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10代レズビアンのリアルな青春とサバイバルを描いた映画原作小説
『The Miseducation of Cameron Post』を翻訳出版して若者に届けたい!

映画ライター・よしひろまさみちさんにプロジェクト応援インタビュー! 映画や小説から自分なりの答えを見つけてほしい

テレビやラジオでも大活躍の映画ライター、よしひろまさみちさん。よしひろさんに『The Miseducation of Cameron Post』の感想、そして自らの多感な時期をどのように過ごしたのかについてお聞きしました。映画ライターとしての原点は、意外な作品だった――。
 


クロエのための青春群像劇


宇田川しい 『The Miseducation of Cameron Post』は映画化されて、日本でもDVD(『ミスエデュケーション』ギャガ)が発売されていますがご覧になられました?

よしひろまさみち 見ました。青春群像劇になってましたよね。おそらく主演のクロエ・グレース・モレッツありきの企画だったんだと思います。

宇田川 映画で描かれてるのは原作のうち三分の一くらいなんです。

よしひろ 1時間36分と、上映尺が短いんですよね。家族関係なんかは全部、セリフで説明して端折ってたし。だいたい原作ものって映像化するときにどこかを省略しないといけないから、こうなっちゃう。

宇田川 クロエのギャラだけでいっぱいいっぱいで短くなっちゃったわけじゃないんだ(笑)

よしひろ まあ、大スターのクロエを引き立たせるために青春群像劇としてまとめたんでしょうね。

宇田川 僕はホラーっぽいなあと思って、そこが面白かったですけどね。矯正施設のスタッフたちが完全にカルト信者で、ニコニコ笑いながら人権侵害してくるっていうのが怖くて。日本でもカルト連中が同性婚に猛反対してるんで、他人ごとじゃないなとも感じました。これで、ラストにあいつらがショットガンで頭吹っ飛ばされるみたいなカタルシスのある展開だったら最高だったのになあ。

よしひろ タランティーノじゃないんだから!


 


16歳でアングラな夜の世界に


宇田川 映画『The Miseducation of Cameron Post』はセクシュアルマイノリティの青春群像劇ですけど、よしひろさんご自身はどんな10代を過ごされたんですか。

よしひろ あたし、初めてアングラな夜の世界に連れて行ってもらったのが16歳で――。

宇田川 え!? 16歳!?

よしひろ 当時、つかこうへいさんの舞台が好きだったんですけど、つかさんの芝居に、井上陽水の「なぜか上海」を歌うお化粧濃い目のシャンソン歌手が出てきて、もうお芝居すっ飛ばしてそのキャラに夢中になっちゃったんですね。

宇田川 つかこうへいに井上陽水か。昭和だなあ……。

よしひろ で、そのシャンソン歌手の方が歌舞伎町でバーをやってたんです。

宇田川 ある世代以上のゲイってシャンソン大好きですよね。コーチャンって言ったらロッキード事件か越路吹雪かっていう。

よしひろ それこそ昭和を生きた人以外には分からないネタね……。で、あたしには一緒に育った従姉がいて、今でも姉代わりなんですけど、その従姉が「お店どこか分かったから一緒にいこう」って。

宇田川 ああ、従姉に連れられて行ったんだ。よかった犯罪がらみじゃなくて……。

よしひろ 何しろ10代の客なんて珍しいから可愛がってもらって、その店にはずいぶん通いました。親も、お姉ちゃんと行ってるならいいかって感じだったんですよね。

宇田川 で、それから夜の世界にズブズブに……

よしひろ それはまだ先なんですよ。その後、あたしが浪人時代、その従姉からゲイ雑誌『薔薇族』を買って来いって言われて。

宇田川 ゲイに興味あるけど、自分では買いづらいからよしひろさんに買いに行かせたんですね……。

よしひろ それで買ってきて一緒に読んでいて、当時、ゲイの出会い系のツールとして全盛だったダイヤルQ2の存在を知ってしまったんですね。それで、何しろ浪人中で暇があったんですっかりハマちゃったんです。それで知り合った相手に連れて行ってもらったのが二丁目のゲイバーデビューだったんですよね。

宇田川 なるほど、それからズブズブに……。

よしひろ いやそれがまだなんですよ。

宇田川 めんどくせえなあ!

よしひろ むしろここに馴染んだらまずいっていう警戒感の方が強かったの。何しろ二丁目って中学校の学区域なんですよ。近くに同級生いっぱい住んでるし、見られたらどうしようって不安だったし。それで半年くらいゲイがらみはやめて受験勉強。

宇田川 半年だけかよ。

よしひろ 無駄な抵抗だったわね。結局、またダイヤルQ2で会った人と初めてセックスして、やっぱり自分はゲイだ!と開眼して開き直った。

宇田川 やっぱりそこか!

