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書籍『LGBTヒストリーブック日本運動史編(仮)』を制作発行したい!

LGBTQ運動の歴史を記述するひとつの試み 我々はどこから来て、どこへ行こうとしているのか?(鈴木賢 明治大学法学部教授)

こんにちはサウザンブックスPRIDE叢書です。
プロジェクトへのご参加有難うございます!
セクシュアル・マイノリティの人権運動に多岐にわたって長く取り組まれている、明治大学法学部教授の鈴木賢さんから、応援メッセージを頂きました!
 


LGBTQ運動の歴史を記述するひとつの試み
我々はどこから来て、どこへ行こうとしているのか?

 コロナ禍から正常な生活へと戻るなかで、今年は日本各地でプライドパレードやレインボーマーチなどと銘打った虹色の野外イベントが華やかに開催されています。1994年に東京、地方都市では1996年に札幌から始まったLGBTQの存在を昼間の日常空間に可視化させるイベントは、いまや北は小樽から南は那覇まで、全国の大都市はもちろん、中小の都市まで含めて各地で行われるようになりました。日本中、どこにでもLGBTQは存在する、こうした当たり前の事実をようやく社会に示す時代が到来したのです。
 他方、東京都では2022年11月からパートナーシップ宣誓制度が施行され、ついに日本の全人口の6割を超える自治体で同性カップルを生活ユニットとして承認するようになりました。また、5つの地裁で6件の裁判が闘われている「婚姻の自由をすべての人に訴訟」では、昨年3月の札幌地裁での民法違憲(実質勝訴)判決に続いて、今年6月には大阪地裁では一転、残念な合憲判決が出され、11月末には東京地裁でも判決を迎えます。こうしていま、この国を覆い尽くしてきた異性愛だけを想定して社会を組み立てる在り方が、音を立てて方向を転換する曲がり角に来ています。
 しかし、こうした現象はなにも「自然に」生じたわけではありません。これまでしつこく、繰り返し発せられてきた異性愛主義への異議申し立ての声が、ついに少しだけ社会を動かし、こうしてようやく目に見えるようになったのです。本書はそうしたLGBTQたちの声がどう発せられてきたのか、日本のLGBTQはどこから来て、どういうルートを辿ってここへたどり着き、これからどこへ向かおうとしているのかを、一筆書きで素描しようとするものです。
 私は『台湾同性婚法の誕生 LGBTQ+アジア燈台への歴程』(日本評論社)という本を書きました。その際、同志諮詢ホットラインという当事者団体を立ち上げ、長年、台湾のLGBTQ運動に携わったゲイの活動家(喀飛さん)が書いた『台湾LGBT運動三十年』(一葦文思)という本を大いに参考にしました。日本語ではこれまで『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』(ジェローム・ポーレン著、北丸雄二訳、サウザンブックス社、2019年)のように、外国での「自分を生きる」社会の実現のための運動史を描いた本はありました。しかし、肝心の自分の国でどういう歴史的経緯があったかを体系的に書き下ろした本がありませんでした(その時々に書いた文章を集めて、一冊にしたものとしては、永易至文『LGBTヒストリー』春風社があります)。LGBTQへの社会的な関心が高まるなか、日本のLGBTQの社会変革運動の歴史を知りたいと思う人は多くなっているように思います。
 この本は長年、この運動の中心で活動してきた二人のゲイが、おもに執筆することになっています。LGBTQなどというカテゴリーが成立する前から運動に関わってきた当事者が現場で経験し、見聞きしてきた歴史を大胆にまとめて見ようというものです。歴史記述には必然的に事実の単純化や取捨選択、筆者なりのオリジナルな解釈がともないます。それゆえ立場や属性、経験の違いによって、複数の異なる歴史物語を編むことが可能です。この本は将来に向けてひとつの歴史解釈の在り方を読者に示そうとする試みにすぎません。何も唯一の「正しい」歴史を書こうとしているわけではないのです。とにかく日本のLGBTQ運動に関する通史的な著作がないいま、社会的関心の高まりに応えようと、筆者たちがいわば清水の舞台から飛び降りるような覚悟で、大胆に歴史を文字にしようとしています。
 歴史解釈は永遠に広く全世界の人に開かれています。その最初の一歩をこの本で踏み出す。それにより日本をLGBTQがより自分らしく生きることができる社会にすることに貢献したい。そういう熱い思いでこの本を出版するプロジェクトが立ち上がりました。この本がきっかけとなって、今後、いくつもの違ったバージョンが描かれるようになればどれだけ素晴らしいことでしょう。読みたいと思う多くの方のご支援を得て、なんとしても出版にこぎ着けることを願っています。どうかLGBTQ、そしてマイノリティの人権問題に関心を寄せる皆さんのご支援をお願いします。



鈴木賢(すずき・けん)

明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。中国法、台湾法専攻。主著に『台湾同性婚法の誕生――アジアLGBTQ+燈台への歴程』(日本評論社)。現在、国立台湾大学法律学院で在外研究中。地元北海道でLGBTQ+の当事者団体を運営、1996年に地方都市で初めてプライドパレードを札幌で開催。自治体にパートナーシップ制度を求める運動にも従事。



『台湾同性婚法の誕生――アジアLGBTQ+燈台への歴程』鈴木 賢 著
(日本評論社)

2022/11/04 12:20