応援メッセージをどなたにお願いしようかと思った時に、「引き受けていただけるわけないよなあ」と思いつつ、翻訳家の大先輩である三辺律子さんの名前がまず頭に浮かびました。
三辺律子さんは児童書やYA作品を中心に翻訳家として第一線で活躍されていらっしゃいますが、グラフィックノベルの翻訳も手がけられています。グラフィックノベル界のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞を受賞した、ティリー・ウォルデンの『アー・ユー・リスニング』(トゥーヴァージンズ)を以前、三辺律子さんの翻訳で拝読しました。そのとき、私も日本の読者にこんなに素敵でわくわくする作品を届けられたら! という思いを抱きました。
ダメ元で応援メッセージをお願いしたところ、なんとご快諾いただき、ご多忙の中、仮訳のついた『ハチクマの帰還』を読んだ上でメッセージを寄せてくださいました。その中で絵のことについて言及してくださっているのが特にじんときました。グラフィックノベルにしては白黒でちょっと地味かもしれないと、訴求力の面で少し心配していたのです。このクラファン中は翻訳者の諸先輩方の温かい人柄に触れることが多く、たびたび励まされています。ありがとうございます。
(川野夏実)
今、グラフィックノベルが熱い!
世界じゅうの傑作マンガを次々日本に送り出しているレーベル〈サウザンコミックス〉のファンの方にとっては、もう“常識”だと思うけれど、このサイトを初めてのぞいたという方に向けて、ほんの短い説明を。
グラフィックノベルとは、海外の「マンガ」。日本では、フランス語の「バンドデシネ」という呼び名も知られている。日本のマンガとなにがちがうの? という質問の対する答えは、「同じ」。ただ、日本語で読めるグラフィックノベルは、星の数ほど出ている作品のなかから選ばれ(わざわざ翻訳出版され)たものなので、おもしろさは保証済みだ。アート作品として部屋に飾りたくなるようなもの、世界の抱えるさまざまな問題を鋭くえぐるもの、世界共通の悩み(恋愛、家族、仕事……)を描いたものなど、読み応えのある作品が数多く出版されている。
一昔前までは「マンガ」を文芸作品に劣る娯楽ととらえる向きもあったが、今では、さまざまな文学賞の受賞作にグラフィックノベルが入っていることも珍しくない。旬のテーマをいち早く扱うことができ、娯楽性も兼ね備え、イラストとテキストの組み合わせで直感的に読めるグラフィックノベルはまさに「今」の文芸と言えるだろう。
そして、この『ハチクマの帰還』も、そうしたグラフィックノベルの特色が存分に発揮されている作品だ。父の代からの小さな書店を営むシモンは、ある日、女性が自殺するところを目撃してしまう。それをきっかけによみがえる少年時代のトラウマ、閉店を余儀なくされた書店の整理、妻との関係、ミステリアスな少女との出会い、少年時代の夢や、友人関係……さまざまなテーマが交錯する。
そんな中で、やはり注目してほしいのは、「絵」だ。自殺する女性の表情とポーズ、シモンの家に飾られた夫婦の写真、本がぎっしり詰まった本棚、セリフはなくシルエットだけで描かれたある決定的なシーン。読者は、そこに何を読み取るだろう。
アメリカ、フランス、台湾、チェコ、イスラエル、〈サウザンコミックス〉のラインナップにオランダ作品が加わるのが、今から楽しみでしょうがない!
翻訳者 三辺 律子(さんべ りつこ)
英米文学翻訳家。白百合女子大学、フェリス女学院大学講師。主な訳書に『タフィー』『エヴリデイ』『ルビーが詰まった脚』『嘘つきのための辞書』『黒馬物語』など。グラフィックノベルの訳書に『ローラ・ディーンにふりまわされている』『アー・ユー・リスニング』『THIS ONE SUMMER』。共著に『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150』、『子どもの本 ハンドブック』ほか。翻訳家・金原瑞人氏とともに海外小説を紹介するフリーペーパー『BOOKMARK』監修。
★好評販売中!
書名:黒馬物語
著:アンナ・シューウェル
翻訳:三辺律子
発売年月:2024年5月
ISBN:978-4334103200
発行:光文社
★バンド・デシネ&グラフィックノベル特集掲載
書名:翻訳者による海外文学ブックガイド2 BOOKMARK
編著:金原瑞人、三辺律子
発売年月:2013年8月
ISBN:9784484222417
発行:CCCメディアハウス
支援者数はまもなく150名超え、4分の一達成が見えてきました!!