本書の題材であるインドの叙事詩『マハーバーラタ』。すでに神話のファンで本作にご興味をお寄せいただいた方、これから触れる方、ちょうど関連作品を何か読もうと思っていた方、様々いらっしゃると思います。
作中では、『マハーバーラタ』は勿論のこと、もう一つの二大叙事詩である『ラーマーヤナ』や、その他のインドの神話に絡められたストーリーが、飛び回るように展開します。人間の世界と神話の世界の間を、そして神話の世界と神話の世界の間を。
その都度、登場人物たちが分かりやすく逸話を説明してくれるので、話の筋が分からなくなることはありません。ご安心を!(原書では、巻末に神話の紹介が添えられています。丁寧に、かつユーモアたっぷりに!)
しかしながら、読むかどうか決める前におおまかに元の話を知りたい、という方もいらっしゃると思います。
ちょうどいいことに、主人公のアルは博物館の一人娘。土曜日になると、お客のために(憧れのママの声マネで)展示物のガイドをしています。彼女の言葉を借りてみましょう。
「マハーバーラタは、二大叙事詩のひとつです。現代は話されない古代の言語、サンスクリット語で書かれたものです」(効果を狙って一拍)「パーンダヴァ五王子と、従兄弟の百王子の間に起こった、王国戦争の物語です――」
クルという王国で、従兄弟同士である五人の王子と百人の王子は、共に王位に近い立場にありました。神々の血を引き優れた才を持つ五王子は、特に人々の支持が厚く、それを嫉んだ従兄弟に、繰り返し策略を仕掛けられ、繁栄させた国を奪われ、山野に追放されてしまいます。試練をのり越えて帰還した五王子は、ついに従兄弟と望まぬ戦争の火蓋を切ることになります。
以上が、叙事詩における「人間側」のストーリー。その背後に、実は「神々側」の事情が秘められています。人間として転生した魔神アスラたちの重みで苦しむ、大地の女神ブーミを解放するという、隠された使命が英雄たちに与えられているのです。
叙事詩の英雄たちは、神の血縁上の子である場合もありますが、同時に神自身の「化身」すなわち分身のような存在です。主人公も敵役も脇役もほぼ全員が、何らかの神または魔神の「化身」であり、母なる大地を救うという使命を負って、人間界に生まれ落ちています。
英雄たちは、言うなれば神々(または魔神)の生まれ変わりですが、天界にいる神様がいなくなってしまうことはありません。神々とその化身は、同一でありながら独立した人物として、それぞれ登場のうえ活躍します。
本書の主人公たちも、神の子たるパーンダヴァ五王子の生まれ変わりであり、「半神」(デミゴッド!パーシーやアナベスと同じように)と表現されます。英雄の「魂的なもの」(使命とか、知恵とか、勇気とか)を受け継いでいるものの、独立した個性です。
先輩作である『パーシー・ジャクソン・シリーズ』は、ギリシア神話の性質を活かした「神の子」たちの物語。両作品の「デミゴッド」という概念は似ていながら微妙に異なり、特色があるのが面白いですね。
我々のヒロインたちは、なかなかに勇敢で機転も利くのですが、英雄や半神などの自覚を、おいそれと持つことは難しいようで、自信を喪失したり取り戻したりしつつ、お互いを支えて成長していく姿が見どころ!
彼女たちの旅路を、是非、皆様と一緒に見届けたいと思っています。なにとぞ、ご支援ご宣伝のほど、よろしくお願い申し上げます。
発起人:アル・シャー・シリーズ和訳化応援団