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自然派ワインの巨匠と仏マンガ界の鬼才
異質な二人の交流と発見を描く実録マンガ
『ワイン知らずマンガ知らず・仮』を翻訳出版したい!

サウザンコミックス編集主幹・原正人からご挨拶

皆さん、こんにちは! サウザンコミックス編集主幹の原正人です。

サウザンコミックスのクラウドファンディングも早いもので第3弾を迎えました。第3弾はエティエンヌ・ダヴォドー『ワイン知らずマンガ知らず(仮)』というバンド・デシネ(フランス語圏のマンガのこと)。ビオディナミという特別な農法で自然派ワインを作るワイン醸造家リシャール・ルロワと、バンド・デシネ作家エティエンヌ・ダヴォドーが、約1年間にわたってお互いの仕事をさまざまなレベルで教え合い、理解を深め合う様子を描いた異色のドキュメンタリーです。

5月12日(水)にクラウドファンディングが始まり、早くももう1カ月が経過しました。既にご支援くださった皆さん、どうもありがとうございます! プロジェクトの成立を目指して、残り2カ月弱頑張ります!

「サウザンコミックス」は世界のマンガをクラウドファンディングを通じて翻訳出版するサウザンブックス社のレーベルです。第1弾はダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』というバンド・デシネで、2020年に無事出版することができました。第2弾はMK・サーウィック『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』というアメリカのコミックスで、今年2021年の2月に無事成立し、現在、絶賛制作中です(そろそろ経過報告もできるかと思いますので、ご支援くださった皆さん、もうしばらくお待ちください)。

そして、今回第3弾として、再びバンド・デシネに挑戦することになりました。バンド・デシネですから、もともとはフランス語なのですが、イタリア語版を通じてこの作品に惚れ込んだイタリア語の専門家である京藤好男さんが、どうしてもこの本を日本に紹介したいということで、発起人として名乗りをあげてくださいました。フランスの作品がイタリア語に翻訳され、それがある日本人の読者を感動させ、その読者が日本語版出版のためにクラウドファンディングまで行うことになったんだからすごいですよね。本書に対する京藤さんの思いは、ぜひこのクラウドファンディングのトップページおよび京藤さんからのメッセージでご確認ください。

もっとも、この作品の原書はフランス語ですから、理想的にはフランス語から翻訳したいところです。実は、僕はフランス語の翻訳家である大西愛子さんがずいぶん前からこの本に入れ込んでいて、熱心に持ち込みをされているのを知っていました。大西さんはこのプロジェクトに応援コメントを寄せてくれているので、よかったらそちらもぜひご覧ください。大西さんはこの本をもう7年も前に持ち込まれているそうです。

そこで、発起人の京藤さんと翻訳家の大西さん、そしてもちろん出版社であるサウザンブックスのスタッフに相談して、プロジェクトが無事成立したら、大西さんに翻訳を、京藤さんには監修を担当していただくことになりました。先ほど述べたように、本書はワイン醸造家のリシャール・ルロワとバンド・デシネ作家のエティエンヌ・ダヴォドーが、互いの仕事を教え合う作品であるわけですが、はからずも日本語版もイタリア語の専門家でワインに詳しい京藤さんとフランス語の翻訳家でバンド・デシネに詳しい大西さんの二人三脚で作っていただけることになりました。

まだ日本語に翻訳されていない以上、この本を読んでいる人はほとんどいらっしゃらないのではないかと思います。本当に優れた作品なんだろうかと躊躇されている方もいらっしゃるかもしれません。僕はこの作品を何年も前にフランス語で読んでいて(他ならぬ大西さんがすすめてくれました)、今回改めて再読したんですが、本書は類書のない傑作だと断言できます。

どんなにすばらしくても、そう簡単に翻訳できるわけではないというのは、海外で出版された書籍の宿命のようなものです。僕もダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』を10年間持ち込み続けた挙句、サウザンコミックス第1弾としてクラウドファンディングを行うと覚悟を決め、皆さんにご支援いただいて、ようやく翻訳することができました。海外の書籍が翻訳されるためには、きっとタイミングも重要なのでしょう。そういう意味では、サウザンコミックスというレーベルが存在し、京藤さんと大西さんという作品に惚れ込んだ2人が出会った今こそ、この『ワイン知らずマンガ知らず』が翻訳される絶好のタイミングなんだと思います。

もちろんプロジェクトが成立しない限りは翻訳出版できませんから、「面白そう!」、「読んでみたい!」という方がいたら、ぜひご支援よろしくお願いします!

