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舞台は昭和11年の台中市。
ひっそりと咲く少女たちの恋
台湾発の百合漫画『綺譚花物語』を翻訳出版したい!

『綺譚花物語』の一部翻訳をご紹介します(その2)

「庭院深深華麗島~小夜啼き鳥~」


 台中駅の東側に公園と見紛うばかりの広大な庭園を構えている「林家公館」。
 当主の冬玉舎とその若き妾である蘭鶯、そして冬玉舎の一人娘で跡取りとなる男装の令嬢、雁聲の三人が暮らしているこの屋敷には、その繁栄とは裏腹の、ある不吉な噂が流れていた。
「林家の屋敷には、幽霊がいる」。
 その噂は、事実だった。林家代々の当主たちは、家督を継いだその瞬間から幽霊を見、その肉体を奇病に蝕まれ、その苦しみと引き換えのように林家は繁栄を続けてきたのだ。

 

 

 大正十一年、公学校を卒業した十二歳の蘭鶯は、高等女学校への入学資格を得ていたにもかかわらず、家庭の事情で夢を絶たれ、林家の屋敷に女中奉公に出ることになる。そしてその四年後、彼女の親は蘭鶯を妾として冬玉舎に売り渡したのだった。
 十二歳の雁聲と出会った晩、純潔を失ったばかりだった蘭鶯は雁聲を「汚れていない、お金持ちなもう一人の自分」だと認識する。
 そしてそれから更に四年が経った昭和五年。雁聲は十六歳を、そして初潮を迎えようとしていた。

 

 

※林家公館のモデルは台中の名家「霧峰林家」の屋敷「宮保第」であり、当主の冬玉舎は日本時代を通じて「霧峰林家」の代表者だった名士の「林献堂」。「宮保第」の所在地は実際には台中市の東側郊外である霧峰区だが、ここでは台中駅の東側に数ブロックに亘る屋敷を構えていることになっている。これは「霧峰林家」がそもそもは台中市ができる前にこの地の中心部だった東墩エリアにも屋敷を持っていて、日本時代に入ってから物納されたその屋敷と庭園公園に整備されたのが、市中心部北側にある「台中公園」だという事実をベースとした設定。また台中駅の東南部には、林家の霊廟が今も残っている。また「霧峰林家」は幾つかの系統に分かれていて、林献堂の数代前に分かれた分家の名称が「太平林家」。『地上的天國』の英子の母の実家であり、『昨夜閑潭夢落花』のあきらの家である「太平林家」は、これをモデルとしている。

 


『無可名状之物~夢の通い路~』

 時は現代。
 台中市内の国立中興大学で修士論文を執筆中の院生、羅蜜容は、ネットで知り合った自称「オタクでヒッキーなワーキングプアニート」の女性、ハンドルネーム「阿猫」と共に、昭和の台中市エリア内に存在する廟を巡り、主神の祭壇の下にいるお使い神「虎爺」の写真を撮り、カフェで民俗学のおしゃべりに興じる日々を送っていた。
 博識な阿猫は、どこか猫のようなつかみどころのない女性で、随分仲良くなったはずなのに、蜜容はいまだに彼女の本名すら教えてもらっていない。

 

 

※蜜容の通う国立中興大学は、元は台北帝国大学付属の「農林専門部」で、昭和18年に台中市に移転して「台中農林専科学校」となり、戦後に総合大学となったもの。所在地は『地上的天國』で英子の住む李家の三合院があった台中市南の郊外にあたる頂橋仔(街の南側を流れる川、早渓に架かる橋があったことに由来する地名)辺り。このエリアは日本時代は市の郊外だったが、今は台中市南区に含まれている。

 

『綺譚花物語』一部翻訳その1はこちらから

 

(※作業中のテキストで、実際の書籍とは異なります。)

 

 

2021/10/08 12:52