image

アン・ハサウェイ主演映画の原作『Ella Enchanted(魔法にかけられたエラ 仮)』を翻訳家・三辺律子による新訳で出版したい

翻訳家・三辺律子さんインタビュー②:  マンガ好きなら、海外のYA作品を読んで欲しい

『Ella Enchanted』の翻訳家・三辺律子さんに話をうかがいました。

作品の魅力、翻訳の裏話、ファンタジー作品・YA作品の可能性について、2回に分けてお届けします。(聞き手:伊皿子りり子)

 

■1回目は→こちら

 

伊皿子: 三辺さんといえば、やはりYA作品やファンタジー作品の翻訳をイメージするのですが、なぜ翻訳家になられたんですか? フィクションの翻訳家を目指す方は多いですが、実際にそうなるのが難しい世界ですよね。

 

三辺: 翻訳家になった理由を小さい頃からとても本が好きだったので、と答えるといい感じなんですが、私の場合は少し遠回りしています。たくさん本がある家に育ったので、いま振り返ると確かに小さい頃からたくさん本を読んできたんですが、高校生くらいになると、忙しくなってきますし。大学は英文科に進みましたが、その後、いったん就職したんです。児童文学に本格的に向き合いはじめたのは、仕事を辞めて母校の研究室で働いていたときです。猪熊葉子先生(聖心女子大学名誉教授)の講義を聴講してみたら惹きこまれて、そこで「これだ!」と思ったんです。その後、大学院に入って勉強しました。児童文学にこだわったというよりは、ファンタジーが好きだから自然と児童文学に進みました。卒業論文は『ナルニア国物語』のC・S・ルイス。初めての翻訳の仕事は、研究室で機会をいただいたジャン・マークの短編でした。私自身も大好きな作家だから喜んで訳させていただきました。

 

伊皿子: 翻訳もののファンタジーの現状はどうですか?

 

三辺: 近年、ファンタジーの状況がよくなったのは、『ハリー・ポッター』の功績が大きいですね。日本ではそこでファンタジーブームがきました。

 

伊皿子: ちょうど『ハリー・ポッター』ブームのころ、私は大手書店の洋書売場でバイトをしていたのですが、『ハリー・ポッター』の原書が本当によく売れました。洋書売場は普段は暇なんですが(笑)、特別に棚までつくって展開して。洋書であれだけ売れたのだから、日本語版を買った人が、子どもだけに限らなかったことが当たり前に想像できました。

 

三辺: ああいうことが、日本でも一般的になっていけば嬉しいです。海外では『ハリー・ポッター』のときのように、大人もごく普通にファンタジーを読んでいます。YAの年間売上げランキングの上位にファンタジー作品が入りますし。最近感じているのは、日本でYAがもっと広がらないかということです。YAが好きでたくさん読む人はほんとうにたくさん読むのだけど、その層は限られている。それ以外のところで読まれるにはどうするといいのだろうと模索しているところです。

 

伊皿子: YAのなかでも、たとえばですがファンタジーの読者についてイメージすると、日本の市場ではざっくりと「ファンタジー文学」が好きな層と、「ライトノベル」層に分かれていて、両者の間になんとなく溝があるような気がします。共通の世界観があるはずだけど、意外と双方の読者が交わらないようなイメージ。ちょっともったいない。

 

三辺: ライトノベルで思ったんですが、日本には優れたマンガがあることも影響しているかもしれません。たとえば王道ですが『寄生獣』や『僕だけがいない街』のような設定を持つストーリーが海外のYA作品にはとても多いんですよ。私がいま訳している作品も「性別のない世界」が舞台で、個人が日によって違う人物のなかに目覚めるんです。その日は男の子、次の日は女の子、太った人、貧しい人など、いろんな人として目覚める。そういう設定ってマンガでありそうですよね。海外にはいままで、日本のようなマンガ文化がなかったからYAが発展したのかな、なんて想像したりします。だからきっと、マンガが好きな人は海外のYA作品を読んでみると楽しいと思うのだけど。海外のYA作品にはそうしたマンガ的世界観を持つ作品があるという認識が、まだ日本で一般的にはなっていないのかもしれません。私はマンガが大好きでよく読むのですが、本もまたマンガとちょっと違うもので面白いから、ぜひ読んでみてほしいなと思います。絵がない分、本はビジュアル面で自由に想像しながら読めますから。

 

伊皿子: 日本で刊行されるファンタジー作品、YA作品については、まだまだ一般に浸透していく可能性、市場が成長する可能性があるということを考えると、改めて三辺さんがサウザンブックスのプロジェクトとして『Ella Enchanted』をご推薦くださった理由がよくわかる気がします。

 

三辺: 『Ella Enchanted』は前回言ったとおりで、とりわけファンタジーファンでない方にも理解してもらいやすい良質のファンタジー作品です。ファンタジーを読んだことがない方に最初の1冊として楽しんでいただければ、翻訳者としてこんなに嬉しいことはないので、ぜひよろしくお願いします。

 

 

(了)

2016/09/14 12:54