マンガはやっぱり絵と文とコマの組み合わせで楽しみたいもの。どんな雰囲気の作品なのかより具体的にイメージしていただけるよう、ダヴィッド・プリュドム『レベティコ』の数ページを仮に翻訳してお届けします。
※あくまで仮の翻訳なので、将来日本語版が成立した場合、最終的な仕上がりは若干違った形になっている可能性があります。
1936年10月のある日、スタヴロスとバティス、アルテミスの3人のレベティコ奏者が、アテネのシングルー刑務所に向います。その日、彼らの仲間で一緒にグループを組んで演奏していたマルコス・ヴァムヴァカリスが半年ぶりに出所することになっていたのでした。
「レベティコ」とは、20世紀初頭にギリシャで生まれた大衆音楽のこと。地理的、政治的にも関係の深いトルコの音楽の影響を強く受け、都市部の下層階級の人々のあいだで大流行しました。
その年の8月、軍人上がりのメタクサスが首相になってからというもの、社会のはみ出し者であるレベティコ奏者たちに対する締め付けは厳しくなる一方でした。彼らはそんな窮屈な社会で肩身の狭い思いをしながら、体制に反抗し、せいいっぱい自由を謳歌しようとします。
3人はマルコスが出てくるのを待つあいだ、刑務所の正門の外で即興の演奏を始めます。
無事に再会を果たしたマルコスとスタヴロス、バティス、アルテミスは、個人的な都合で合流の遅れた“犬っころ”と呼ばれる仲間を加え、再会を祝してバーで久しぶりのセッションを楽しみます。ハシッシュの煙に包まれながら、彼らが曲を演奏すると、それに合わせて客がレベティコ特有のダンスを躍ります。
ところが、夜も更け、騒ぎを聞きつけた警察が店にやってくると、マルコスらは店主から店を出ていくよう言い渡されます。一同は別の店に向かい、再び演奏に興じます。
やがてその店でも別の騒動が持ち上がります。大混乱の店を抜け出した一同は、新しく仲間に加わった歌姫のベバを自宅に送り届けるために、夜明けの海へと漕ぎ出します。オールを漕ぐバティスは、景気づけにひとりずつ曲を演奏するよう提案します。
マルコスの出所から始まった波乱続きの長い一日が、まもなく終わろうとしていました。マルコス、スタヴロス、バティス、アルテミス、犬っころ、ベバは、それぞれの思いを胸に朝を迎えることになります。