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ぼくはゲイ「なんか」じゃない…。
地方都市に暮らす男子高校生たちの苦しみや友情と恋心を、
リアルに描く『ぼくの血に流れる氷』を翻訳出版したい!

一部先読み原稿を公開!(その3)

こんにちは、サウザンブックスPRIDE叢書です。「その1」 「その2」につづいて、一部先読み原稿を公開致します!今回は、自暴自棄になった主人公ダリオが、ゲイクラブで知り合った少年ホセに誘われ、一緒にトイレの個室に入っていくシーンになります。

※原稿は作業中のものになります。完成版とは異なります。
 


(ここまでの経緯:オスカルが新しい恋の相手セルヒオとデートしているところを目撃してショックを受け、自暴自棄になったダリオ。ゲイクラブで知り合った少年ホセに誘われ、一緒にトイレの個室に入ります)


 ちょっとムッとして目を開けた。でも彼はほほえんでいる。それから少しずつ、挑発するかのように頭を低くしはじめた。
「え……? マジで?」ぼくは消え入りそうな声で訊ねる。
「もちろん。どうしてそんなこと訊くの?」
 肩をすくめただけで、返事はしなかった。それで彼はさらに頭を下げ、舐めはじめた。気持ちをこめて。
 唯一の比較対象であるオスカルとは、はっきり言って全然違っていた。オスカルもうまかったけど、ぼくが初めての男なのはわかってた。オスカルはいつもためらい、遠慮がちで、不安そうだった。気持ちがこもっていたとは思うけど、自信がなさそうだった。だけどこのホセにとって、これが初めてじゃないのははっきりしている。動きに迷いがなく、手慣れているんだ。力強くて、熱がこもってて、エネルギッシュ。死にそうなほど飢えていて、ぼくを丸ごと飲み込みたいと思っているかのようだった。ぼくも、そうしてほしかった。
 それでも、オスカルのときと違う理由はそれだけじゃないと、どこかで気づいてた。オスカルがこうしてくれるときは別のなにかが、ホセにないなにかがあった。ホセは自分自身のため、そしてぼくの体のためにこうしているが、ぼくのためではない。ただ、これが好きだからこうしているんだ。多分相手を楽しませようという気持ちはあるんだろうけど、それが一番の目的ではない。オスカルのときとは真逆だ。オスカルはぼくのためにしていた。オスカルが望むのはただ、ぼくを幸せにすることだけだった。こっちが彼を喜ばせることはなくても、オスカルはぼくを喜ばせたいと思っていた。そして最悪なのは、ぼく自身、これはいいことじゃない、オスカルに対して不公平だとわかっていたことだ。それなのに、なにも変えようとしなかった。
 でも今は、すごく頭がくらくらしていて、もうそれ以上考えられない。だからただ、目を閉じて享受するだけにする。享受させられるだけにする。
 どのくらい時間が経ったのかわからないが、何回か、あまりの心地よさに爆発しそうになり、結局、この喜びに身をゆだねようと決めた。両手でホセの頭をつかんで勢いよく腰を振る。ホセは不平も言わず、されるがままになっている。彼のあげる、くぐもったようなうめき声に一層、狂おしさが募る。
 しばらくそうしていてから、ホセはほほを真っ赤に染め、目を見開いて立ち上がった。いつ脱いだのか知らないが、ズボンがくるぶしまで下がっている。激しくキスしてきて、それからポケットに手をやる。次の瞬間、手のひらになにかが置かれた。目をやると、四角いパッケージがあった。
「入れてくれ」
「なに?」
「おれに入れてくれ」
 心もとなくなって、辺りを見回す。
「ここで?」
「そうだよ」
「えーっと……」
「ほら、そうしたいんだろ」強い口調で言うと、ホセはぼくのを触る。うめき声が出た。
「でも……」
 ホセはコンドームを取り上げ、かみちぎってパッケージを開けると、流れるような動作であっという間にぼくに装着した。これもオスカルとは全然違う、自信にあふれてきっぱりした動作だ。それからホセは背を向けて、身をかがめ壁に手をついた。
「来いよ」

©︎Naoko Muraoka


※一部先読み原稿のまとめ

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2022/06/30 14:29