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世界のマンガの翻訳出版レーベル・サウザンコミックス第一弾!
傑作バンド・デシネ『Rébétiko』(レベティコ)を翻訳出版したい!

マンガ家川勝徳重さんにプロジェクト応援インタビュー!

こんにちはサウザンブックスです。川勝徳重さんは2018年9月に『電話・睡眠・音楽』(torch comics)を出版した注目の若手マンガ家。『レベティコ』翻訳プロジェクトが始まると、いち早く支援してくださった川勝さんに一問一答形式でインタビューしました!
 


 Q1:少し前にnoteに記事を書いてらっしゃいましたが、『レベティコ』の作者ダヴィッド・プリュドムの作品をいろいろとお持ちのようですね? どれくらい持っていらっしゃるんですか?

六冊くらいです。最初に買ったのはレベティコで、2012年ごろイタリアで買いました。どこも大きめの書店では平積みしてありました。ジャケ買いです。1930年代の音楽も好きなので、それも買う決め手でした。

ダヴィッド・プリュドムを数冊買う。


川勝さん所有のダヴィッド・プリュドム作品。『レベティコ』と『ルーヴル横断』の2冊がただいま行方不明とのこと。海外マンガ好きにはよくある話


Q2:特にお好きな作品はどれでしょう? その理由は?

『パトラン先生』です。描線が生き生きとしていますし、演出も洗練されてます。勿論『レベティコ』も大好きですが、パトラン先生はつい最近手に入れて新鮮だったので選びました。ただ話が読めないので、すべて日本語訳で読んだら選ぶ作品も変わるかもしれません。


『パトラン先生』(La farce de maître Pathelin, Actes Sud Editions, 2017) 


『パトラン先生』の中面


Q3:ダヴィッド・プリュドム作品の魅力はどこにあると思いますか?

過ぎし日への愛惜とクラシックなものに対する批評精神です。


Q4:そもそも川勝さんはどうやって海外マンガと出会ったのですか? 一概には言えないかもしれませんが、川勝さんにとって海外マンガの魅力とはどのようなものでしょう? それは日本のマンガの魅力とは異なるのでしょうか?

はじめて読んだ海外マンガは小学生のときに読んだシュルツ『ピーナッツ(スヌーピー)』です。絵もいいし、キャラもかわいいし楽しかったですよ。セリフが英語で書いてあって、コマ枠の外に日本語訳が書いてある本でした。どこにいってしまったんでしょう?なくしてしまいました。 フランスのマンガの存在は中学の頃知りました。「大友克洋がメビウスの影響を受けている」という有名な話がきっかけです。ただ実際にメビウスを読むと思ったのと違いガッカリしました。絵が思ってたより淡白だったんです。はっぴいえんどが好きでバッファロー・スプリングフィールドを聴いたら思ってたのと違った、というのと似てるかもしれません。私みたいな人、結構いるんじゃないでしょうか。 ハマったきっかけは2010年に国書刊行会から三冊のBDの叢書が発売さたことです。その第1巻であるパスカル・ラバテ『イビクス』にショックを受けました。絵もそうですが、ロシア革命の時代を背景にした壮麗な物語に惹かれたのです。その後、海外マンガの翻訳ブームのようなものがあって原さんの訳した本もたくさん買いました。途中から、デジタルの塗りのBDの翻訳が多くなり、追ってゆく気力をなくしました。洋画的なタッチのマンガが読みたくてBDを集めていたのですが。


国書刊行会から出版された「BDコレクション」


パスカル・ラバテ『イビクス―ネヴローゾフの数奇な運命』(古永真一訳、国書刊行会、2010年)


ラバテとプリュドムは共作をしてますね。『イビクス』のときとは違い肩の力が抜けた洒脱な描線の漫画ですが、二人とも絵がめちゃめちゃうまいですし、いつかこちらも邦訳を読みたいです。


『ビーチ万歳!』(Vive la marée!, Futuropolis, 2015)


『ビーチ万歳!』の中面


Q5:『電話・睡眠・音楽』の表題作「電話・睡眠・音楽」は、開きも絵の描き方もバンド・デシネを思わせるもので、とても印象的でした。実際、バンド・デシネを意識されていたのですか?

直接的にはマヌエル・フィオールの『L’Intervista』を参考にしてます。右開きと左開きが共存している単行本の構成は、フレデリック・ボワレ『恋愛漫画ができるまで』を意識しています。 余談ですが先日、出口雄大『水彩学 よく学びよく描くために』という本を買いました。この本も右からは水彩画の歴史が書かれ、左からは水彩画の技法を実践的に紹介する、という構成になってました。とても刺激的な本でした。リチャード・ワーグマンの『東禅寺浪士乱入図』を日本の水彩画受容の最初期の作品、なんて指摘目からウロコでした。


マヌエル・フィオール『会見』(L'Intervista, Coconino Press, 2012)



『会見』の中面


Q6:「電話・睡眠・音楽」はひと晩の物語で、初めて読んだときに、うわ、これは『レベティコ』だと勝手にテンションが上がったのですが(笑)、これは偶然の一致ですか?

さァ、どうでしょう?


Q7:まだ日本語には翻訳されていないけど、ぜひ翻訳してほしいという海外マンガがあれば、教えてください。

昭和20年代のアメリカの怪奇漫画、犯罪漫画をまとめて翻訳してほしいです。スーパーヒーロー以外の戦前アメコミをまとめて読みたいですね。ロマンスものとか。特にボブ・パウエルという作家が気になるのですが……。他だとジョージ・ヘリマン『クレイジーカット』の編年体の全集がアメリカで出てると思うのですが、その翻訳を読みたいです。


1950年代のアメリカの怪奇ものの復刻

ヨーロッパのものだとプリュドムやラバテ、ニコラ・ドゥボン、フィオールをどんどん訳して欲しいですね。あとイゴルドの『ファッツ・ウォーラー』。ファッツ・ウォーラーは私が大好きなジャズピアニストでシンガーソングライターです。私好みの海外漫画は中々訳されなくて悲しいですね。


イゴルト『ファッツ・ウォーラー』(Sampayo & Igort, Fats Waller, Intégrale, Casterman, 2005)


『ファッツ・ウォーラー』の中面


『Les Pieds Nickelés』も読みたいですね。アンナ・カリーナが『気狂いピエロ』で読んでる本です。勝手に南部正太郎の『ヤネウラ3ちゃん』みたいな情感のあるマンガかな?と思ってますが。海外マンガは読めないときに「ああだこうだ」と想像をふくらませてる時期が一番楽しいです。 中国の連環画の水滸伝や三国志じゃない現代ものの翻訳も読んでみたいし、黄玉郎『小流氓』のシリーズなんか早く訳して欲しいですね。インドにもB級のアメコミもどきがあるらしいのですが、ラジニカーントを模したマンガなんかありそうなんで、そういうのも読みたいですね。利益がでるのかわかりませんが。


中国の連環画


中国の連環画の中面


Q8:最後に、今後の予定について教えてください。

ル・レザール・ノワールから『電話・睡眠・音楽』フランス語版出ます。多分……。


川勝徳重(かわかつとくしげ)
1992年生まれ。漫画家。2010年『幻燈』(北冬書房)にてデビュー。単行本『電話・睡眠・音楽』(リイド社)、『十代劇画作品集』(セミ書房)。 最近は昭和20年代の赤本漫画を集めてます。

撮影:田中かえ


★好評発売中!

書名:電話・睡眠・音楽
著:川勝徳重
発売年月:2018年9月
ISBN:9784845860012
発行:リイド社

2020/01/17 13:10