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エイズが死に至る病だった1990年代前半、
医療従事者や患者を描いた海外コミックス
『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』を翻訳出版したい!

順天堂大学大学院教授の井上洋士さんから応援メッセージが届きました!

HIV陽性者の「自分らしくより健康的な生活の実現」と「暮らしやすい社会環境づくり」を目的としたプロジェクト「HIV Futures Japanプロジェクト」の代表でもある、順天堂大学大学院教授の井上洋士さんから応援メッセージが届きました。


 私がHIVにかかわる活動を始めたのは、1993年くらいです。当時はHIVに感染するとほとんどの場合徐々に身体が弱って死ぬとされており、皆おびえていました。私はニューヨークのブロードウェイミュージカルが好きで当時年に一度は現地まで観に行っていたのですが、舞台づくりをする関係者も次々とエイズで倒れ、かわりにロンドン生まれのミュージカル作品に独占されていくのを目の当たりにしました。
 いまHIVにかかわっている活動家や医療者、陽性者などの方々は、当時のことをあまり知らないようです。でも、HIVにこそ、様々な原点があると私は思います。たとえばHIVパンデミックにどう対応しようかと考えられた感染症対策は明らかにこれまでにはないようなレベルに高まったものになりました。標準予防策はHIVの感染防止という課題から生まれました。陽性者やゲイの方々への人権問題も大きくクローズアップされ改善につながることになりました。私は米国にいたことがそこそこ多かったのですが、政党によってHIV対策など感染症問題への予算の付け方や施策への前向きさが大きく異なることも明々白々になったのもこのころです。サンフランシスコでゲイフィルムフェスティバル(と当時呼ばれていたが、レズビアンなどの方々も参加していた)に何度も行きましたが、記録映画でレーガン大統領のシーンが出ると、会場中が一斉に指を下に向けてブーイングの声を出されている状態でして、あの激しい抗議のシーンは忘れられません。
 いまのHIVの状況は、当時に比べるとかなり良いものになっています。この作品にも描かれていますが、劇的に効果的な治療薬が生まれたからです。余命宣告までされて死ぬ準備をしていた方が健康を取り戻して、貯金も資産も家族もないなかかえって困惑してしまう例や、もう命も少ないからとキャリアアップをやめたのに長生きすることになったりした例とか。様々なドラマが生まれた時期でもあります。そうした、今のHIV・エイズやCOVID-19という新しい感染症とそれらへの対応を理解するためには、それらの原点を知っておくことがとても重要です。いまに通じるような課題があった過去を知ること、時代が変わり形を変えて似たような課題が出てきていることを知ることの大切さを、一般の方々だけでなく、保健医療福祉関係者にもわかってもらいたい、そんな思いでこの「テイキング・ターンズ」日本語版を強く推薦したいと思います。

順天堂大学大学院 井上洋士

 


井上洋士
順天堂大学大学院特任教授。薬害HIV感染被害者研究から30年ほどHIV問題に携わり、
現在は、HIV Futures Japanプロジェクト代表として、日本のHIV陽性者対象の大規模ウェブ調査と情報提供の主宰等をしている。
U=U Japan Project発起人。放送大学客員教授、国立がん研究センター客員研究員。

HIV Futures Japan

2021/01/29 13:55