image

10代レズビアンのリアルな青春とサバイバルを描いた映画原作小説
『The Miseducation of Cameron Post』を翻訳出版して若者に届けたい!

「若者も読める海外クィア女子文学」をもっと日本に – 本プロジェクト立ち上げの経緯 -

こんにちは、サウザンブックスPRIDE叢書です。

『The Miseducation of Cameron Post』、クラウドファンディングの達成率がじわじわ、じわじわと伸び続けています。7/21のクラウドファンディング終了日まで、残すところ40日強。引き続き成立を目指して頑張って参ります!

さて、まだきちんと書いていなかったので、今回は「なぜこのプロジェクトを立ち上げようと思ったのか」についてお話ししたいと思います。

動機は主に2つです。
1つめは『The Miseducation of Cameron Post』の映画版と原作本が、共に素晴らしい作品だったから。
そして2つめは、
「クィアな女の子が主人公のYA(ヤングアダルト)小説、少なくない??」という疑問を抱いていたから、でした。


本書を原作とした映画『The Miseducation of Cameron Post(ミスエデュケーション)』が公開されたのは2018年8月。海外に住む友人たちが次々とこの映画を観に行き、口を揃えて「ものすごくよかった!」と絶賛していました。それを聞いて、へー、と興味を持ったのが最初です。そして私も実際に観てみたら、一気にハマってしまった。映画から入ったクチなのです。はい。

それと同時に、PRIDE叢書メンバーの周辺から「原作本もよかった!!」という声も次々と挙がりました。理不尽な扱いを受けながらも、たくましく生きるクィアな若者たちのいきいきとした描写に惚れ込み、「これは日本語版も出さなければ」と思ったのでした。


(発起人である菊池先生のコメント、まだ読まれていない方はぜひご一読ください。本書の魅力が簡潔にまとまっています)

そしてもう1つ、「クィアな女の子が主人公のYA小説」が日本では少ないということに関しては、以前から感じていたことでした。

文学における「YA(ヤングアダルト)」というのは、主に13歳〜19歳の若者を対象とした読書ジャンルのことです。児童書と一般文学の中間に位置する読みもので、子どもではなく大人でもない、「若いおとな」の時期にこそ読みたい/読んでほしいという本が、世界中で出版されています。

そして、近年刊行される海外YA小説は、LGBTQのキャラクターが登場することが非常に多いのです。特に、ゲイの男の子のキャラが。
邦訳版が出ている書籍では、たとえば、PRIDE叢書第一弾の『ぼくを燃やす炎』(マイク・ライトウッド著、村岡直子訳)は、スペインのゲイの高校生を主人公としたYA小説でした。

ほか、映画『Love,サイモン』の原作となった『サイモンVS人類平等化計画』(ベッキー・アルバータリ著、三辺律子訳/岩波書店)、『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』(ジョン・グリーン&デイヴィッド・レヴィサン著、金原瑞人&井上 里訳/岩波書店)など。いずれも10代の、等身大のゲイ男子が描かれた作品です。
 


『サイモンVS人類平等化計画』

 

そこで思うのです。「あれ?女子が好きな10代女子のYA小説は?」と。

もちろん、女性を愛する女性を描いた文学作品自体は、たくさんあります。海外小説では、映画化もされた『キャロル』(パトリシア・ハイスミス著、柿沼瑛子訳/河出書房新社)や、『レズビアン短編小説集 女たちの時間』(ヴァージニア・ウルフほか著、利根川真紀 編訳/平凡社)などなど。

国内の作品に目を向ければ、20年以上前に書かれた小説からノンフィクション、最近の漫画や同人誌まで、ここには書ききれないくらいのタイトルが挙がるでしょう。私なんかよりずっと詳しい読者の方々や専門家がたくさんいらっしゃるでしょうし、物心ついた頃から百合作品に慣れ親しんでいる若者もたくさんいると思います(私も志村貴子さんの描く百合漫画『青い花』の大ファンです)。(注/※1)

