image

台湾発、中高年レズビアン17名の多彩な青春
『おばあちゃんのガールフレンド』を翻訳出版したい!

先読み原稿を公開!(その2)

こんにちは、サウザンブックスPRIDE叢書です。
『おばあちゃんのガールフレンド』出版プロジェクトへのご参加、誠に有難うございます。先日公開した、先読み原稿(その1)につづき、先読み原稿をご紹介します!

今回は、本書の作者である「台湾同志ホットライン協会」のワーキンググループ、老同小組(LGBT熟年ワーキンググループ)の紹介です。「あなたはやがて年を取り、私も老いていく。だから早めの配慮を」。時間は待ってはくれません。ポスト同性婚法制化の台湾社会が次に何を見据えているのか、この文章からちょっと覗いてみてください。
 


LGBT熟年ワーキンググループ(老同小組)紹介
中高年性的マイノリティのために私たちができる二、三のこと
文/鄭智偉(台湾同志ホットライン協会主任。LGBT熟年ワーキンググループ招集人)

はじめに、エピソードを紹介しよう。
2019年5月の終わりごろ、LGBT熟年ワーキンググループが主催する熟年レズビアンの集会でのことだった。ボランティアのリーダーの呼びかけで、この日の参加者たちに、自己紹介と35歳以上のレズビアンのためのこの集まりになぜ参加しようと思ったのかについて順番に話してもらうことになった。何人かは友達作りをしたくて参加したという。35歳以上のレズビアンが参加するのに適した集まりが世の中にはほとんどないのだ。この日のトークテーマに興味を持ち参加した人や、友達に誘われて参加したという人もいた。やがて参加者Jが話し始めた。50代のJにとって今回が人生で初めての、性的マイノリティの活動への参加なのだそうで、こんなに沢山の仲間に出会えたのもこの日が初めてだという。不安と恐怖のために、Jはこれまでの数十年間偽りの日々を過ごしてきたのだが、今年の5月17日に「司法院釈字第748号解釈施行法」、つまりいわゆる同性婚法が立法院を通り、Jはようやく国や社会が自分の存在を受け入れてくれたと感じることができたそうだ。こうしてJは50年あまり演じ続けてきた異性愛の舞台劇に幕を下ろし、翌日の5月18日からは、自分自身を生きることに決めたという。

もしも「ホットライン協会はこれまで何をしてきたのか」と質問されたなら、その答えとして私はこのエピソードを話すだろう。

私たちは台湾各地でジェンダー平等教育を推し進めてきた。教育こそが社会にはびこるホモフォビアを取り除くのに一番適した、そして最も根本的な解決方法だと信じているからだ。私たちは他の多くのジェンダー関連団体と一緒に、同性愛者ひとりひとりが平等に権利を有し、同性間の愛が法的な保障と社会の同意を獲得するために、同性婚法制化に向けて運動を続けてきた。私たちホットライン協会は、同志(LGBT)運動の中でも中高年の同性愛者に向けた支援に重きを置いて努力している。同性愛者たちが過ごしてきた日々を通して未来について考えるために、台湾の性的マイノリティの歴史を記録している。こうして2010年には55歳から83歳の12名のゲイ男性のライフヒストリーをまとめた『虹色バス旅行:高齢者ゲイ12名の青春の思い出』を出版した。彼らは戒厳令下の台湾における性的マイノリティに向けられた偏見にさらされ、いわれのない扱いを受けてきた。ある人は伝統的な家庭の価値観による婚姻のプレッシャーに屈し異性との恋愛や結婚を経て子孫を残し、ある人は高齢になってもなお自分の性的指向を受け入れられずにいるのだが、彼らは一貫して男性を愛し続けてきた。

この華人社会で初めての高齢ゲイたちによる口述筆記によるクロニクルはまた、ホットライン協会に台湾の高齢同性愛者のニーズを満たすためのより多くの根拠を与えた。そしてその後参加した多くの国家による長期介護政策の話し合いの場において、性的マイノリティコミュニティの見解を示す裏付けとして提示されるようになった。

