『i see the rhythm』は、ストーリーもさることながら、ダイナミックで躍動的な絵もその魅力のひとつ。その名画はどうやって生まれたのか?絵を描いたミシェル・ウッドさんにお話を伺うとともに、最近のお気に入りの楽曲なども教えていただきました!
この本を出版することになった経緯を教えてください。
私の最初の絵本である『ゴーイングバックホーム -アーティスト南部へ戻る-』がアメリカン・ブック賞を受賞するなどの評価を得て、その後、出版社のチルドレンズブックプレスの創業者、ハリエット・ローマ―が「もう一冊絵本を作りませんか?」と提案してくれたんです。どんな本を作りたいのか。誰と一緒にやりたいのか。いろいろと想いを巡らせた後に、私にとってとても慣れ親しんだ存在である音楽をテーマにすることにしました。
幸運にも私の知り合いの中には、レイマン・ジャクソンのような偉大なミュージシャンもいたんです。私たちは、彼をアクション・ジャクソンと呼んで親しくしていて、なんとビリー・ホリデーと共演した録音物を貰ったこともあるんですよ。残念ながら、それはなくしてしまったんですが。
他にも、多くのミュージシャンと知り合いで、彼らを通してたくさんのことを学びました。その一人、エブリン・ホワイツはトニー・ベネットが発掘したジャズピアニストです。『i see the rhythm』のジャズ・ウーマンのページでピアノを弾いているのはエブリンなんです。ピアノの上には彼女の名前を描いています。そのピアノの下にいる小さな女の子の名前はミッシーで、実はこれは私なんです。
私は、音楽とは音だけで作られているものではなく、すごく複雑で複合体であると考えています。リズム、歴史、文化、そしてアートなどが継ぎ目なくつながって複合体を作っていると思っています。
著者のトヨミさんとはどうのように仕事を進められたんですか?
トヨミと顔合わせをして、はじめに、あらすじを決めました。詩や文より先に絵を描くことにして、そのためのリサーチを実施しました。トヨミは私の絵を受け取った後に、自分の担当部分である、詩を書くことに着手しました。『i see the rhythm』のために、出版社の担当者のハリエット・ローマーと彼女の夫、グラフィック・チーム、そして、トヨミと私とでチームになって働きました。
『i see the rhythm』では、音楽と絵はどういう関係ですか?
音楽はすごく表現性が高いので、各人の学びや気づきの世界の可能性を開くものだと思っています。私たち人間は、それぞれが異なった方法で学ぶので、すべての感覚を活用することが重要だと思っています。これは私の信条です。
『 I see the rhythm』はとても表現豊かにしました。どの時代においても、「プランテーションのリズムが見える」というようなメッセージを読者に伝えてきます。
この「プランテーションのリズムが見える」のページの絵では、私はジョージア州の低地地域の米を育てている田んぼを捉えて表現しようとしました。アフリカの人々は、米栽培の知識をアメリカに持ってきたのです。人々は休むことなく働きました。湿地帯の田んぼで働いているときには、リズミックなハーモニーに乗せて作業しながら労働歌や霊歌を歌いました。霊歌は希望と自由を与えてくれるもので、複数の意味がありました。例えば、地下鉄道(奴隷を逃亡させる秘密のルート)で使われた歌には「Swing Low Sweet Chariot(揺れるチャリオット)」のように隠された意味がありました。「ヨルダン川を見渡すと何が見えたと思う?」という歌詞では、ヨルダン川はオハイオ川を暗示していて、天国という言葉は一般にカナダを指しています。逃亡奴隷の最終目的地はカナダでした。カナダは奴隷制がない国だったからです。
私は音楽の歴史を絵に描いていますが、音楽自体は描いていません。人々の心を捉えることが私のゴールなんです。読者には、それぞれ自分の人生の中にある音楽を「見て」ほしいと思っています。南部に住んでいることで情報はいろいろとありましたが、歴史を調べ、自分が語りたい物語を捕まえることに挑戦しました。
「プランテーションのリズムが見える」に関しては、この本が出版されてから数年後に、ジョージアの田んぼがあった場所を見に行きませんかとのお誘いがありました。そして、早朝5時くらいにその湿地帯に行きました。水はとても静かで波も無くまるでガラスのようでした。私たちの乗ったボートが軽やかに水の上を進むと、湿地がよく見え、田んぼで働く祖先の姿が目に浮かびました。
ジョージアの米栽培プランテーションを描きたいと思ったのは、誰もその話をしないからなんです。奴隷労働について考えると、誰もが綿のことを考えます。私が描く音楽は、人々が受け取るスピリットと喜びを捉えるものです。
日本人は黒人音楽というとゴスペルをイメージする人も多いです。ゴスペルは現代のアフリカ系アメリカ人社会で今でも重要ですか?
はい。今も健在です。
ブラックミュージックの歴史の中で、ゴスペルの重要性についてはどう考えていますか?
私が考えるにゴスペルの重要性は愛です。戒めの中でもっとも偉大なのは、「心を尽くし、思いを尽くし、知力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ。」(マタイ22:37)です。ゴスペル音楽は、主に捧げる美しい花束となる 愛の讃歌を織りなす糸のようなものなのです。「ほめまつるべき主」(サムエル記2-22:4)。
ゴスペルは、希望を産む愛のメッセージを広めます。希望は未来に届こうとすることです。「 わたしは、あなたたちのために立てた計画をよく心に留めている、と主は言われる。それは平和の計画であって、災いの計画ではない。将来と希望を与えるものである。」(エレミヤ書29:11)。キリストのゴスペルの美しさが「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」(マルコによる福音書12:31)と私たちに告げています。
私たちは、隣人として、喜びと心のエッセンスと、魂の美しさに満ちた人々の経験が織り上げたブラックミュージックの歴史すべてに存在する、ゴスペルをわかち合うことができるのです。
一番好きなブラックミュージックは何ですか?
やはりゴスペルミュージックは好きですね。でも最近は、シェキナ・グローリー・ミニストリーの「イエス」、ターシャ・コブスの「ブレイク・エブリ・チェイン」、エベンの「ビクトリー」などもよく聞いています。ソロシンガーが好きなんです。
日本の読者にメッセージをお願いします
イエス様は私たちにもっとも小さきものを愛しなさいと命じていらっしゃいます。愛のシンフォニーには偏見、人種差別、 虐待のかけらも見あたりません。愛の美しさが、私たちを見下ろすイエス様のお顔を輝かせています。愛が作り出すものは調和して生きることです。私たちに愛を向けてくださることに感謝します。皆様にお慈悲と恵みがありますように_。
Michele Wood
https://michelewood.com
《ミシェル・ウッドさんの最近のお気に入り》
『Break Every Chain(Live)』Tasha Cobbs
『Victory (Official Music Video) 』Eben