よしひろ それまで女性とは経験があって、ただなんとなく違和感のようなものを感じてたんですよね。それが男とやったときにパァーッと目の前が広がる感じでこれかあ!と。

 


息子がゲイであることを認められない両親との葛藤


宇田川 『The Miseducation of Cameron Post』で、主人公のキャメロンは保護者の意向で同性愛矯正施設に送られることになるんですが、よしひろさんは親との関係はどうでした?

よしひろ 初めての経験でパァーッとなったあと、ゲイ雑誌の回送欄を使いまくっていろんな人と会ってたんですよ。それで部屋に隠してたゲイ雑誌をどうやら母親が見つけたらしくて。ある日、朝帰りで自室にいたときに母がいきなり入ってきて「違う男の匂いがする……」って言ったんです。

宇田川 そ、そんな往年の大映ドラマみたいなセリフを!

よしひろ いや、ほんとに、話を盛ってるわけじゃなくてそう言ったの! それで、「あなた男の人と付き合ってるでしょ?」って。

宇田川 うわぁ、キャスティングするとしたら梶芽衣子かな……。

よしひろ 勝手にキャスティングして遊ばないで……めいこはめいこでも中村メイコ似だったんだから。それでね、「うちではそういうのは絶対に認めない」って。どうしてって聞いたら「私もお父さんも仕事上、世間体っていうものがあるんだから」って言うの。

宇田川 お父さんは、やっぱり中条静夫みたいな感じなんですよね?

よしひろ だから大映ドラマじゃないから! 父は父で九州男児で「男は男らしく」って人だったんですよ。こりゃ理解を求めても親子関係悪くなるだけだな、と思ったの。それで両親が墓に入るまでは隠しておこうと。うちの父親は映画関係だし、母親は美容院の経理をやってたんで、両親の知り合いにゲイは大勢いたんです。知り合いはいいけど自分の息子がゲイであるのは許せないっていうタイプね。

宇田川 それは辛いですねえ。

よしひろ でも、はゲイの友達ができたり、趣味でクワイヤボーイズに入ったりして、自分の生活が充実してきたのね。そうこうしているうちに、両親がリタイアを機に母の郷里に引っ越すって言い出して、成り行きで一人暮らしすることになったんですよ。

宇田川 あ、出会い系アプリで言う「場所あり」ってやつですな。もうそれはやりたい放題ですね。

よしひろ そうなんですけど、自分で学費や生活費を稼がなきゃならなくて働いてたんでやりまくるほど暇じゃなかった。在学時は結婚式の披露宴台本を作る会社で務めたり、PC雑誌の編集アルバイトやってたんだけど、その後読者参加型コーナーの縁でゲイ雑誌『Badi』編集部で仕事して。それでメディアに興味持ったから卒業後に出版社に就職。そこを辞めたあとは、今じゃ当たり前だけど当時はまだ珍しかった非正規雇用で職を転々。『薔薇族』のライターやったり、レンタルビデオの業界誌の編集とか、女性誌の編集とか。色々な会社に勤めたことが今に繋がってますね。

宇田川 ゲイ雑誌以外の職場ではカミングアウトしてたんですか?

よしひろ はっきりと言ってなかったですけど、周りはそうなんだろうと思ってたんじゃないですか。自分からは言わなかったけど、「ゲイなの?」って聞かれたら否定はしていませんでしたから。その後、28歳で完全にフリーランスになって、30歳の誕生パーティを機に世間的にはカミングアウトしました。

宇田川 ご両親は大丈夫だったんですか?

よしひろ 母からは「(あたしがゲイだと)仕事上迷惑」って言われたでしょ。もう両親ともリタイアしたからいいかと思ったし、離れて暮らすことで親子関係は良好になったんで。両親に直接は言わないまま2人とも亡くなりましたけどね。

宇田川 ご両親に分かってもらいたいと言う気持ちはなかったんですか。

よしひろ ないなー。二人とも戦中生まれだから、100%理解するのは無理だと思ってましたね。今の20代、30代の親御さん世代は、あたしと同世代だから受け入れられる人が多いと思うけど。ただ従姉のお姉ちゃんだけにはカミングアウトしたんですよ。

宇田川 身近に1人でも理解者がいたと言うのは救いでしたね。

よしひろ いまだに彼女は一番の理解者です。

 

映画によって気付かされた自らのマイノリティ性

宇田川 ご両親との関係や仕事のことで辛いこともあったと思いますが、そういうときに映画に救われたみたいなところはあるんですか?

