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日本初のレズビアンマザー絵本を誕生させたい!
絵本『In Our Mothers’ House (ママたちの家で・仮)』を翻訳出版して
全国の学校や図書館に届けたい!

元タカラジェンヌ/LGBTアクティビストの東小雪さんインタビュー:人生の選択肢として、目に見える実例があることのたいせつさ

東京ディズニーシーでの同性結婚式、パートナーシップ証明書取得第1号など常にLGBTに関する大きな話題の中心にいた東小雪さん。時には壁にぶつかりながらも、LGBTの権利獲得のために信念に基づいた活動をしてきた。フロントランナーとしての苦労とはどんなものだったのか。そして誰もが生きやすい社会を作りたいという思いの根源とは−−−。



■今にして思えば特殊だった宝塚の世界

宇田川しい 東さんは宝塚歌劇団のご出身ですけれど、僕はずっと女役−−−いや、娘役というのかな、だと思っていました。実は男役でいらしたんですね。あと、東小雪さんてとても綺麗なお名前なので宝塚時代の芸名かと思っていたら本名でらっしゃるという……。

東小雪 よく言われます(笑)。

宇田川 勝手に分かったような気になっていることって多いですね(笑)。反省しました。

私は170センチと長身なので、男役を選びました。大体165センチ位が娘役と男役の分かれ目です。

宇田川 宝塚というのは女性だけでありながら、というか、であるがゆえに女・男というジェンダーロールを強調しなければならないですよね。俗に「歌舞伎の女形は女性以上に女性的」なんてことを言われるような意味合いにおいて。プライベートでも、なにしろモットーが「清く正しく美しく」で品行方正な女性像を演じきることを求められるイメージがあります。そういう世界にいて自らのセクシュアリティとの齟齬を感じたということはあったのですか?

私が宝塚にいたのは10代の後半から20代の前半で、まだその頃はジェンダーという言葉も知りませんでした。セクシュアリティについてもよく考えたことはなく、とにかく宝塚に憧れて入りましたから、そんなものかと思って受け入れていましたね。

宇田川 なるほど、宝塚で頑張っていこうと必死だったわけですもんね。

でも、たしかにおっしゃるようにジェンダーロールが強調されている面はありますよね。宝塚はみんな女性なのに男女別の世界なんです。

宇田川 男女別?

基本的にすべて男役と娘役にはっきり分かれて行動することになります。たとえば衣装部さんに呼ばれるときなんかも別々に呼ばれるわけです。男役と娘役の衣装はまったく違いますから。今、考えれば特殊な世界ですよね。もっとも私は下級生の頃に退団してしまいましたし、当時はカミングアウトするなんてことは考えもしませんでした。

ただ、高校を卒業して入団する時点でレズビアンという自覚はありましたから「宝塚に入れば“なんで結婚しないの?”って言われなくてすむなあ」というのは思っていましたね。宝塚は、在団中は結婚してはいけない決まりですから。


■日本初の同性結婚式、そしてパートナーシップ証明書

宇田川 宝塚を退団後、2010年にカミングアウトしてLGBTの権利に関わる活動を始められています。その後、2013年に東京ディズニーシーで同性結婚式。これが日本のディズニーリゾートで初の同性結婚式ということで話題になりました。

本当になにげないきっかけからだったんです。ディズニーで新しいウェディングサービスのプランを始めるというニュースを見て、いいなと思ったんですよ。でも、「あれ? これ同性カップルだと利用できないのかな?」と思って問い合わせてみたのがはじまりでした。

宇田川 結婚式が大きく報じられたことでなにかご自身の生活に変化はありましたか?

反響は大きかったですね。当時はまだLGBTという言葉も出始めといった頃でしたから。

宇田川 2012年に『週刊ダイヤモンド』と『週刊東洋経済』の2つの経済誌がLGBT特集を組んだのがいわゆる「LGBTブーム」のきっかけとされていますから、まだ緒に就いたばかりですもんね。

周りの人が応援してくれましたし、みんながおめでとうと言ってくれたので本当にうれしかったです。

宇田川 一方で、「同性同士の結婚を子どもがいるディズニーリゾートでするなんて!」など、ずいぶん酷いことを言う人もいたのを覚えています。そしてディズニー結婚式第1号であるとともに、その後、渋谷区のパートナーシップ証明書第1号にもなるんですね。

2015年の4月に渋谷区のパートナーシップ条例(渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)が施行されて、受付開始が10月末だったんですね。その間、手続きの準備をしながらどうなるんだろうとドキドキしつつ待っていました。そして11月5日に第1号の証明書を受け取っています。私の時は手続きを司法書士の方にお願いしたんですが、今は以前より手軽に利用できるような工夫もされてきているようですね。


■第1号であることの困難と影響力

宇田川 ところで、話は変わりますが、そしてちょっとデリケートな話題ですが、昨年末にパートナーシップを解消されていますよね。その件でもやはりいろいろなことを言う人がいますけど、僕はとても勇気のいる決断をしたと思うし立派だと思いました。同性同士で結婚する権利はもちろん、離婚する権利だってあるわけです。レズビアンもゲイも当たり前に結婚するし離婚もするよということを示せたと思います。

パートナーシップを解消したといっても相変わらず仲は良いんです。ただ、パートナーとして一生、暮らしをともにするという関係ではないよねということを2人で話し合って決めました。

宇田川 東さんのこれまでの経歴を見ると、ディズニーリゾートでの同性ウェディング第1号であり、渋谷区のパートナーシップ証明第1号であり、そしてパートナーシップの解消についても第1号ではありませんが報道で取り上げられた最初期の例になっています。

なにごとも一番はじめというのは非常な困難があってやりとげるには大きなパワーを必要とします。それをやってこられた東さんを僕は尊敬しています。安全なところから無責任にいろいろなことを言う人もいますけど、そういう人には「じゃあ、あなたがやりたいことを自分でやればいいのにね」って思うんですよ。

……それで、ですね。牽強付会かもしれないですけど、この『In Our Mothers’ House』はファンドが達成して出版されると日本で初めてのレズビアンマザーを題材にした絵本になるんです(笑)。だから、絶対に達成したい。その時にどんな反響があるのか楽しみにしているんです。

目に見える実例があるってことは大きいですよね。人生の選択肢として「これもありなんだな」って思えることは大事だと思います。多くの人は身近な先輩の姿を見たり、メディアでさまざまなニュースや創作物に触れながら自分の人生を考えます。もちろん私もそうでした。次の世代が自分の人生を考える時に、マイノリティでもいろんな選択肢があるんだと感じられるような社会を作っていきたいですね。『In Our Mothers’ House』もきっとその役に立つのではないでしょうか。

 



東小雪(ひがし・こゆき)
元タカラジェンヌ/LGBTアクティビスト。2013年日本のディズニーで初の同性結婚式、2015年には渋谷区パートナーシップ証明の第1号となる。テレビ出演、講演、執筆等幅広く活動。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)、『同性婚のリアル』(ポプラ社)などがある。

オフィシャル・ブログ
 

2018/04/11 11:55