『男の皮』のクラファンでは真っ先に応援団長を名乗り出てくださったフランス語翻訳者の大西愛子さんから愛と熱のこもった応援メッセージをいただきました!
『男の皮』クラファン、勝手にひとり応援団大西愛子と申します。普段はフランス語の主にバンド・デシネの翻訳をしております。
この『男の皮』ですが、実はわたし自身大・大・大好きな作品で、本当は自分でも翻訳したかったものなのです。フランスで刊行されてすくに面白そうと思い購入して読んで、すぐに持ち込もうと思い、何人か出版社の方にお話ししたのですが、あまりいい返事はいただけませんでした。今回書肆喫茶moriさんが発起人となってクラウドファンディングでの出版を目指すと伺い、これはもう断然応援しようと思って張り切っています。
何故この作品が好きなのか。理由はもういっぱいありすぎて、なかなかまとまらないのですが、最初はタイトルに惹かれました。フランス語の原題はPeau d’hommeといいますが、発音すると「ポードム」です。「ポードム」と聞いてすぐ思い浮かぶのが「ポーダーヌ」、ロバの皮です。「ロバの皮」とはペローの童話で、映画化されてもいますが、日本では『ロバの王女』というタイトルになっているので連想はしづらいかもしれません。
もうひとつは表紙の絵です。なんか中世っぽい? 実はわたし、中世ものが大好きなのです。好きな小説と聞かれたら『薔薇の名前』と答えるくらい好きです。ということで取り寄せて読んだのですが、想像していた以上の面白さでした。
男の皮という奇想天外なアイテムもですが、それだけでなくいろいろ考えさせられる作品でもあります。ジェンダーの問題や愛の形。男女の社会的な違いとかフェミニズム的な視点もありますが、もっと複雑で繊細です。
ザンジムさんの絵も可愛くて、すてき。シナリオのユベールさんは残念ながら亡くなってしまいましたが、この作品を読んでほかの作品も読みたいと思わせるような力がシナリオにあります。とにかく深い。読み返すたびに新しい発見があって、いくらでも語れます。
フランスのサイトを見るとmarivaudageという言葉が使われています。これは18世紀の作家マリヴォーの作品によく見られる軽妙な言葉のやり取りで恋愛を語るスタイルを言うようです。まさに今でいうラブコメ。マリヴォーと言えば『Le jeu de l’amour et du hasard(愛と偶然の戯れ)』がとくに有名で、ここでも結婚を前にした女の子が相手を見極めるために侍女に変装して相手に会おうとするのですが、婚約者のほうも同じことを考えて従者に変装することで生まれるドタバタものなのですが、ちょっと今回の『男の皮』と似てると思いませんか。でもこの『男の皮』というラブコメ、かわいらしい絵柄とは裏腹にかなり深いのです。作者のユベールさんは「一般常識」とか「普通」からはみ出している、外れている人たちに対してとてもやさしいまなざしを持って作品を表現する作家さんです。
すでにクラファンの発起人の森崎さんや翻訳者の井田さんの活動報告などでご存知だと思いますので詳細は省きますが、主人公のビアンカは男の皮をかぶって男になり、婚約者のジョヴァンニがどんな人物なのかを見極めに行くのですが、彼がゲイだということが判明し、そしてあろうことか男の子になったビアンカ、つまりロレンゾをそうとは知らずに愛してしまうのです。習わしに従ってビアンカとジョヴァンニは結婚し、ビアンカはロレンゾを封印するのですが…
結婚してからビアンカが男装して夫と街に出るシーンがあります。本物の男ロレンゾになったビアンカと男装のビアンカはこれまた微妙に違って、こういう繊細で微妙なゆらぎもユベールとザンジムは見事に表現しています。
また中世のタピスリーでよく使われる「異時同図法」がもちいられたり、シーンとシーンを区切るような縁飾りがつかわれたり。でもよくよく見るとこの縁飾りにちょっとした仕掛けやいたずらがしのばせてあったり……。物語を追うのもたのしいですが、一枚一枚の絵を楽しむのもまたとても楽しくていろいろ見つけたことを語りたくなるのです。
歴史的背景もちゃんと抑えられていて、厳格な修道士サヴォナローラみたいな人物も出てきます。
またこの作品はフランスのものですが、ちょっとシェイクスピアにも似ています。イタリアのルネッサンスが舞台だったり、男装する娘が出て来たり(『十二夜』とか『ヴェニスの商人』とか)。
マリヴォーやシェイクスピアが好きな方ならきっと好きだと思います。
さて、この作品は映画化されるそうで、監督は公開中の『ベルナデット』を撮ったレア・ドムナック。そして来年1月にはミュージカル化も予定されています。
映画が日本公開された時、翻訳版が出ているといいなと思います。そしてミュージカルの方も宝塚でやってくれないかなとも。なにしろフランスのミュージカル『ロミオ&ジュリエット』の日本語版を最初に上演したのは宝塚だし、女子が男の子になるというこの世界観もとても宝塚的だと思うのです。
ということでいろいろ書き散らしてしまいましたが、いろんな読み方ができる大傑作なので、ぜひともクラファンが成立しますようにと願ってやみません。
と、ここまで書いて数日経った本日12月112日、クラファン無事成立したという報告がありました。
おめでとうございます!!!
ほんとにほんとに嬉しいです!!!
応援メッセージをお頼まれしたのはだいぶ前なのですが、書きたいことがありすぎて本当に遅れてしまって本当に申し訳ありません。そしてそのせいでこのメッセージもずいぶんと間の抜けたものになってしまいました。勝手にひとり応援団と張り切りながら何もせずに終わってしまった感がありますが、残すところあと数日、さらなるご支援でセカンドゴール?みたいなものをめざしてより豪華な仕様に仕上がるようにと応援したいです。
最後のひと押しになれれば幸いです。
大西愛子
フランス語翻訳者・通訳。『ブラックサッド』シリーズ(飛鳥新社)をはじめ数多くのバンド・デシネの翻訳を手掛ける。近年の訳書は、アルカント、ボレ、ロディエ『LA BOMBE 原爆 科学者たちは何を夢見たのか』(平凡社)、ボニファス&トミー『ジオストラテジクス マンガで読む地政学』(日経ナショナル ジオグラフィック)、スコラスティック・ムカソンガ『ナイルの聖母』(講談社)。
そもそも私が海外マンガにハマるきっかけとなったのは、大西さんが翻訳されたエマニュエル・ルパージュの『チェルノブイリの春』(明石書店)でした。大西さんがこの作品を翻訳してくださっていなかったら、私はいまここでこんなことをしていなかったかもしれません。
大西さん、本当にありがとうございます!
すでに目標金額には到達していますが、魅力的な製本にするためのセカンドゴールを新たに設定しました。
クラファン限定の書肆喫茶mori5周年記念「小冊子」と「貸し棚」のリターンはこのタイミングでしか手に入りません!ぜひご検討いただけますと幸いです!
最後まで応援よろしくお願いいたします!
(発起人 森﨑)