『レディベコ』はギリシャの下層階級に愛された音楽で、大戦前のアテネを舞台にレディベコのミュージシャンたちのどうしようもない日常の物語です。
発起人の原さんとは私の前職の書店からのお付き合いですが、電車で1時間30分、駅から車で20分以上かかるところにある店まで来ていただき、私と二人で「海外コミック読書ガイド」というトークイベントをやりました(客は二人という状況でしたが涙)。
私は原さんから多くの魅力的な海外コミックを教えていただきました。
中でもエマニュエル・ギベールの『フォトグラフ』(大西愛子訳、小学館集英社プロダクション、2014年)は私のバンドデシネ観を決定付けた大傑作でした(残念ながら絶版)。
アフガニスタンに「国境なき医師団」と同行した写真家のノンフィクションコミックでありながら、アフガニスタンという不可思議な国に西欧人の精神が病んでいくという物語はコンラッドの『闇の奥』のような深淵さを感じられるものでした。
しかし現状この本が絶版となっているように、バンドデシネやグラフィックノベルといった海外のコミックは国内でも一部の専門店以外では書店でも見られる場所は多くなく、また海外コミックというものが存在していることさえ知られていない状況です。
ビジネスとしてみると海外コンテンツの中でも海外コミックというのは読者数も少なく、また知られる情報としても小さいのが現状です。
しかし海外コミックに関わっている人々とお話ししていると、ほとんどの人が作品のすばらしさ、豊かさ、驚きを語ります。そしてそれを多くの人に読んでほしいと願っています。
原さんからまだ見ぬ海外のコミックの話を聞いていると、世界のコミックのほんの一部、小指の爪の先ほどのものだけしか国内で翻訳されていない状況にもったいなさと読んでみたい欲求が湧き上がってきます。
しらない世界のコミックを読んでみたい。
私はこのギリシャが舞台の『レディベコ』を読みたい。
この単純な欲求は、しかし私たちが本を読むことの根源的な動機だと思うです。
読みたいと思った本が読めるようになる時代がこれからも続き、またこれからも続きますように。
最後に、リンク先のクラウドファンディンにて『レディベコ』翻訳出版へのご支援を賜れましたら、いち読者として幸いです。
※この文章は鈴木毅さんのnoteからご本人の許可を得て転載したものです。
鈴木毅(すずき・たけし)
書店員。たまにライターとイラストレーター。ウェブマガジン『あさひてらす』で小説《16の書店主たちのはなし》連載中。『偉人たちの温泉通信簿』挿画、『旅する本の雑誌』(本の雑誌社)『夢の本屋ガイド』(朝日出版)に寄稿。
作品名:16の書店主たちのはなし
小説:鈴木毅