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若いLGBTの声を元に書かれた
スペインのゲイ小説「ぼくを燃やす炎」を翻訳出版したい!

MEIJI ALLY WEEK代表・松岡宗嗣さんに聞いた「僕がサバイブできた理由(ワケ)」

こんにちは、サウザンブックス「PRIDE叢書」編集部です。このたびは『ぼくを燃やす炎』プロジェクトをご支援いただき誠にありがとうございます!

オープンリーゲイとして活動する大学生で、MEIJI ALLY WEEKの代表として学内にアライを増やす活動を行っている松岡宗嗣さんに、ご自身の中高生時代についてのお話を伺いました。


 

MEIJI ALLY WEEK代表・松岡宗嗣さんに聞いた「僕がサバイブできた理由(ワケ)」

 

松岡宗嗣さんはオープンリーゲイとして活動する大学生。MEIJI ALLY WEEKの代表として学内にアライを増やし、誰もが通いやすい大学にする活動を続けている。またニュースサイト、ハフポストに投稿するブロガーでもあり若い世代のアクティビストとして情報を発信している。セクシュアル・マイノリティの多くは若い時期に悩みや不安を抱えており、深刻な状況に追い込まれる人も少なくない。松岡さんはどうやってそんな状況を乗り越えてきたのか? 今、悩んでいるティーンがサバイブするためのヒントを聞いてみた。

 

笑いにすることでごまかしていた自分……

 

宇田川しい セクシュアル・マイノリティの多くは若い頃に自分のセクシュアリティのことで悩んで、時には死すら考えるくらい追い詰められてしまうこともあります。『僕を燃やす炎(仮)』もそんなティーンエイジャーが主人公です。僕もやっぱり若い頃には自分のセクシュアリティについての悩みや不安をいっぱい抱えていた。だけどそれを乗り越えてオッサンになるとそういうの忘れちゃう(笑)。というか忘れたフリをしている人が多いと思うんですよ。だから松岡くんみたいな若い世代にセクシュアル・マイノリティとしてどうサバイブしてきたかを聞きたいと思ったんですよね。それは今、悩んでる若い人たちを救うヒントであり、オッサンたちにはもう一度セクシュアリティについてきちんと捉え直すきっかけになると考えたわけです。

 

松岡宗嗣 僕自身が自分のセクシュアリティに気付いたのは小学校高学年の頃だったと思います。ネットなんかで情報を得て思ったのはこれは“誰にも言っちゃいけないんだろうな感”。小中学校の頃はそういう漠然とした不安感を持っていました。漠然とお母さんに何て言おうとか、漠然と結婚して子供を作ることもないんだろうなとか。子どもなりに社会のレールから外れちゃうみたいなことは考えていましたね。まだはっきりゲイだと自覚していたわけではないので女の子と付き合ったりもして、その結果、高校生になるくらいにはやっぱり自分はゲイなんだと思うようになりました。それからはゲイとして生きていく腹をくくった感じですね。

 

宇田川 それは自分がゲイであることを肯定できたということ?

 

松岡 言っちゃダメなんだろうなとは思っていて、でも、自分にウソをつくのはイヤだなという思いのせめぎ合いでしたね、高校時代は。完全に肯定できたわけじゃないと思います。笑いにしてごまかしていたんです。例えば同性の友だちにハグして「おまえホモかよキメえ!」みたいに言われるのを持ちネタみたいにしてたり。みんなが笑ってくれるならそれでいいかなと思ってた。でもネタの最後は「ホモ、キモい」なんでチクチクと心は痛んでました。

 

宇田川 それはやっぱり辛いよね……。

 

松岡 でも自分の存在を完全に否定されているわけではないからいいんだと思ってました。友だちの間では、「ほんとは異性愛者だけどホモ的な身振りをするやつ」みたいな位置づけでしたね。でも「おまえどっちなの結局?」って聞かれることもあって、そういうときは冷や汗ダラダラかきながら笑ってごまかすみたいな感じでした。それで早めに話題を逸らすみたいな。

 

宇田川 あえてゲイを自分で笑いのネタにしたっていうのはどういう心理だったんだろう?

 

松岡 どんな女の子が好きって聞かれたら毎回、アンジェリーナ・ジョリーって答えてたんですよ(笑) 下手にリアリティがある名前を上げると突っ込んで聞かれるじゃないですか。アンジェリーナ・ジョリーだと「おまえ、それ、ありえないだろ!」って笑いで終わるんですよ。

 

宇田川 アンジーに感謝だね(笑)。

 

松岡 深掘りされるのがイヤなんですよね。だったらむしろ笑いにしちゃえっていう。今にして思うと笑いにするか隠すかしかなかった。メディアの影響も大きかったと思います。テレビでいわゆるオネエタレントが笑いをとってるから自分もそうしなきゃいけないんじゃないかみたいな。ああいうふうになりたいわけじゃなかったけど、ゲイっていうのは世間からみたら変でおかしなものなんだっていう刷り込みがあったので、じゃあ笑いに変えるしかないなっていう。

 

宇田川 ゲイっぽいということでいじめられることはなかったんだ?

 

松岡 中学も高校も楽しかったですし、いじめられてるという意識はしてなかったですね。でも、絶対に「気持ち悪い!」で終わるネタですからね、全部。そこを辛いと思ったら学校に行きたくなくなってたと思います。

 

宇田川 そういう気持ちが積もっていくのはつらいよね。

 

松岡 本当の自分と乖離していくというイメージがありましたね。

 

大学入学後の懇親会でいきなりカミングアウト

 

宇田川 高校までは名古屋で、明治大学に入学して東京に来たんですね。

 

松岡 高校時代にはすでにTwitterなんかでゲイの友だちとつながっていて、その中には東京の子もいたので、上京してすぐにゲイの友だちと会いました。

 

宇田川 SNSでつながれるっていい時代になったよね。オジサンはうらやましいっすよ!

