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不妊治療、養子、LGBTQ、子をもたない選択
子どもをめぐるすべての選択を肯定する米国のノンフィクション
「子どもを​迎えるまでの物語」を翻訳出版したい!

国内支援団体の紹介 その② UMU 西部沙緒里さん

『The Art of Waiting (子どもを迎えるまでの物語・仮) 』翻訳出版クラウドファンディングを支援してくださっている皆様、こんにちは!発起人石渡です。
応援、本当にありがとうございます。

今回は、不妊治療当事者の国内支援団体を紹介する記事の第二弾として、オンラインメディア『UMU』を運営する株式会社ライフサカス代表の西部沙緒里さんにお話を伺いました。

以前から発起人は、このクラファンを実施する際には、絶対に日本国内で当事者を支援している団体を紹介したい!と思っていました。そして、それを考えるときに、まず頭に思い浮かぶのは以前から愛読していたUMUだったのです。

西部さんにはまだオンラインでしかお会いできてないのですが、お話するたびに、そのエネルギーに力をもらっています。
少しでも西部さん、そしてUMUの素晴らしさがご紹介できれば、と思います。
 


UMUとこれからのUMUについて


石渡 まずUMUについてご存じない方にも、どんなメディアかご説明いただけますか。

西部 不妊治療当事者なども含め、命を生み出すプロセスで、産む・産まない・産めないに関する何らかの葛藤とか悩みを抱えた人のリアルストーリーを紹介したメディアです。 

石渡 これまでの記事には、不妊治療当事者の方々や、子どもを迎えることを考えているトランスジェンダーの男性とシス女性のご夫婦、特別養子縁組を選んだ方などの声がご紹介されていますが、今後どのようなテーマやトピックをUMUで取り上げていくことを考えているか、お伺いしても良いでしょうか。

西部 直近で予定しているものは「2人目不妊」についてです。2人目不妊特有の悩み、生きづらさや両立の苦労などがあるのですが、そこにフォーカスした記事をこれまで書いてこなかったので。

石渡 2人目不妊、すごく多いですよね。私の周りでも1人目は自然妊娠だったけど2人目は... という人が多いです。特有の話しづらさなどがありそうですね。

西部 そうなんです。本当に特有の悩みを抱えている人が結構いるので、すでに取材を終えて記事編集に入っているところです。それから、あとは妊活中のパートナーシップ、夫婦関係について、専門家に話を聞こうと思っています。それからTwitterなどで活動をされている(不妊・不育治療の環境改善を目指す)当事者の会の皆さんにも、ちょうど取材を終えたばかりです。


ユースクリニックについて

西部
 それから、個人的には、少し若い世代の啓蒙にも興味を持っていて。不妊や産む、産まないにまつわる課題は、本来ならば教育から変えていかなければならない領域なのに、全然まだインフラが整っていないじゃないですか。ユースクリニックってご存じですか?

石渡 いや、今初めて聞きました。

西部 ユースクリニックは欧米、特にヨーロッパで盛んになっている医療活動です。若い世代が、性の悩みとか自分の体のことで悩みを抱えたときに相談できる先って、特に女性特有の問題となると、「なかなか親にも言いづらい、友達にも言いづらい、学校の保健室の先生にもなかなか言えない」ってなってしまうんですよね。なので、そういった問題を気軽に相談できて、必ずしも内診をしなくていい場所がユースクリニックです。
こうした、コンサルティングだけで安価で医師が話を聞いてくれる窓口、医療サービスが浸透してきていて、少しずつ日本にも作られ始めているんですね。そうしたユースクリニックの活動なども紹介していこうかなと考えています。

石渡 それは本当に大切ですね。全然知りませんでした。

西部 そうなんです。全然知られてないんですけど。10代からかかりつけの婦人科医を持つっていうことに繋がって「この先生に相談すればいい」というのがあると、ピルが手に入らなくて、望まない妊娠をしてしまったり、しかるべき病院にかかれない、などのリスクも回避できる可能性があるんです。

石渡 初めて得る性の知識が、医療従事者からの正しいフラットな情報っていうのもすごくいいですよね。雑誌とかのセクシュアルなコンテンツに書かれたファンタジーみたいな情報でなくて、正しい知識を先に得るって本当に大切だと思います。

西部 そうなんですよ。だから、若年層自体はメインの読者層ではないんですけど、この不妊というテーマを表層的・定点的に捉えるのではなく、課題が生じる背景のシステム、バックグラウンドも含め、いずれは深く広く扱えるメディアになりたいな、と思っていて。


5.5組に1組は氷山の一角

石渡 私は最近、社会的不妊という言葉を知ったんです。生殖機能の問題だけでなく、経済的な事情やパートナーを持たないなど様々な理由で、妊娠出産を望んでいるにもかかわらず妊娠できない人を指す言葉ですよね。私も、結婚していた時は経済的な理由で妊娠しないようにしていたし、今は経済的に安定したんですが離婚してしまい、パートナーもいないのでまあ子どもはできないですよね。そういう状態を、社会的不妊と呼ぶのだと知りました。

だから当事者と言ったらそうかもしれないんですが、それでも当事者であるような気持ちと、部外者であるような気持ちで遠慮しながらこの活動しているようなところがあるんですね。

