こんにちは。『ウォーターシップ・ダウンのものがたり』翻訳プロジェクト発起人の森瀬繚です。本クラウドファンディングも残り半月を切りまして、現在は目標値の1/6程度と、なかなか伸び悩んでいるのが実情です。
ということで、テコ入れです。
今回の支援者向け特典として、森瀬繚書き下ろしの小冊子『ウサギ語読本』を制作し、電子版(PDF)については支援者全員に、印刷した紙の冊子については高額支援者(限定30名)に配布いたします。
ウサギ語というのは、『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』シリーズのユニークな要素として作中に出てくる、アナウサギたちの会話に用いられる架空の言語です。たとえば、ファイバー(五番目)、ビグウィグ(大かつら)などのキャラクターたちの名前は、それぞれウサギ語の"フライルー"、"スライリ"の英語訳です。
この言語は、原文ではフランス語で雌うさぎを意味する"Lapine(ラピーヌ)"と呼ばれていますが、「ラパイン」と英語読みされることも。
作者であるリチャード・アダムズは、ウォルター・デ・ラ・メアの『ムルガーのはるかな旅』に出てくる猿たちの用いる言語から、この着想を受けたようです。
なお、『ウォーターシップ・ダウン』シリーズの世界には、ウサギ語とは別に「非常に簡単で、語数の限られた共通語」が存在し、森林や生け垣(ヘッジロウ)の動物たちの間で使用されていることになっています。これは生け垣方言(hedgerow patois、既訳では生け垣共通語)とも呼ばれていて、うさぎたちの良き友として手助けしてくれるカモメのキハールや、ネズミなどのその他の生物とは、こちらの言語で意思疎通をしています。
『ウォーターシップ・ダウンのものがたり』は原書では初版刊行時から、前作『うさぎたち』の方も新しい版には巻末にウサギ語の用語集(グロッサリー)が載っていて(評論社さんの日本語訳には収録されていないようです)、作中で使用されている語彙の大部分が紹介されてはいます。
ただし、作者自身はより多くの語彙や文法を考案していたらしいことが、作中の注釈や用語集の端々から窺えます。たとえば、前述の通り Fiver (五番目)のウサギ語は Hrairoo とされています。ただし、作中のうさぎたちは、4より大きい数が数えられず、「たくさん」と認識すると説明されます。
海外の熱心なファンの中には、小説中で言及されている、決して多くはないウサギ語の語彙や文法を拡張し、日常会話が成立するレベルの言語に仕上げてしまった人々もいます。このあたりは、J・R・R・トールキーン教授のエルフ語と同様ですね。(リンク先の"Frithaes!"のページ参照)
http://bitsnbobstones.watershipdown.org/index.html
さて、用語集には、以下の語彙があります。
Hrai: たくさん。4より大きい数。
Roo: 小さい/少ないことを表す接尾語。
つまり、Hrairoo(フライルー) というのは、正確には「少ない方に数えて、4番目より大きい数」を意味するウサギ語であることが、文外から読み取れるわけです。
ちなみに、『ウォーターシップ・ダウン』シリーズの主人公格である長うさぎヘイズルの名前は、ハシバミを意味する英語名であり、彼のウサギ語名は作中で明かされていません。
にもかかわらず、彼はウサギ語で"君主、長"などを意味する-Rah の称号をつけた、ヘイズル=ラーとしばしば呼ばれます。このことから、彼のウサギ語名は英語名と同じか、かなり近い響きの名前なのではないかとの深読みをする読者もいます。たとえば、おそらく「輝くもの」を意味する Hyzil が候補に挙げられたりしています。
作中には、意味が説明されないウサギ語名のキャラクターもちらほらおります。リチャード・アダムズの手元には、おそらくより多くの語彙を書き留めたノートなり何なりがあったはずなのですけれど、現時点で公開されていないということは、見つかっていないか、あるいは故人の遺志なのでしょうね。
ちなみに、アニメ映画版のフランス語吹き替えでは、ヘイズルはカジュー(カシューナッツで知られるカシューのフランス語名)、ファイバーはマーリン、ビグウィグはブロコリ(ブロッコリーの(略))であったそうな……まあ、これは余談です。
今回、クラファン特典としてご用意する『ウサギ語読本』は、あくまでも原作準拠のものということで、本家の用語集よりも多少詳しいという程度のものを考えております。ただし、それぞれの語彙について作中の使用箇所をページ数と共に併記することで、よりわかりやすいものに仕上げるつもりです。もちろん、『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』(評論社)にも対応しますので、前作の愛読者にもお楽しみいただけるかと。
では、最後までなにとぞよろしくお願い申し上げます。