皆さま、『ボルジアの血脈』翻訳出版クラファンへのご支援・応援、本当にありがとうございます! クラファンは残すところあと6日となりましたが、ここに来て大きく伸び始め、支援者416名、達成率63%となりました。折り返し地点を過ぎ、あと30%台で成立です!
Maedaxさんは、瀬口たかひろ先生、久米田康治先生、畑健二郎先生などの週刊漫画家の元で15年アシスタントをし、キャラとしてマンガの中にも出没したことのある名物チーフ・アシスタントでした。
現在は「アシスタント背景美塾」の塾長ということで、マンガ作画の具体的なテクニックや、テクニックを選択し適用する発想の仕方そのものを伝授し、多くの受講生たちから絶大な支持を集めています。
今回は、そんなMaedaxさんに作画技術から見た『ボルジアの血脈』のお勧めポイントについて語ってもらいました。
『ボルジアの血脈』のマナラの作品は、作画発想のためのアイデアの宝箱!
絵を見ればすぐマナラさんがルネサンス絵画を意識した構図や表現に強い関心があることが伝わってきます。実際にインタビューではボッティチェリの絵画から特に影響を受けてこの作品を描いたとも言っているようです。彼の作画と日本のマンガとの違いはこのルーツにあると僕は思うのです。西洋画から発展した表現なのか、それとも日本の鳥獣戯画、略画、風刺画などから発展した表現なのか、その違いが構図など作画の根底に大きな差を生んでいるのではないでしょうか。
日本のマンガの源流には、葛飾北斎、歌川国芳、月岡芳年、あるいは小林清親などの系譜が脈々と流れています。田河水泡氏の『のらくろ』や手塚治虫先生らに、これが受け継がれ、それが日本のマンガのメインストリームとなってきました。
しかし日本人が小さい子供の頃に自然に触れることのない「西洋の絵画」が、マナラ作品には色濃く反映されています。これは単に幼少期に触れられる文化的な背景の違いによるものでしょうが、こうした違いから西洋画が根底にあるマナラの作画と日本のマンガでは、たとえ同じ「マンガ」という形式であっても、その発想や行き着く先が根本的に異なっているのだと感じるのです。
そしてこの「行き着いた先が違う」フランスのマンガを見ることで、自分自身が行き詰まった時や発想の助けが欲しい時に、ヒントが得られるのではないか。僕はそう思うのです。過去に触れたことのある日本のマンガを読むよりも、自分が知らない刺激が詰まっているマナラのような作品を手に取った方が行き詰まりを解決できる、そんなことがある気がします。
マナラ作品の構図を見ると、いわゆる何か違和感を覚えるわけですが、クリエイティブな活動をする際の「いつものエンジンとは違うエンジン」がかかる感覚をも同時に覚えるんです。
マナラさんの作画のような西洋画からイメージが膨らんだ表現は、僕たちがこれまであまり経験したことのない刺激であって、(写真などのように模写するための)単なる「資料的価値」以上の価値を持つと思います。だからこの作品『ボルジアの血脈』は、まさに作画のアイデアや発想の詰まった宝箱と言っていいと思うんです。
違和感がクリエーターのスイッチを入れる!
【画像1】
いくつか例をお見せしたいのですが、まずわかりやすい例ですと、例えば最初の【画像1】です。様々なポーズを見てください、姿勢の取り方とか関節の曲げ方とか、とても西洋画っぽいですよね。画像右のナイフを出して男の中腰姿とか、ロバを引いている男の姿勢とかマンガではあまり見ないですよね。
【画像2】
これはヒロインのルクレツィアとジュリア・ファルネーゼが描かれているコマですが、これなどはポーズも日本的じゃない大袈裟な感じですが、表情もかなりそうですよね。人物が3か所に分かれている構図や、それぞれのアクションが独立しているところなど、やはり西洋画っぽいですね。
【画像3】
このコマは時間に関してなのですが、初見でかなり戸惑いますよね。本は左綴じですから、左手上の方から見ていくのでしょうけど、左手前から父ロドリゴとミケロットが入ってくるところが描かれ、同時に右側の階段を降りてくる人が描かれています。二つの方向から読んで真ん中で鉢合わせるようになっている。これは普通のマンガを読んでるとあり得ない。このコマですごい刺激を受ける。彼ら以外にも書かれている人物がいて止まっているけれど全体として何か輪を描いている。これも何か違和感がある、でも、これをただのルール違反と断じるのではなくて、スマホで写真撮って反転させたらどう見えるのだろうかといった感じで、自分で当たり前と思っている日本のマンガのことを意識するきっかけにするんです。というか、これだけの精緻な作画の中にいきなりこういうコマが飛び込んでくると、クリエーターだったら、自然とエンジンがかかって解析しちゃうと思うんです。
【画像4】
僕は一点透視図法でこのコマみたいなのは見たことがないです。これもまさに西洋的なもので、日本のマンガでは描かれないです。この構図を一点透視で描くのも難しいですが物語の中で演出上の意味を持たせてうまく使うのはきっとそれ以上に難しいです。このような発想はマンガにはない。少なくとも僕は見たことがない。こんな使い方もあるのかと演出上のアイデアの新たな発見でした。
