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台湾発、中高年レズビアン17名の多彩な青春
『おばあちゃんのガールフレンド』を翻訳出版したい!

性をめぐる幻想を打ち破るための貴重な物語(鈴木賢)

こんにちは、サウザンブックスPRIDE叢書です。
今年発行のご著書『台湾同性婚法の誕生――アジアLGBTQ+燈台への歴程』(日本評論社)が話題の、明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授で、中国法、台湾法専攻の鈴木賢さんから力強い応援メッセージが届きました!
 


 どの社会も伝統的にすべての構成員の性的指向は常に異性にだけ向かい、身体の性と性的自己認識が一致していること(ヘテロセクシャル&シスジェンダーの幻想)を前提に社会の仕組みを組み立ててきた。それは欧米も日本も、本書の舞台である台湾でも同様である。しかし、現実にはどこの社会でも、いつの時代でもそうした規範から外れる性的特徴をもちながら、正体を隠して(あるいは偽って)ひっそり生きることを余儀なくされた人たちがいた。このように現実と社会の想定には大きなズレが存在している、これが今日ようやく正視されるようになっている。
 社会の想定から外れる個性をもつ人たち(現在ではLGBTQ+などと呼ばれるセクシャル・マイノリティ)は、従来は社会の規範の方に自分を合わせて生きる(あるいは生きるのを止める)しかなかった。ところが、近時は逆に社会の規範の方を多様な性的個性をもつ人が共存している現実に合わせることで、このズレを解消するのが世界的な潮流になりつつある。社会の規範が偽りの人生を強要することは、けっして多くの人を幸せにはしないことに気がついたからである。
法的な婚姻を同性間にも開放するいわゆる「同性婚」を法制化するのは、その端的な表れである。台湾では2019年5月から同性間にも婚姻を成立させる法律が施行され、2022年7月末までに8592組の同性カップルが結婚している。新規の婚姻件数の約2%が同性間の婚姻である。台湾で同性間にも婚姻を平等に成立させる法が、いかに勝ち取られたかについては、拙著『台湾同性婚法の誕生 ――アジアLGBTQ+燈台への歴程』(日本評論社、2022年)で歴史的、体系的、包括的にまとめているので、ぜひそちらを読んでいただきたい。
 LGBTQ+と言うと、若者そして男性が先に水面から姿を表しがちである。それにはさまざまな要因が複雑にからんでいるが、性の多様性は年齢や男女を問わず存在してきたのが現実である。台湾では同性間の婚姻が可能になったとはいえ、中高年のしかも女性のセクシャル・マイノリティの生き様はもっとも可視化が遅れていた。その意味では、この本はその空白を埋めてくれる貴重な1冊なのである。
 日本では同性間の婚姻を認める法すらまだできていないが、性をめぐる現実と規範のズレを、規範の方を変えることで解消していくさまざまな取り組みはすでに始まっている。その象徴は、すでに全人口の過半数が住む自治体で導入されているパートナーシップ(&ファミリーシップ)制度である。これをさらに推し進めるには、人々の性をめぐる幻想を徹底的に打ち破る必要がある。そして幻想は幻想を否定する具体的な人間の生き様をぶつけることで打ち破られていく。本書はまさにそうした幻想が幻想に過ぎなかったことを、人々に気付かせるための物語であふれている。日本人を早く幻想から目覚めさせるために、本書を日本語で世に出すこのプロジェクトを応援していただきたい。

 

鈴木賢(すずき・けん)

明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。中国法、台湾法専攻。主著に『現代中国相続法の原理』(成文堂)、『現代中国法入門』(有斐閣、共著)、『台湾同性婚法の誕生――アジアLGBTQ+燈台への歴程』(日本評論社)など。現在、国立台湾大学法律学院で在外研究中。地元北海道でLGBTQ+の当事者団体を運営、1996年に地方都市で初めてプライドパレードを札幌で開催。自治体にパートナーシップ制度を求める運動にも従事。



『台湾同性婚法の誕生――アジアLGBTQ+燈台への歴程』
(日本評論社)
 

2022/08/25 11:12