 

松岡 正しく活用できればマイノリティにとっては強力なツールですよね。TwitterのLGBTコミュニティへの貢献度ってめちゃくちゃすごい。まず、自分1人じゃないんだって分かるだけでも気持ちが楽になると思います。それでも周りで聞くとTwitter使うのも怖かったっていう子もけっこう多いんですよ。そういう子は孤立してしまう。そこは人によって違いがありますね。

 

宇田川 東京に出てきてすぐにゲイの友だちともリアルできて、けっこうはじけちゃったみたいな感じ?(笑)

 

松岡 高校を卒業するタイミングで地元の友人や母親にはカミングアウトして受け入れてもらえました。まあ、どうせもう名古屋には帰らないみたいな気持ちもあってのカミングアウトだったんですけどね(笑)。名古屋は好きなんですけど。自分の居場所がないと思っちゃったんですよね。

 

宇田川 地方の閉鎖的な環境もあってカミングアウトしたら地元をすてなきゃみたいなところがあるのは悲しいけどね。地方での活動ってこれから大事だと思う。ただ反面、「もう東京来ちゃえばいいじゃん」って気持ちも僕は正直言ってあるんだよなあ……。

 

松岡 大学では入学してすぐの懇親会でいきなりカミングアウトしたんです。最初すごくびっくりされました。びっくりされて終わっちゃうと困るので気になることは聞いてほしいって言ったんです。それでコミュニケーションしながら打ち解けていけました。すでにカミングアウトした地元の友だちは受け入れてくれましたけど、「今までの宗嗣はウソだったの」みたいなことも言われて。だから大学ではなるべく早くカミングアウトしようと決めてました。

 

宇田川 東京のゲイライフが楽しそうだなって思って上京してくる人は多いけど、その中で松岡くんみたいにアクティビズムに目覚める人とそうじゃない人がいるよね。なにかきっかけがあったの?

 

松岡 大学入ってからしばらくは同じゲイの友達とよく遊んでました。でも2年生になったくらいから周りを見ていろいろ考えるようになったんですよね。自分はカミングアウトしていて、大学もだいぶ楽に通えているんですけど、カミングアウトしていないゲイの友達の話を聞くと、大学はめんどくさくて、週末にゲイの友達と遊ぶために生きてるみたいな。もちろんそれも良いことなんですが、本当はどちらでも自分らしく生きられるはずで、そうできないのは全然その人たちのせいじゃないのになって思って。やっぱりメディアの影響が大きいんじゃないかと。

 

宇田川 メディアに出てくるゲイはみんなオネエタレントみたいな人だし、世間のイメージするゲイってそういう人たちだよね。だからそうじゃない人がカミングアウトしにくくなってるってことはあるかな。

 

松岡 オネエタレントの人たちが悪いわけじゃないと思うんですよ。

 

宇田川 メディアの側がそういうイメージだけを要求するからね。

 

松岡 だからどこにでもいる大学生っていう風貌の自分がゲイであることをオープンにして社会に出ていくことでイメージを変えていけるんじゃないかなと思ったんです。そこからLGBT関連のNPOに関わるようになりました。そこでさまざまなセクシュアリティの人と知り合う中で、自分の中にも固定観念があって男はこうあるべき女はこうあるべきみたいな規範にも縛られてたんだなあと気づけたんですよね。そういう気づきを重ねることで、より正確な知識を伝えたいという思いが強くなりました。

 

 

受け止めてくれる人がどこかに必ずいる

 

宇田川 その後、自分でMEIJI ALLY WEEKを立ち上げるわけですけど。

 

松岡 大学でお世話になっている先生のジェンダー論の授業でゲストスピーカーをしたことがあるんです。その時にアライについて話したらリアクションペーパーの9割くらいに「アライになりたい」って書かれていた。困っている人がいたら味方でありたいって思っている人がとくに若い世代には多いんだと気付いた。せっかくそういう気持ちがあるんだったらSNSで可視化してもらおうと思ってはじめたんです。

 

宇田川 プライド叢書はセクシュアル・マイノリティ自身が情報発信していくことを目的としているけど、同時にアライの人たちに参加してもらうこともとても重要だと思っているんですよ。そして本を読んでアライになってもらうことも。社会の偏ったイメージを変えていくために。

 

松岡 学校教育でも様々なセクシュアリティの人がいることを教えられて、LGBTであることが特別なイメージではなくなればいいですよね。

 

宇田川 今、悩んでいる10代の子たちにアドバイスはありますか?

 

松岡 僕自身は笑いにすることで乗り越えてきた面がありますけど、今はそれがいいとは思えないですね。誰か1人でも自分らしさを受け止めてくれる人がいたら救われると思うんです。そして、どこかには受け止めてくれる人が必ずいるはずなんです。それは家族とか友だちとか近い関係ではないとしても。だから絶対に諦めないでほしいですね。


 

「学校ではいろいろなセクシュアリティの人がいることを教えられない。男らしさや女らしさといった規範を押し付けられてしまう。そういう固定観念がなくなってLGBTであることも完全にフラットなイメージになればいいですね。そういう社会にしていくためにもプライド叢書にがんばってほしい」

 

松岡宗嗣(まつおか・そうし) 愛知県名古屋市出身。明治大学政治経済学部4年。オープンリーゲイの大学生としてLGBTへの理解を広げるNPOなどで活動。その後、アライを増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを立ち上げる。

 

(撮影:波多野公美)

 

2017/07/03 13:51