【画像5】
インタビューでマナラさんは「額縁を意識した」と言っていましたが、この「額縁」とは何だろうと思いました。まずは小さいコマを使わず、なるべく大きく並べた大きめのコマを使う、もっと言えば大きな正方形のコマを意識的に多用するという意味だと理解しました。実際そういうコマ割りです。でもそれは結果じゃないか。僕はここで言う「額縁」とはコマを囲む「枠線」のことだけではないと僕は考えたわけです。むしろそれはリアルの「額縁」、つまり美術館に展示してある状態の絵画のことも意味してたんではないかと。実は西洋の絵画の伝統に親しんでいない僕たちからすると、ここには大事な意味があります。「額で飾られた絵」とマナラさんが言う絵は、実際に読む時は作品の中でコマ割りされている。西洋の人には大差ないかもですが、もうこの時点でマナラさんの絵は、僕たちには本来の美術館の絵画よりもかなり近しい存在になっていると思うんです。『ボルジアの血脈』の絵は、マナラさんの言う美術館にあるような「額で飾られた西洋画」だけれども、僕たちにとってはコマ割りしていることでより親しみやすくなっている。そう感じます。そしてこれが僕たちがアイデアを摂取し易くなるという利点になっている。
繰り返しになりますが、そういうコマにはやはり僕らの知らない西洋画のアイデアが詰まっている。構図もですが、人物の表情やポーズも、僕たちがあまり見たことがないものが多い。例えば、上の画像のようなモブキャラがアクションしているような大ゴマでも、一人一人のアクションが僕たちには馴染みのないポーズでアクションをしています。最初の【画像1】と同じです。おそらく、西洋の人が読むよりも、この種のコマを僕たちたちはもっとじっくりと読み込むことにならざるえないでしょう。このあたりの事情がコマの配置や大きさに加えて『ボルジアの血脈』が僕たちに刺激を与え易くなっている要因なのです。
【画像6】
【画像7】
このコロシアムのような場所での戦闘シーンの描き方は受講生たちによく質問されるんです。バトルマンガなどでコロシアムを舞台にすることは多いのですが、実際に資料を探そうとすると、アニメ的なものばかりで、本格的なコロッセオなどの資料はなかなか見つかりません。ですので、このコロシアムのシーンは非常に参考になります。マナラさんは、コロッセオの形をしっかりと描きつつも、背景はかなりふんわりと描いています。これは作画カロリーの都合もあるかもしれませんが、コロシアムのような広い場所で光が当たると、遠景はかなりぼやけるだろうという意図があるはずです。つまり、「しっかり描けばいいわけではない」という示唆を与えてくれます。強い陰影をつけ、ピントを戦闘している人物に合わせ、奥はぼやけさせながらコロッセオを見せる。このカメラの位置取りや構図は、非常に参考になります。僕自身がこのコロシアムの悩みをよく聞かれるからこそ、「ほら、ここに正解があるじゃないか」と感じました。もし、誰かに「コロッセオを描きたい」と言われたら、僕はこの作品を勧めたいですね。
クラウドファンディングのススメ
このように日本と異なる文化的背景のマンガを読むことは、クリエーターが何かに行き詰ったときに異なる発想を見せてくれるという意味で、刺激になるし、具体的なヒントにもなります。でもマナラさんだけでなく、海外のマンガ作品は現在の日本では高額で取引されているため、かなり入手し難いです。今回のクラウドファンディングを通じて、より手に取りやすい形で出版されることは、若いクリエーターにとって非常に意義深いことだと感じます。ぜひとも成功して欲しいと願っています。
MAEDAX(マエダックス)
鹿児島県出身。
福岡の短大卒業後、瀬口たかひろのアシスタントとして2年半活動。
その後12年に渡り週刊連載のアシスタントを勤め、チーフアシスタント的な役割も担う。
兄弟子にあたる畑健二郎は「プロのアシスタントとしては恐ろしく有能でもの凄い技術の持ち主」と評する。
「MAEDAX」名義で声優名鑑に載るなど多方面の活躍があり、漫画家アシスタントとして日本で一番の知名度を誇る。
独立後、フリーのアシスタントを経て2013年11月、アシスタント背景美塾を立ち上げる。2025年現在、対面での初級講座の受講者数は2,700人。
アシスタント背景美塾のHP:https://haikeibijuku.com/
いかがでしたでしょうか? Maedaxさんには実際には一時間以上も話していただき、今回、皆さまにお届けすることができたのは、全体の半分くらいです。言及してるコマやシーンの数で言うと半分もないかもしれません。
そこで、実はMaedaxさんにご許可をいただき、このインタビューの完全版を「副読本」に掲載できることになりました。そのときには、時間をかけてより良い形にしようと思っています。「副読本」の中身についてはすぐにお知らせしますので、数日お待ちください。
では、皆さま、残り6日間、最後までどうかよろしくお願いします。