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自然派ワインの巨匠と仏マンガ界の鬼才
異質な二人の交流と発見を描く実録マンガ
『ワイン知らずマンガ知らず・仮』を翻訳出版したい!

日本語版制作、順調に進行中! 監修者目線の中間報告

『ワイン知らずマンガ知らず・仮』を応援し、支援してくださっている皆様、本当にいつもありがとうございます。皆様の温かい気持ちに支えられ、編集作業も順調に進んでおります。

今回は監修者の立場から、日本語版制作の中間報告として本書を一層楽しく読んで頂くための予備知識をご紹介したいと思います。当たり前のことですが、本書は「漫画」ですので、絵が主体です。翻訳はあくまでも文字になった部分だけですからで、「絵」が語るものを読み解くのは、読者の知識にかかっています。そこで今回は、ブドウ栽培の場面で描かれる「道具」にスポットを当て、絵から読み解ける一部をご紹介します。



上の4コマ。二人は両手にハンドルを握り、トラクターが行くすぐ後ろを押して進んでいます。一見、運搬用の一輪車を押しているようにも見えますが、荷台が付いていませんよね。これはフランス語でDecavailloneuse[デカヴァイヨヌーズ]という「鋤」の役割をする道具です。トラクターによって耕起され、ブドウの木の根元に寄せられた土を取り除く道具なのですが、ブドウ栽培の作業でしかほとんどお目にかからない特殊な道具です。つまり、一般人は普通、触れることのない道具。しかも、機械がどんどん土を耕して行くのに対し、それを人力で追いかけるのは大変な労働。それなのにリシャールは、農業ド素人の漫画家エティエンヌに対し「植物のまわりの草を持ち上げるように、刃をうまく並木の軸に通す。ブドウの木の地中の根に、刃の先端が触れる直前に引き抜くんだ」と、ちょいとハイレベルすぎない? という指示を与えます。案の定、大失態に。リシャールが大声で泣き出してしまうほど…。農作業の現場にはプロも素人もないという厳しさを見せてくれます。その顛末はぜひ本編を、お楽しみに。
 


続いて、上の1コマの道具にも、両手に持つハンドルが付いていますね。しかし、先のDecavailloneuseと違い、地中に突き刺すように使っています。これは「移植器」と呼ばれるもので、植物の植え替えに使われます。先端部は植木鉢の形状になっており、ハンドルで開閉します。つまり、植え替えたい苗木を土ごと先端の器にセットし、それを地中に差し込むと、ハンドルを開いて抜き、植え込むというわけです。この「移植器」はブドウ栽培専用の道具というわけではなく、普通の畑や家庭のガーデニングでも使用される、言わば日常の道具ですが、ブドウ栽培で使用する人はあまりないようです。リシャールならではの、さりげない工夫が見て取れる場面です。
 


最後にもう一つ。ここでは道具ではなく、荷台に積まれた「荷」に注目してください。これは、収穫したブドウを破砕し、圧搾した後の皮や果楩など、残り滓です。軒下に積まれたブドウの滓を描いたものですが、実はワイン醸造家には重要です。滓だからと言って、捨てるわけではありません。彼らはさらに、この滓を利用して「マール」と呼ばれる蒸留酒を作ります。実は、そのアルコールを税金として物納しなければならないのです。さりげない一コマですが、ワイン醸造家の苦労が偲ばれる一コマです。

以上、道具から見るブドウ栽培はいかがだったでしょうか? ほんの一例でしたが、こうしたセリフなき一コマ一コマに、農業のリアル、農民のかけがえのない本質が描かれています。こうしたものを見ると、私は「ワインは農産物であり、自然のものなのだな」と感動さえ覚えます。日本語版が届いたとき、ぜひエティエンヌが切り取った農作業の数々に、じっくりと目を向けてもらえればと思います。私もそんな部分を補える解説が書けるよう、これからも取材を続けたいと思っています。どうぞお楽しみに。もうしばらくお待ちください。

発起人・監修者 京藤好男
 

2021/12/24 10:53