よしひろ 救われたって感じはないですね。そもそも、あんまり辛いって思わなかったんですよ。私たちの世代ってど根性世代なんです。全て自分の責任みたいな考え方がある。先生に殴られたって親に言っても「お前が悪いことをしたから」だし、とにかく「人に迷惑かけるな」って言われて育ちましたからね。

宇田川 自責的なんですね。それ世代というよりご両親の影響の方が大きいかもしれないですね。でも、全て自分の責任って考え方自体辛くないですか?

よしひろ 慣れよ、慣れ。とはいえ、悶悶としたときに映画は救いというか逃げ場にはなっていたかな。映画館に入って出るまでは現実のことを何にも考えなくていいから。

宇田川 若い頃に見た映画で特に印象に残っているものって何かあります?

よしひろ それはね、『美女と野獣』です。実写版じゃなく1991年製作のディズニーのアニメーションの方。映画館で大泣きしたんですよ。

宇田川 あれ、そんなに大泣きするような映画でしたっけ?

よしひろ 自分でもそんなに泣く理由が分からなかったんですね。それで、何がこんなに自分の心を動かしたんだろうと思って8回も見直したんです。そのときに初めて「映画っていいなあ」って思ったんですよ。

宇田川 え! その時まで思ってなかったの!?

よしひろ 父がリタイアするまでは、父の仕事の関係で劇場招待券をたくさんもらっていたから、日常に映画があって、いい時間つぶしって感じ。おかげで今の仕事に役に立ってるんだけど。

宇田川 タダだと思うとそうなるのかな。で、結局、泣いた理由は分かったんですか?

よしひろ ロマンスの部分で泣いたんじゃなくて、野獣の境遇に泣いたことが分かったんですよ。自分のせいとはいえ呪われてボッチで苦しんでやさぐれて。でも最後に報われる。結局、マイノリティの話なんです。それから見る映画の傾向がかなりはっきりしました。ちょうどミニシアターが盛り上がってきた頃で、当時、イギリスの炭鉱物なんかが日本で上映されてました。『ブラス!』とか『リトルダンサー』とかね。性的マイノリティがテーマの映画も必ず観ていたけど、広い意味でマジョリティ社会の中で苦悩するマイノリティのストーリーに惹かれますね。

宇田川 やっぱりそれは自分がセクシュアル・マイノリティだからなんですかね?

よしひろ 20代の頃は、ゲイバーやゲイコミュニティにどっぷり浸かってて、しかも『Badi』だの『薔薇族』だの『G-men』だのって、ゲイメディアの発信側の仕事をしていたから、マイノリティっていう自覚は希薄だったんですよね。

宇田川 確かに仕事も遊びもゲイ・コミュニティの中っていう環境だとなかなか社会の中の立ち位置の問題に気づけないですよね。

よしひろ そうなんです。でも、映画の世界だとそうじゃなかった。当時は今みたいにセクシュアル・マイノリティが主人公の映画ってあまりなかったですからね。しかも、あったとしてもだいたい悲劇的なラストだったりして、そこで自分のマイノリティ性に気付かされたっていうのはあります。

宇田川 だいたい最後は死ぬみたいなね。『フィラデルフィア』とか。

よしひろ 90年代は、80年代のAIDSパニックに対する反省みたいな映画が多かったですからね。そういうときに『プリシラ』が出てきて、こういう映画は希望が持てていいなあと思いました。

宇田川 最近では、日常が描かれるような作品も増えましたよね。

よしひろ そうそう。それと偉人の伝記もの。ハーヴェイ・ミルクを描いた『ミルク』とか、アラン・チューリングを描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』とかね。そういう映画の傾向の移り変わりをみられる時代にこの仕事をしていたのは良かったと思っています。今、悩んでいる若い人たちも、映画を見たり、小説を読んだりしながら、色々なことを考えて、自分なりの答えを見つけられればいいですね。絶対にこれが正しいっていう答えなんてないと思うんですよ。


 

よしひろまさみち
1972年、東京都新宿区出身。ゲイ雑誌『Badi』ほか音楽誌、女性誌などの編集者からフリーランスに。映画をメインにカルチャー系のライター、編集者として活躍。日本テレビ系『スッキリ!!』での映画コーナーなどテレビ、ラジオにも出演している。

 

2019/06/18 14:54