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世界のマンガの翻訳出版レーベル・サウザンコミックス第一弾!
傑作バンド・デシネ『Rébétiko』(レベティコ)を翻訳出版したい!

作者ダヴィッド・プリュドムさんからメッセージが届きました!

『Rébétiko(レベティコ)』の作者ダヴィッド・プリュドムが、『Rébétiko』翻訳出版プロジェクトのためにメッセージを送ってくれました。ダヴィッド・プリュドムはこれまで5度来日にしている親日家。『Rébétiko』日本語版の出版を心待ちにしています。
 


はじめまして。ダヴィッド・プリュドムと申します。フランスのパリとボルドーを行ったり来たりしながら暮らしています。初めて日本を訪れたのは2004年。それ以来、5回日本を訪れることができました。毎回1カ月滞在しています。これまで日本で出版されたものには、バンド・デシネ作家のフレデリック・ボワレが編集に関わった『JAPON』(飛鳥新社、2006年)という本に収録された「おとぎの国」という短編があります。福岡では展覧会も行いました。現在フランスでは、相撲を描いた300点の作品を展示する展覧会を開催中で、それをもとにした『Sumographie(スモウグラフィ)』という本がソレイユ社(Éditions Soleil)から出版されました。
 


ダヴィッド・プリュドム


ある日、私は20世紀初頭のギリシャで何人かの人たちが関わり、少しずつある音楽が形作られていったことを知りました。彼らは下層階級に属し、社会の端っこで暮らすごろつきでした。屠殺場や港で働く貧しい労働者、小アジア(今のトルコです)からの難民、周縁に生きるはみ出し者。そんな彼らが作った音楽がレベティコです。

夜、煙が充満するカフェやいかがわしいバーで、男たちと女たちが、報われぬ恋や流謫の悲しみ、寂しい懐具合、警察への軽蔑の念、麻薬に溺れる苦しみ、自分たちが犯した悪事、そしてそんな状況にあっても決して失われることのない自分たちへの誇りを歌い上げます。レベティコは東洋の音階と西洋の音階を用い、そのふたつを結びつけていて、それゆえにかけがえのない音楽です。それはまた、当時の独裁者メタクサス将軍がレベティコのミュージシャンたちを迫害した理由のひとつでもありました。



『レベティコ』オリジナル版には未収録のイラスト


私はギリシャ語を話すことができません。ギリシャ語ができたところで、レベティコのミュージシャンたちはしばしば隠語を用いるので、翻訳は容易ではないでしょう。しかし、彼らの音楽は、その音と声で心に直接語りかけます。それらの歌はブルースやタンゴによく似ています。ユーモアとイロニーがピリッと利いていて、転落の人生から立ち直る手助けになってくれるのです。

この転んでもただでは起きないところが気に入って、私はこの物語を描きたいと思いました。これは友情の物語です。ある日、それが崩壊してしまいます。この物語が語るのはたった一日の出来事です。古典演劇の三一致の法則(時の一致、場の一致、行為の一致)を忠実に守りつつ、アリストテレス先生の教えに耳を傾けたのです。曰く、「行為は太陽がひと回りする時間を超えてはならぬ」。

本書は、かつて革新的だった形式が骨抜きにされ、甘ったるくなってしまうことを語る物語であり、
前衛とは周縁的なものであり、自らは前衛であることなど意に介さないことを語った物語であり、
権力というものは服従をよしとしない自由な声にくつわをはめようとするものだということを語った物語であり、
もともとは社会の周縁にあったこの音楽が、やがて全ギリシャの心をつかみ、その後世界中に愛好家がいるほどまでになったことを語る物語であり、
芸術というものが、こんな場所には生まれるはずがないという場所も含め、どんな場所にも誕生しうることを語った物語です。


『レベティコ』オリジナル版には未収録のイラスト


本書は1936年10月、メタクサスの独裁政権下のアテネを舞台にしています。
これは友情が崩壊してしまうある一日の物語です。5人組のミュージシャンたちの一日です。友情の崩壊以外にもさまざまな問題が想起されていきます。音楽がハーモニーを奏でるように。つまびかれたある音が別の音を招き寄せるように。
その日、主人公たちは自分たちにできることは何か、そして自分たちが決して手放すことができないことは何かを自問します。

それは、
荒くれ者たちの欲望と拒絶を描いた一日であり、
誠実さというものが問われる一日であり、
実は私自身が体験したことを脚色した一日でもあります。

この本が日本で出版されることを心待ちにしています。
皆さん、どうぞよろしくお願いします🙏

翻訳:原正人

2020/01/20 14:46