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書籍『LGBTヒストリーブック日本運動史編(仮)』を制作発行したい!

制作状況のお知らせ(後藤純一)

 今年2月、荒井元首相秘書官の差別発言をきっかけに、G7広島サミットまでにLGBTQ差別禁止法を!と求める声がにわかに高まりを見せました。LGBTQコミュニティから岸田政権にLGBTQの人権を守る法整備を求める署名も立ち上がり(5万筆を超えました)、「Marriage For All Japan」から要請書も提出され、LGBT法連合会など3団体が差別禁止法などの法整備を訴え、全国のプライド団体が一斉に声を上げ、MFAJが森首相補佐官に面会、プライドハウス東京やLGBT法連合会が岸田首相と面会し、院内集会「LGBTQ+緊急国会 ~理解ではなく差別の禁止を!」が開催され、要望を伝えました。宮沢氷魚さんら著名人も声を上げ、全国23県の知事が共同で緊急声明を発し、各社世論調査で(自民党支持層ですら)も同性婚への賛成が反対を大きく上回る結果が出ました。性的マイノリティの子を持つ親の有志の会が「子どもたちの命を守る法整備」を要望し、にじいろかぞくは「#岸田総理に手紙を書こう!プロジェクト」を立ち上げました。経団連会長もLGBT法整備の審議が進まない状況に苦言を呈し、日本を除くG6各国とEUの7人の大使が連名で書簡を送り、3月にはG7に向けてLGBTQの人権保護と政策提言を促進する新たなエンゲージメントグループ「P7(Pride7)」が設立、史上初の「P7」サミットが開催され、内外で法整備を求める声が高まりました。しかし、与党は(議論の過程で再び差別的な発言も飛び出しつつ)「性自認」を「性同一性」と、国に推進するよう求める多様性の「調査研究」を「学術研究等」に修正するなど「どうにか差別する余地を残したい」がゆえの改ざんだと批判されるような「骨抜き」の法案をサミット前日に国会に駆け込み提出、同時に野党は2年前に与野党合意を見た超党派議連作成の原案を国会に提出し、維新・国民が「シスジェンダーへの配慮」規定を盛り込んだ独自案を発表して猛批判を浴び、サミットでは有意義な首脳声明が発せられたものの、法案については、議員立法は全会派一致での議決が原則ということもあり、審議も進まず、このまま廃案となるのではないかと思われていたところ、急転直下で6月9日、「全ての国民が安心して生活できるように」との留意条項が入るなどした維国独自案の内容を丸呑みした修正案が急ごしらえで提出され、衆院で強行採決されるという、寝耳に水の、驚愕の展開となり、LGBT法連合会などが厳しく批判し、翌週にはTransgender Japanの方たちが中心になって国会前などで三日三晩、抗議集会を開き、たくさんの方たちが反対の声を上げましたが、その声は届かず、15日、参院内閣委で採択され(その際、トランスヘイトを主導してきた人たちが参考人として招聘され、ショックを与えました)、16日に可決・成立してしまいました…。2年前のLGBT理解増進法案国会提出見送りのときよりも差別発言・ヘイトが激化し、落胆や憤りや悲しみがコミュニティ内に広がり、「こんなにひどいプライド月間はなかった」との声が漏れるような6月でした。
 私はLGBTQメディアを運営する者として、この怒涛のような情勢の変化を追いかけ、院内集会やP7サミット、LGBT法連合会の記者会見なども可能な限り取材し、LGBTQ+Allyコミュニティに向けてレポートしてきました。1月までは全く予想もしていなかったことです。取材や原稿書きに追われる日々でした。
 
 この間、LGBT法の議論の高まりと軌を一つにして、SNS上でのトランスヘイトも激しくなり(とある施設で知事からもお墨付きをもらってるなどと言ってジェンダーレスのトイレや更衣室の使用を迫られ、それを拒んだ職員が退職に追い込まれたなどというデマも流布され)、二丁目でヘイト街宣が行なわれ、まさかのドラァグクイーンすらもバッシングを受けるような、明らかに「バックラッシュ」と呼ぶべき動きが起こっています。
 こうしたバックラッシュは今に始まったことではなく、2000年代にジェンダーバイアスを取り除こうとする「ジェンダーフリー」の動きが盛り上がった際、「ジェンダーフリーは男女同室着替えを目論む」といったデマに基づく対抗言説によって、男女共同参画基本計画でジェンダーという言葉を使うことすら咎められたり、七生養護学校事件を端緒としてまともな性教育ができなくなったりということがありました。昨年来、こうしたバックラッシュに極端なイデオロギーのカルト教団が関与してきたことや、これまでの全国の「性の多様性」条例やパートナーシップ制度などにも教団が地方政治に入り込んで妨害を行なってきたことも明らかになってきています。おかげで、現在のバックラッシュや、攻撃的なアンチ派のおおもとに何があるのか、問題の根本は何なのかということが見えやすくなりました。 

 こうした政治状況や激化するバッシングに、ryuchellさんの訃報なども重なり、深い悲しみに包まれ、肩を落とし、希望を失いつつある方も少なくないのではと危惧してやみません。しかし、5月30日の「結婚の自由をすべての人に」訴訟名古屋地裁判決や、7月11日の経産省職員トランス女性の逆転勝訴のような素晴らしい判決が出たこと、実に喜ばしいことですし、社会は着実に変わってきていると思えます。90年代以前、性的マイノリティが“日陰者”で“差別されて当たり前”だった時代から見れば、なんとたくさんのことが実現してきたことでしょう。
 6月14日に参議院議員会館前で行なわれた「LGBT差別増進法に抗議する緊急大集会」で北丸雄二さんは、「僕たちはみんな10代の頃、たった一人で闘ってましたよね」「僕たちが、国会の論議にまで進んできたのは、褒めていい」「今日、ここには数百人の仲間がいる」「闘いは国会だけじゃない。裁判もやっている。たとえ参議院で可決されても、終わりじゃない」「少数者を保護するための法案が多数派への配慮などと謳うのは民主主義ではありえない。独裁。専制政治です。怒りは当然です。でも、この怒りは、ここで終わらない」「アメリカでも何度も何度も負けています。でも、あきらめずに闘い続けてきたんです」「ウガンダの人たちも、こうして日本の僕たちを見て、闘っている人たちがいると、力づけられるはず」「10年前には考えられなかったことが達成されています。ちょっとずつ良くなっています。それを信じて」「僕たちは絶望から始まった。疲れたら休んでいい。その時は僕らが頑張る。でも続けましょう」と語り、コミュニティのみなさんを勇気づけました。
 私たちが進めつつある本は、(北丸さんが翻訳した『LGBTヒストリーブック』に倣って)これまでのコミュニティのみなさんの闘いの歴史をまとめ、若い方たちやこれからコミュニティに加わろうとする人にも届け、「あきらめずに闘い続ける」力の源になればという思いで作るものです。
 上半期の予想もしなかった情勢の動きに翻弄され、少し制作が滞っていたりはするのですが、日本で初めてプライドパレードが行なわれてから30周年を迎える来春のTRPまでには必ずお届けしたいと思っておりますので、温かい目で見守っていただければ幸いです。

2020.7.20
後藤純一

2023/07/21 13:54