だが、それでも不完全だということを私たちは知っている。なぜなら、華人社会で初めて出版されたその本の中には女性の性的マイノリティたちの声が含まれていなかったからだ。こうして私たちは中高年レズビアンたちの人生に耳を傾け目が向けられるようになることを願い、2012年からリソースとマンパワーを投入し始めた。こうして8年が経った今、みなさんが17名の中高年レズビアンたちの人生が克明に記録された『おばあちゃんのガールフレンド』を手にしているというわけだ。まだ台湾が閉鎖的で保守的だった時代に、彼女たちはそれぞれが虹色の豊かな人生を過ごしてきた。ある者は生活のために必死に働き、ある者は孫を持つ悠々自適なおばあちゃんとなり、ある者は愛する彼女と今でも寄り添い、ある者はこの世を去り極楽浄土へと向かっていった。そしてLGBT熟年ワーキンググループは台湾の同性愛者たちの人生を記録し出版しただけでなく、社会が進歩していくなかで、すべての当事者たちが孤独に陥ることなく社会に受け入れられることを願い、以下のサービスを提供する:

・熟年レズビアンのための「熟女レズビアンお話会」を開催し、35歳以上のレズビアンたちがより自由に仲間作りをしたり、ソーシャル・コミュニティの資源にアクセスしたりできるようなルートを作る。

・生老病死や同性愛者の歴史的課題についてコミュニティに理解を促進するために、私たちは毎年「光陰的故事(歳月の物語)座談会」を開催し、最近特に注目を集めている長期介護や疾病介護と看取りについて話し合う。今年はポッドキャスト版の「光陰的故事座談会」を公開し、コロナ禍においても個々人がインターネット経由で各テーマについて話を聞けるようにする。

・世代を超えた当事者の相互理解のために、私たちは「虹色バス旅行」を年に1、2回開催する。この日帰り旅行を通して異なる世代と知り合い、お互いについて理解することを目的とする。

・心身に障害をもつ当事者のために、長年にわたり「レインボー台湾手話グループ」を運営してきた。これは手話の学習を通し、同性愛者コミュニティがろう文化を理解することを目的としている。同時に、障害をもつ同性愛者と共に「心身障害同志(LGBT)活動」を行い、障害をもつ当事者たちが孤独にならないようにする。

・原住民族(台湾の先住民族)の当事者のために、ホットライン協会は「台湾原住民同志(LGBT)連盟」を立ち上げ、様々な活動を行っている。2018年には国民投票により傷つけられた原住民当事者たち*を元気づけサポートする活動を行った。(注釈*原住民族は7割をクリスチャンが占め、中国国民党の支持者が多い。そのため、2018年に同性婚の法制化は民法を直接に修正するかどうかを問う国民投票が行われた際に、右翼キリスト団体と中国国民党が「同性愛者は罪」「同性婚通せば国は滅びる」などというデマを拡散するのに動員され、その結果、原住民族のLGBTQ当事者は漢民族の当事者より一層強く傷つくこととなった(劉靈均))

私たちはまた、同志(LGBT)運動の中でも比較的マイナーなテーマ、例えば長期介護における性的ニーズの問題、安楽死や介護に携わる移民労働者の人権の問題などについて社会的なキャンペーンを行い、アンケートを実施し、記者会見を開き、他の社会運動団体と協働するなど様々な活動を行う。

「あなたはやがて年を取り、私も老いていく。だから早めの配慮を」がLGBT熟年ワーキンググループ設立以来の理念だ。社会が熟年同性愛者に関心を持つことや、コミュニティ自身が高齢化問題について思考を巡らし、また熟年同性愛者たちが抑圧されることなく年を重ねることができるようになることで、ポスト同性婚法制化の社会では、高齢化問題についてさらに多くのことがなされるようになることを期待している。

(翻訳:小島あつ子)

※原稿は作業中のものになります。完成版とは異なります。
 


台湾同志ホットライン協会主任で、
LGBT熟年ワーキンググループ招集人の鄭智偉さん

2022/08/09 13:22