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アジアで書かれた文学をもっと世界へ届けたい!
フィリピン発の本格ミステリー小説
『Smaller and Smaller Circles(仮:迫る包囲網)』を翻訳出版したい!

新しい出版の流れをつくりたい! プロジェクトの狙いとその先にあるもの

こんにちは、サウザンブックスです。通常、初版部数が3,000~5,000部見込めないタイトルは、翻訳出版は難しいと判断されますが、1,000人の読者がいれば出せるしくみを作りたい!をモットーに活動しているサウザンブックスは、なぜトランネットと組んでこのプロジェクトを実施しているのか?
サウザンブックス代表の古賀が、プロジェクト発起人・トランネットの近谷浩二さんに、改めてお話を伺いました

 

 


古賀 そもそも、どうしてこの本をクラウドファンディングで出版したいと思ったんですか?

近谷 トランネットでは、出版社さんに未翻訳のおすすめの洋書を定期的にご案内しているのですが、本書『Smaller and Smaller Circles』(仮邦題:迫る包囲網)は、残念ながらどの出版社さんからも、翻訳版を出版したいと手が挙がらなかったんですよ。でも、どうしてもあきらめることができず、今回、サウザンブックスでクラウドファンディング・プロジェクトを立ち上げることになりました。

古賀 なにがそんなに翻訳出版を諦めきれない理由だったんでしょうか?

近谷 『Smaller and Smaller Circles』(仮邦題:迫る包囲網)はエンターテイメントとして面白いだけではなく、フィリピンの社会問題が鋭くえぐり出されています。日本でも子供の貧困が問題になっていますが、フィリピンの貧困問題といったら日本の比ではありません。ゴミ拾いをしてその日その日を生き抜く子供たち。腐敗に慣れきってしまっている警察組織。著者は、フィリピンのそのような状況が、本作を書いた90年代も今もまったく変わっていないと怒りをあらわにしています。
神父コンビがさまざまな社会悪と対峙するというユニークな設定もさることながら、スリリングな展開で一気に読ませてしまう本書は、フィリピンで出版されるとパランカ記念文学賞、フィリピン国民文学賞、マドリガルーゴンザレス賞を受賞しています。その後大幅に加筆され、中村文則さんの作品群の英訳版をベストセラーにしていることでも知られるアメリカの出版社Soho Crime から出版されました。



古賀 なるほど。海外ではお墨付きの作品なのに日本版がないのはちょっと悔しいですよね。

近谷 ここまででも充分に魅力を感じていたのですが、これは舞台裏話になりますが、この出版に関わった女性たちが半端なくすごいですよ!本書をアメリカの出版社Soho Crime に売り込んだのは、フィリピン、シンガポール、インドを拠点に活躍する女性3人からなる文芸エージェント、Jacaranda LiteraryAgentです。彼女たちは子育てをしながら、あるいは弁護士という安定した職業を投げうって、アジアの新しい才能を発掘することに情熱を傾け、アメリカやインドの出版社との橋渡し役として日々奔走しているんですよ。私は彼女たちが情熱を捧げる作品に強い信頼を寄せており、どうしても、この本を日本語化したかったんです。

古賀 確かに、その経緯は面白い。近谷さんが必死に応援する理由がわかりました。内容も世界展開した背景も面白い作品、それは、日本でも出したくなりますね。

近谷 これまでトランネットで翻訳させていただいた書籍の実に9割以上が、欧米圏の作品です。その理由は、多分に、日本が長らく欧米諸国に目を向けてきたということにあると思いますが、この機会に、今、アジア各国で萌芽している才能を皆様にも知っていただきたいとも考えています。

古賀 いいですね。このプロジェクトをきっかけに、初版部数が見込めないという理由で見送られるタイトル、どんどんしかけていきたいですね。海外では読まれているのに、日本では読まれていない本、本当にいっぱいありますよね。

近谷 はい、このプロジェクトが成立後には、トランネットが毎月配信している英文ニュースレターで海外約4000名の出版関係者に告知を行い、日本ではなかなか翻訳出版さない国の作品も、同様の仕組みで出版が実現できると働きかけていきたいと思っています。

古賀 それはすばらしい!フランフルトなどの大きなブックフェアでやりとりされなかった作品など、おもしろい本もいっぱいありそうですね。
私は、このプロジェクトは翻訳者さんもオーディションで選ぶという点も気にいっています。書き手も、訳し手も、新しい才能、どんどん発掘したいですよね。また、クラウドファンディングに参加いただくということでは、読み手も制作段階から参加いただいていると思っています。実際、これまでのプロジェクトでも、支援者からのコメントを参考に編集方針を固めたことも多いですし、本をとりまく様々な人が一緒に1冊をつくっていくイメージです。新しい出版の流れ一緒に作っていきましょう!

 

発起人:近谷 浩二(ちかたに こうじ)
1991年立命館大学法学部卒業。UCLA Extensionで映画製作の勉強をした後、全米映画俳優組合員に。帰国後、(株)トランネットに入社し翻訳出版プロデューサーとして世界の書籍を取り寄せて日本語版をプロデュースするとともに、国内の本を海外、特に欧米諸国で翻訳出版することに注力。現在は芥川賞作家や直木賞作家の海外でのブランディングにも従事。

 

2017/12/19 14:20