こんにちは、サウザンブックスです。
原書の発行元であるペンギンランダムハウス社のニューヨークのオフィスにて、著者のジョージ・タケイさんを、本書の翻訳者の北丸雄二さんが取材してきましたので、その内容をご案内いたします。
読み応えがある取材記事です。ぜひ、SNS拡散していただけましたら嬉しいです。
クラファン成立まで、ご協力のほどをどうぞ宜しくお願いいたします。
「スールー」である意味
多様性をドラマで訴えた『スタートレック』
トランプ再選の1週間後、マンハッタン・ミッドタウンのこの絵本の出版社(ランダムハウス)応接室に、ジョージ・タケイ(87)は夫ブラッド(70)といっしょにやってきました。杖をついていますがすこぶる元気そうで、ふだんはロサンゼルスに住んでいるけれどニューヨークにもアパートメントがあって、ことあるごとにやってくるのだと言います。時候の挨拶がわりに今回の大統領選のことに触れると、ジョージはにこやかだった顔を険しくして「暗黒だ(darker)」と言い切りました。
なにせ87歳のこの俳優は、絵本に描かれる第二次世界大戦中の日系アメリカ人強制収容キャンプの人権侵害に関して、レーガン政権下の1988年に議会に公式に謝罪・補償させる運動に参加していた闘士でもあります。さらに2005年、当時のアーノルド・シュワルツェネッガー知事が州議会で可決した同性婚法に拒否権を発動した際には、ブラッドとともに公式にゲイ男性としてカミングアウトして、猛烈な怒りの抗議活動も行いました。
インタビューは興味深いエピソードから始まりました。日本のファンにとってはジョージは『スタートレック(当初の邦題は「宇宙大作戦」)』の「ミスター・カトー」で有名ですが、オリジナルの英語版ではジョージの役名は「スールー」なのです。それがなぜか日本語の吹き替え版では「カトー」になった。そのことに話を振ると、日本での放映開始直後に東京を訪れた時のことを話してくれました。
「デパートに行くと、10代の若者のグループが私を見て指さしてミスター・カトー、ミスター・カトーと言うんだよ。別の階でも同じで、私は訳がわからなくていっしょにいた日本人の友人に聞いたんだ。"誰かカトーという謎の男がずっと私をつけまわしているのか?"って(笑)」
きっと日本語版の制作者が日本にルーツを持つジョージの役を、日本に馴染みのある名前に寄せて「加藤」と変えたんでしょうね。私がそう説明すると、ジョージはそれは良くない間違いだと言うのです。
「原作者でプロデューサーのジーン・ロッデンベリーがあのドラマで描きたかったのは『無限の組み合わせの中の無限の多様性(infinite diversity in infinite combinations)』という哲学なんだ。シリーズの始まった1960年代のアメリカは大変な混乱の時代だった。公民権運動があった。平等を求める平和的なデモのアフリカ系アメリカ人に警察が暴力的に襲いかかっていた。ベトナム戦争もあった。戦争反対と戦争賛成で国が二分し、私は反戦運動に加わっていた。特に大学生たちはベトナムに平和をと訴えて、そこでも警察や州兵が鎮圧に動き、オハイオ州ケント大学では4人が州兵の銃撃で亡くなり、9人が重軽傷を負った。
ジーン・ロッデンベリーはいろんな人間が共存できるドラマを作りたかった。けれどテレビは広告メディアでもあって、公民権とか平和運動とかの議論が分かれるテーマを扱いたくない。それでジーンは3世紀後の23世紀を舞台に、地球を宇宙船に見立てたドラマを考えた。
あれは比喩なんだ。さまざまに多様な人たちが同じ船に乗り込んで、それぞれの才能、経験、知識を持ち寄って共に問題を解決する。それはアメリカの姿なんだよ。
そう、その中にはアフリカ系もいる。アジア系もいる。私の役の"スールー"はアジア系の象徴だ。でも、アジア系といっても多様だよね。田中とか北丸とかは日本人だし、ワンは中国、キムは韓国人だ。そんな多様なアジアを表せる名前はないものかと、ジーンはオフィスで地図を広げ、壁に貼って眺めたんだよ。で、見つけた。
フィリピンの沖にスールー海というのがある。そしてその水はアジアの国々のすべての海岸線を辿っている。だから私の役名は”スールー”なんだ。”カトー”じゃ意味が違う」
なるほど、ジョージ・タケイの人生はすべてこの「多様性」に裏打ちされていたのです。しかもそれは長く生きてきて得られた人生の結論ではなく、人生のごく初期において彼に刻み込まれた出発点でした。
次回はその彼の原点であり、今回の絵本の舞台でもある日系アメリカ人収容所の話を紹介します。(続く) 北丸雄二
ジョージタケイさん。ペンギンランダムハウス社のニューヨークのオフィスにて
左から、ブラッドタケイさん、ジョージタケイさん、北丸雄二さん
※インタビューの続編は近日中に公開します。お楽しみに!