しかし、はじめから<10代の若者に向けて書かれた>レズビアン/クィア女子のYA小説…となると、どうでしょう。ぐっと選択肢が減りませんか。

女性同士の親密な関係性を描いた映画が、男性同士のそれよりも注目されていない現状、また女性監督による女性のセクシュアリティについて描いた映画が少ない現状については、映画版『The Miseducation of Cameron Post(ミスエデュケーション)』監督のデジリー・アッカヴァンも問題視しています。

昨年、『君の名前で僕を呼んで』が日本全国でも大ヒットしました。今年は本作と同じく、同性愛矯正プログラムに送られた10代の若者をテーマにした映画『ある少年の告白』も公開され、話題を呼んでいます。

一方、10代レズビアンが主人公の『The Miseducation of Cameron Post(ミスエデュケーション)』はサンダンス映画祭2018受賞作にもかかわらず、日本では劇場公開されないまま、DVDが発売されただけでスルーとなってしまったのです。クロエ・グレース・モレッツをはじめとする、若い役者たちの名演が光る傑作なのに、残念でなりません。(注/※2)

国内外のLGBT関連書籍の書評をまとめた『にじ色の本棚 LGBTブックガイド』という本に、”「ひとりじゃない」ことがわかる本”と題した章があります。その冒頭文では、以下のように書かれています。
 

「はるか昔、あるいは今現在も、自分と似たような感覚を持って生きている人間がいた/いるという発見は、かけがえのない道標となるでしょう。」

(P14、『にじ色の本棚 LGBTブックガイド』、原ミナ汰・土肥いつき編著/三一書房/2016)

 

この、「ひとりじゃない」「自分と似たような感覚を持って生きている人間がいた/いる」という発見や安堵感を、海外クィア女子文学の翻訳出版という手段で、日本のクィアなガールズ&ウィメンにもっと届けたいのです。

物語の登場人物と自分を重ね合わせて「あ、この感覚、知ってる」「その気持ちわかる」と感じる体験は、楽しいものです。胸が高鳴るものです。時には痛いほど共感して涙が出てきたり、じわじわと勇気がみなぎってきたり、救われる気持ちになったりして、心を大きく揺さぶられます。

すぐ近くに存在していそうな、血の通ったLGBTQの登場人物が私たちの人生に与えてくれるものは、思っている以上に絶大です。「かけがえのない道標」にもなり得ます。

ほかのありとあらゆる人と同じように、日本社会に生きるクィア女子、クィア女性たちにも、物語の主人公に自分を重ね合わせて想いを馳せる資格がある。そしてその資格が「自分にもあるんだ」と気付く瞬間は、人生のうちで早ければ早いほど良いはずです。

誰も死んだりしない、悲劇的なエンディングではない、希望を持って楽しめるハッピーなレズビアン作品は、近年どんどん増えてきました。今後は、レズビアン/クィア女子が活躍するYA小説を、もっと日本の若者に届けたい。

だからこそ、私たちPRIDE叢書は、10代レズビアンの等身大の感情がぎゅっと詰まったYA小説、『The Miseducation of Cameron Post』を翻訳出版したいと強く思っています。

長くなりましたが、以上が筆者の、本プロジェクトにかける想いです。
本作のクラウドファンディングが目標金額に達成したら、もっともっとたくさんの海外クィア女子文学の翻訳出版を目指していきます!

どうか、引き続き、ご支援と情報拡散へのご協力、よろしくお願い申し上げます。

 

【注】
※1:ほか、LGBTQが登場する書籍については、フリーペーパー「BOOKMARK第10号 特集:わたしはわたし ぼくはぼく」や、「東京レインボープライド選 LGBTを知る100冊!」の冊子、読書サロンさん(@dokushosalon)などが詳しいです。ご興味のある方は要チェックです。

 

※2:クィア女子映画が日本に上陸しなかったことへの比較作品として紹介してしまいましたが、『ある少年の告白』自体はとても良い映画だったので、感想はまた別記事で書く予定です。お楽しみに!

2019/06/07 11:19