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エイズが死に至る病だった1990年代前半、
医療従事者や患者を描いた海外コミックス
『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』を翻訳出版したい!

サウザンコミックス編集主幹・原正人からご挨拶

皆さん、こんにちは! サウザンコミックス編集主幹の原正人です。

サウザンコミックス第2弾クラウドファンディング、いよいよ始まりました! 第2弾はMK・サーウィック『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』。1990年代にHIV/エイズケア病棟で働いていた元看護師の作者が、当時のことを振り返ったマンガによる回想録です。

既にご支援いただいた皆さん、どうもありがとうございます! プロジェクト成立目指して、あと2カ月ちょっと、頑張っていきます!

サウザンコミックス第1弾ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』をご支援くださった皆さんの中には、前作とのあまりの違いに戸惑っている方もいらっしゃるかもしれません(笑)。

『レベティコ―雑草の歌』は渋すぎる作品ではありましたが、とにかくかっこよく、ひと目見ただけでこれは傑作に違いない!という説得力がありました。それに比べると『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』の絵は、パッと見かわいいということはできそうですが、正直ちょっと心もとない感じがします。『レベティコ―雑草の歌』は商業的なヒット作とは言わないにせよ、世界のマンガ好きにはそれなりに知られた作品でしたが、『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』はおそらくそうではないでしょう。

でも、ご安心ください! この作品は間違いなく傑作です。

僕は一足先にこの作品を英語で読みましたが、マンガにしてはテキストが多く、日本のマンガに慣れた目にはちょっと読みづらく感じるものの、読後感は非常にすばらしいものでした。たしかにその絵は一見拙く、淡々としていてどこかよそよそしい感じさえあるのですが、実は作者の絵を描くという行為は、エイズ患者から感じた「畏怖」に端を発していて、その後、患者たちとのコミュニケーションや看護師としての体験の中で深められていったものでした。そのことを知ると、この朴訥とした絵の印象もまったく変わってきます。

 

作者がある患者から感じた畏怖の念をきっかけに絵を描き始める場面


絵を描くこと、そして、人の話を聞くことは、裏テーマと言っていいくらいこの作品の中で重要な位置を占めています。本書は「HIV/エイズについての情報をわかりやすくマンガにまとめました」という体の作品ではまったくありません。作者が自身の衝動に従って絵を描き、患者や関係者の言葉を記録し、絵と言葉のふたつを兼ね備えたマンガというメディアに落とし込んだ、マンガであることが必然的な作品なのです。

当然のことながら、HIV/エイズや医療というテーマに関心がある人にとって、本書は必読の作品です。今とは異なり死の病と恐れられていたエイズの1990年代アメリカにおける状況、HIV/エイズケア病棟の施設、患者の様子、看護師の仕事などについて、関係者ならではの貴重な証言を読むことができます。

しかし、わざわざクラウドファンディングをしてまで翻訳したいと考えるからには、本書はそれだけの本ではありません。本書は作者MK・サーウィックの自伝でもあり、大学で英文学を学んだ彼女が看護師になった顛末や、新米看護師として大変な職場に配属され悪戦苦闘しつつ、同僚や患者に助けられ成長を遂げていく様子、折々に人生のさまざまな決断をしていく姿も、読みどころのひとつです。

作者は作中で自分がレズビアンであることを明かしていますが、物語の舞台である1990年代は、エイズパニックも相まって同性愛者に対する風当たりが今とは比較にならないほど強い時代でもありました。本書はその当事者がその時代のことを回想した作品でもあります。

また本書は、誰にとっても避けては通れない「死」について、そしてやはり誰もがいつかは(患者として、あるいは患者の家族・友人として)お世話にならざるをえない医療について深く考えさせてくれる作品でもあります。

実は僕は、過去にフレデリック・ペータース『青い薬』(青土社、2013年)という、HIV/エイズをテーマにしたスイスのバンド・デシネを翻訳しているのですが(これはこれで傑作なので、機会があればぜひお読みください)、本書はまるで切り口が異なっていて、本書を読むことで視野がさらに大きく開けた気がします。

要するに本書は独創的な絵柄による、他に例があまりないテーマを扱った、極めてアクチュアルかつ普遍的な作品なのですが、この作品が現状日本語で読めないことは非常に残念です。

この作品の翻訳出版を前向きに検討しているという話はこれまでに聞いたことがありません。このままでは、サウザンコミックス第1弾ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』と同じように、いつまで経っても翻訳されないんじゃないかと思います。それならぜひサウザンコミックスで翻訳したい!

「お、いいじゃん!」と思ってくださった方は、ご支援・応援、どうぞよろしくお願いします!

 


原 正人

サウザンコミックス編集主幹。フランス語翻訳者。サウザンコミックス第1弾ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』を、クラウドファンディングを通じて翻訳出版。HIV/エイズをテーマにしたフレデリック・ペータース『青い薬』(青土社、2013年)などフランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”の訳書多数。
 

2020/12/15 12:06