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人生は二度楽しめ! 新感覚イタリア旅行記
コミック『ヴィアッジョ イタリア』を翻訳出版したい!

大学講師、イタリア語翻訳家の京藤好男さんから応援メッセージ!

大学講師、イタリア語翻訳家、として幅広く活躍していらっしゃる京藤好男先生から応援メッセージをいただきました。

このメッセージで京藤先生は、イタリア全土の精神病院廃絶に成功し、世界に強い影響力を与えた精神科医バザリア(バザッリャ)の功績について触れられ、イタリアを「その精神性においてバリアフリー先進国」とおっしゃっています。
このコミックが生まれた原動力がどこにあるかを改めて伝えてくれるメッセージ、発起人も心を打たれました。是非お読みください。(発起人 荒木美弥子)
 


私はイタリア語に関連する仕事をしています。大学で講師を務めるほか、翻訳もしています。そんな私の元に「サウザンブックスにイタリアの作品が入るかも」という朗報が飛び込んできて、応援させていただきたくなりました。

本書は二人の男性がイタリアを旅する物語。そう聞くと、よくある話に思ったりもするのですが、彼らはともに障害者で車椅子の旅。そうなると旅の性質は一変し、驚きに満ちるのです。イタリアで、障害を持つ人の話を聞くとき、常に思い起こされるのがフランコ・バザッリャ(Franco Basaglia1924-1980, 日本ではバザリアと表記されることが多い)による改革です。彼は精神科医ですが、従来の患者たちに対する国の制度や病院の対応に激しい疑問を持ち、やがて世界で初めて国内の精神病院を全廃することに成功します。数々の困難を乗り越え、それを実現した1978年の精神保健法180号法は、彼の功績から「Legge Basaglia(バザリア法)」とも呼ばれ、孤児院の撤廃、隔離型盲学校の廃止など、イタリア社会を様々な角度から解放する根拠となっています。

そんな彼の勇気と行動、そしてその哲学は、障害者のみならず、社会的弱者を救う動きの支柱ともなり、今やイタリアはその精神性において「バリアフリーの先進国」とも言える存在です。本書の主人公のダニーロとルカはともに身体に障害を負う人たちです。車椅子生活を余儀なくされていますが、彼らはハンデをものともせず、様々な旅、スポーツ、アクティビティーに挑戦します。「挑戦」という言い方すら野暮ったいほど、彼らの行動は軽やかです。そんな活動が実現できるのも、バザッリャの精神を受け継ぐイタリアだからかもしれません。近年「持続可能社会」が声高に叫ばれていますが、様々な障害を持つ人を念頭に置く場合、その実践は簡単ではありません。社会に寛容さがあり、障害への深い理解がともない、また障害者一人一人も行動的で、開放的である必要があります。本書はそんな障害者のあり方、言わば新しい常識をイタリアの外にも示してくれているようです。

バザッリャはこんな言葉を残しています。

「病人はすでに、自由の喪失に苦しんでいる。それは病気だと解釈されるかもしれないが、その人は、施設の身体という新しい身体に属することを強制されているのだ。そのことが、その人がまだ生きていると感じ、自分自身であると感じさせてくれる、あらゆる欲求、あらゆる行動、あらゆる自発的な望みを打ち消している。その人は施設の中で、施設自身の身体構造の補完的な一部と見なされるほど、施設のために生きる身体になっている」

(Il malato, che già soffre di una perdita di libertà quale può essere interpretata la malattia, si trova costretto ad aderire ad un nuovo corpo che è quello dell'istituzione, negando ogni desiderio, ogni azione, ogni aspirazione autonoma che lo farebbero sentire ancora vivo e ancora se stesso. Egli diventa un corpo vissuto nell'istituzione, per l'istituzione, tanto da essere considerato come parte integrante delle sue stesse strutture fisiche.)

上文の「施設」を「車椅子」と言い換えてみてはいかがでしょうか。そうした社会的偏見から人々を解放したバザッリャの精神を、はからずも彼らが体現していることに気づくはずです。

さて実を言うと、私もこのサウザンブックス社のクラウドファンディング企画のおかげで翻訳出版を実現することができた一人です。フランスのバンド・デシネ作品、エティエンヌ・ダヴォドー作の『ワイン知らず、マンガ知らず(原題Les ignorants)』を2022年に上梓することができました。自然派ワインの造り手が主人公の物語ですが、実はこれも「持続可能社会」というテーマに通じます。私自身、これからの未来を考える上で重要なテーマだと思い、今の日本人では描けないものを代わりに描いてくれている貴重な作品と信じて、売り込み活動を続けました。しかし、その採用に当たり、最も足枷となったのが、マーケティング的な評価です。収益の見込みのない本は、その作品の価値にかかわらず世に出ることはないのです。そんな常識を覆してくれるのがサウザンブックス社のCF企画だと思います。言わば、翻訳出版の最後の砦。この企画を通して、発起人の荒木美弥子さんの思いが叶い、本書の日本版が軽やかに息づくことを願っています。
 



京藤好男(きょうとう よしお)

東京外国語大学博士前期課程修了。ヴェネツィア大学留学。慶応義塾大学, 法政大学, 中央大学、武蔵大学, 武蔵野音楽大学などで講師を務めるほか、市民講座やカルチャーセンターの講座も担当する。NHKラジオ, テレビの語学講座で講師及び監修にも携わるなど、様々なメディアで語学や文化の発信を続ける。コロナ禍以降、オンライン専用スクールTERRAイタリア語&カルチャースクール代表としても活躍中。2022年サウザンブックス社のクラウドファンディング企画を通じて、フランスのハンド・デシネ作品『ワイン知らず、マンガ知らず』(E・ダヴォドー著)を刊行。近書に 『イタリア語を読む』、『イタリア語ボキャビル・トレーニング』(ともに三修社)などがある。
 

2024/01/05 14:39