海外のマンガを読むと「マンガっていろんな可能性があるんだ」と気づかされる。それはこり固まった「マンガ感」をほぐし、自分のなかにもうひとつ「窓」が開くような感覚だ。
本作『レベティコ』は戦争の足音聞こえる1936年のギリシアを舞台にした、音楽と自由を愛した「やくざ者」たちの物語だ。憲兵に目をつけられ、やくざ者たちは、夜のバーで隠れるように「本当のこと」を歌う。だからこそ彼らは愛され、ある者たちからは疎まれる。人生の悲哀に寄りそってくれる音楽と、美しい馬鹿騒ぎと、夜のあたたかさ。この作品が開けてくれた「窓」からはそんな親密な夜風が入ってくるにちがいない。
この『レベティコ』が日本語に翻訳され、できるだけ多くの人、――とりわけ夜と自由と音楽を愛する人たち――の手に届きますよう。人生で忘れられない一冊になるはずだ。
森泉岳土(もりいずみ・たけひと)
マンガ家。水で描き、そこに墨を落とし、細かいところは爪楊枝や割り箸を使ってマンガを描く。著書に最新刊の「村上春樹の『螢』・オーウェルの『一九八四年』」のほか、「セリー」、「報いは報い、罰は罰(上・下)」「ハルはめぐりて」「耳は忘れない」「夜よる傍に」「祈りと署名」、「カフカの『城』他三篇」、「うとそうそう」など。ほか、いとうせいこうフェスのメインビジュアルや大林宣彦監督作品「花筐/HANAGATAMI」ポスターなどイラストや、柴崎友香「寝ても覚めても」装画なども多数。
書名:村上春樹の『螢』・オーウェルの『一九八四年』
原作:村上春樹、ジョージ・オーウェル
マンガ:森泉岳土
発売年月:2019年12月
ISBN:978-4-309-29058-4
発行:河出書房新社