それでも、私のように当事者でないかもしれなくても、この問題を一緒に改善していきたいと考えている人たちに対して、何か西部さんから当事者個人としてもUMUメディアの代表としても「こういう風に一緒に考えて欲しい」「気づかず行動してしまっているけど改めて見直してみて欲しいこと」などあればお聞きしたいです。


西部 なんだろう... 声を上げにくいだけであって、実際に統計学上は5.5組に1組は何らかの事情で不妊に直面している、という人がいるんですよね。それも既婚の男女で、明確に統計的にデータが取れるミニマムの数字なんです。
そこには、石渡さんのように、今は未婚でも、再婚したら即治療が必要になる可能性がある人は含まれてないんですよ。だから氷山の一角というか。見えてない部分で、実際に不妊の悩みを持つかもしれない人たちの数って、全部調べたら相当な数になるはずなんです。
なのに、コアな当事者が顔を出したり声をあげたりしづらいせいで、なんだかマイノリティの一部の人の課題って思われているところはいまだにあるかなって思います。

それに、産みたいのに産めないっていうテーマだけでもないんですよ。
例えば、本当は産みたくないのに、それを素直に大っぴらに言えるかというと、産みたくないって言いにくい社会じゃないですか。みんなが適齢期になったら子どもを持たなきゃいけないっていうようなところがあるから、産みたくないとも言えない。だから、出産にまつわる苦しみって本当に千差万別というか。
なので、誰かが命を生み出すことを社会的に求められるライフステージにおいて、多くの人が何かしらの葛藤や苦しみを抱え得るかもしれないんだってことを、想像力を持って社会を眺めて欲しい、隣の人の「声にならない声」をわかってみて欲しい、かな。


理想の人生のアフターを生ききる人々を描く

西部 最近、ライフサカスのインターンのメンバーが、アンケートを取ってくれたのですが、そのアンケートで結構興味深い結果が出てるんです。

「生殖物語」という生殖心理の用語があるんですけど。これは、幼少期の原体験などの影響で、自分も将来的におそらく子どもを持つ/持たないだろうとか、家族がいて父親がいて母親がいて、子どもは女のこが1人、男のこが1人... というような何らかの家族像- 一種のステレオタイプ的なものを、多かれ少なかれ人は誰しも描くものである、という概念らしいんですね。

そうした家族像自体が良い悪いと批評するものではないんだけれど、そういうイメージや刷り込みを持ってしまうが故に、その通りに人生が進まないことのギャップも、このテーマで多くの人が苦しむ一因になっている、という仮説を立てていて。

石渡 ああ... 違う言葉でだったんですけど、今翻訳している本にも同じような描写が出てきますね。

西部 そうなんですね。なので、そのステレオタイプにはまらなかった自分、その通りに未来を歩めなかった自分に対する自責の念とか、その通りにしてあげられなかった周りに対して感じる申し訳なさが、このテーマの苦しみとか葛藤に繋がる、という構造があるんだと言っている考え方が「生殖物語」であると、私は理解しています。

なので、そこを仮説として、そうしたギャップがどれくらい起きているかっていうアンケートを取ったんです。ざっくりした数字ですが、そうした体験をしている人は軽く過半数を超えていて*、かなりの数の人が、実際に元々抱いていたし自分の理想像やステレオタイプ的な価値観と、実際に自分が歩んできた人生が違うことによるギャップに一度は苦しんだことがあると回答していました。それは必ずしも、子供が産めて親になれたから葛藤がなかったかというと、そういうことでは全然なくて。例えば、(子どもの性別が)予想していた性別と違ったとか。(子どもの)人数も希望通りにいかなかったとか、広い意味でとると、狭義の不妊にとどまらない、様々なファクターのギャップで悩む声が浮き彫りになっているんです。

*「思い描いていたイメージと、現在を含むその後の状況にギャップがありますか?」の設問に対して、「ギャップがあります」が約58%、「これから直面する可能性があります」が約14%
 

だから、必ずしも「不妊治療をしました。だから苦しかった」というだけではない、その背景に存在する、より大きなシチュエーション、広いスコープに焦点を当てて、その中にある様々なストーリーを紹介していくってことを(UMUは)やっているんだなって、(アンケートを)見ながら思いました。生殖のテーマにおいて「自分がこうありたいけど、こう生きられなかった。けれど、自分がその  ”アフター(その後)” の人生でこう生きていく」って決めて前向きに歩みを進めている人の姿を、紹介しているメディアなんだな、と思っています。

石渡 そうですね。UMUでは、その ”アフター” を生きている皆さんの言葉や写真から見る表情が輝いていて、生きる意志みたいな力をものすごく感じます。

西部 ありがとうございます。

西部さん、どうもありがとうございました!
UMUには、勇気をくれる、たくさん素晴らしい記事が掲載されているので、皆さんもぜひご覧ください。
また、4月26日は、妊活・不妊・不育症当事者の方にむけた
オンラインイベントも開催されるそうです。興味のある方は、ぜひお早めにお申し込みを!


不妊、産む、産まないに向き合うすべての女性たちへ。未来をともに育むメディア
『UMU』

2020/04/21 11:10