。
・エミール:神父。パヤタスの教会に仕えている。
・イサガニ・ラミレス:神父。子供への性的虐待疑惑がある。
・ラファエル・メネセス:枢機卿。ラミレスの件を把握しつつ隠蔽している。
『Smaller and Smaller Circles』の翻訳者は、翻訳会社トランネットのオーディションで決定します。文芸作品の翻訳にチャレンジしてみたい方、この貴重な機会にぜひご参加ください。
リターンには書籍とオーディション参加費とセットになったお得なプランもご用意しています。
※オーディションの実施時期は2月初旬を予定しています。
詳細についてはプロジェクト成立後、オーディション参加費が含まれたコースをご支援くださった方に、
トランネットからお知らせ致します。