気になる本書の内容については、既にイタリア語から内々でこの本の翻訳を終えてしまっている発起人の京藤さんが、一部翻訳をご用意してくれています。本書の主人公のひとりであるワイン醸造家のリシャール・ルロワが、作者のエティエンヌ・ダヴォドーにビオディナミ農法とはどんなものか、実践を通して教えている場面です。本書の雰囲気が伝わるかと思いますので、ぜひお読みください。

僕のほうからもちょっとだけこの作品について補足しておきたいと思います。本書は全19章から成る全260ページ超の作品で、2010年の年明けすぐから2011年春までの約1年間にわたる、ふたりの主人公の相互レッスンを描いています。

物語の舞台は、リシャール・ルロワがワイン造りをしているフランス西部アンジェ近郊のモンブノーという土地なんですが、そこを拠点にしつつも、ふたりはワインの関係者に会ったり、バンド・デシネについて学んだりするために、フランス国内のさまざまな場所はもちろん、時にはベルギーにまで足を運びます。ふたりと一緒にさまざまな場所を旅し、さまざまな人と出会うことができるのも、この作品の魅力でしょう。

ワインとバンド・デシネは元来何の関係もないものですが、物語の序盤で、ワイン醸造家リシャール・ルロワとバンド・デシネ作家エティエンヌ・ダヴォドーのふたりが、ひいてはは彼らが携わるふたつのものづくりが、実はよく似ているのかもしれないと思わせる印象的なエピソードが語られます。

エティエンヌ・ダヴォドーについて印刷所を訪れたリシャール・ルロワは、そこでエティエンヌがこれから出版される彼の作品の色校正を確認する場面を目の当たりにします。あるページを確認していたエティエンヌが光の具合が気に入らないと言うと、印刷オペレーターが色を微調整して刷り直しを行います。

 エティエンヌ・ダヴォドーと一緒に印刷所を訪れるリシャール・ルロワ


印刷所からの帰り際、あんな細かな調整をしたところで、読者は気にしないんじゃないのかと言うリシャールに、エティエンヌは「オレが気にするんだよ!」と答えます。エティエンヌにとって、その作品は自分の人生の1年半をかけ、自らの手で作り上げたもので、それを赤の他人に委ねる以上、真剣に確認をするのは当然のことなのです。自身、納得できるワインのためにワイン造りのさまざまな過程で試行錯誤を続けてきたリシャールは、なるほどと納得します。

このエピソードを皮切りに、読者はふたりの交換レッスンに付き合っていくことになるわけですが、やがて、ワインもバンド・デシネも、作り手の対象に対する深い愛情と、強いこだわりと、とてつもない忍耐力と、他者との思いがけない出会いと、彼らの協力と、偶然の魔法でできていることを知ることになります。

本書は読む者の人生を豊かにしてくれる傑作です。ワインが好きな人やオーガニック・有機農業に興味がある人、マンガが好きな人はもちろん、ものづくり全般に興味がある人にはぜひ読んでいただきたいです。

このすばらしい作品を日本語で読めるようにするために、ご支援どうぞよろしくお願いします! 既にご支援いただいている皆さん、周囲にこの作品に興味を持ってくれそうなお知り合いがいたら、ぜひおすすめください!

 

原正人
サウザンコミックス編集主幹。フランス語翻訳者。サウザンコミックス第1弾ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』などバンド・デシネの翻訳多数。2021年1月に創刊されたデジタル月刊誌『ユーロマンガ』で、シリル・ペドロサ『ポルトガル』やマニュ・ラルスネ『ありきたりな戦い』を始め、複数の作品を翻訳中。米沢嘉博記念図書館「はじめてのバンド・デシネ」展監修(6/11-9/20)。

2021/06/16 13:27