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『Ajaya: Duryodhana's Mahabharata』は、2013年に『Ajaya: Roll of the Dice』、2015年に『Ajaya: Rise of Kali』として2巻構成で発表されたものがコレクターズエディションとして1冊になったものです(以下、『Ajaya』)。マハーバーラタはインドにおける二大叙事詩のひとつとして人々に語り継がれており、パーンダヴァ五王子とカウラヴァ百王子という同族の従兄弟同士が中心となった王位継承戦争を描いています。パーンダヴァ兄弟の長男ユディシュティラとカウラヴァ百王子の長男ドゥルヨーダナは王位継承権を争い、クルクシェートラ戦争でパーンダヴァ兄弟が勝利します。ドゥルヨーダナはパーンダヴァ兄弟の次男であるビーマと戦い、敗北しました。
『Ajaya』は、敗北した側からマハーバーラタを語り直す物語です。話の流れは基本的に叙事詩を踏襲しており、カウラヴァ百王子が勝利するようなことはありません。叙事詩通り、戦いに登場するほとんどの人物は死にます。しかし、ドゥルヨーダナを主人公に据えて叙事詩を捉えることで、長大な叙事詩の中でも描かれなかったカウラヴァ百王子やカウラヴァ側についた人物たちの物語が浮かびあがってきます。
本作は、「生まれた身分によって生き方を規定されるべきではない」というメッセージを強く発しています。これはインドのカースト制と、それにより起こる差別に対する批判でもあります。地方の伝承も加えて神話を見つめ直すことで、政治腐敗や女性差別など現代インドの諸問題についても問い直す作品です。
【あらすじ】
古代インド。輝かしき都ハスティナープラに住まう王子スヨーダナは、世のありようについて素朴な疑問を発しては、保守的な大人たちに目をつけられていた。大人受けのよい従兄弟たちと比較される悔しさも相まって、忸怩たる日々を送るスヨーダナ。だが、幼い彼はまだ知らない。彼の問いから芽吹いたものが、やがて王国を揺るがさんとすることを――。
人生とは賭け事だ。
どんな賽の目が出るかは分からん。
だがひとたび賽が投げられたなら、駒をどう動かすかはお前次第だ。(本文より)
書名:Ajaya: Duryodhana's Mahabharata
著:アーナンド・ニーラカンタン(Anand Neelakantan)
発行年:2018年
仕様:634ページ/1色
ジャンル:単行本/フィクション
ISBN:978-9352011247
著:Anand Neelakantan(アーナンド・ニーラカンタン)
インド、ケーララ州コッチ市出身の作家で、叙事詩や大作を敵役や脇役の視点から語るスタイルを取る。2012年に叙事詩『ラーマーヤナ』をラーヴァナ側の視点から記した“Asura: Tale of the Vanquished” がインドでヒットし、その後も今回推薦した図書の1巻にあたる“Ajaya: Roll of the Dice”などを著している。2017年には映画『バーフバリ』の公式ノベライズ“The Rise of Sivagami”を出版し、そのいずれもがインドの文学賞として影響のあるクロスワードブックアワードにおいて、人気賞の最終選考に残った。2017年に、カリンガ国際文学賞も受賞している。
https://www.anandneelakantan.com/
マハーバーラタについては、世界史でタイトルだけ習った程度でした。原典を読んでみようと思ったのは友達にすすめられて始めたゲームからです。最初はマハーバーラタの登場人物をモチーフにしたゲームのキャラクターに惹かれて、キャラクターについてもっと知りたくて読み始めましたが、読み終わる頃にはパーンダヴァ側とカウラヴァ側、そしてそれぞれの関係者についても思い入れを持つようになっていました。日本語で読めるバージョンに概ね当たったころ、現代のインドでマハーバーラタを新たに語りなおした文学作品が沢山出ていると知り、一部は電子書籍で読めると知りました。しかしほとんどが日本語ではなく、読みたいけれどきちんと最後まで読めるかわかりませんでした。
そんなときSNSの、同じゲームが好きな人のコミュニティで『Ajaya』の話が流れてきました。最初に好きになったのがドゥルヨーダナの友人であるカルナだったので、『Ajaya』がカウラヴァ百王子やカウラヴァ側についた人物たちについて特に書かれた本だと知って気になりました。しかも読んだ人が一様に面白いと言います。電子書籍で購入し、読み始めました。やはり挫折し、何度も最初に戻りました。そう、恥ずかしながら私は英語が得意ではありません。
つまり、私が日本語で読みたくてサウザンブックスさんに『Ajaya』を推薦したのです。これが2020年11月のことです。随分前の話だな? と思うかもしれません。交渉などが難航し、プロジェクトは3年ほど塩漬けになっていました。その間に、冒頭で申し上げたゲームにドゥルヨーダナをモチーフにしたキャラクターが出ています。私は諦めきれなくなって、ある日著者であるAnand Neelakantan氏に直接連絡を取ってみました。詳しく聞きたいとの返事をいただき、翻訳プロジェクトは再始動しました。
ファンになってから、インド映画もいくつか観ました。私の視聴した狭い範囲でも、マハーバーラタをモチーフにしたものはたくさんあり、ドゥルヨーダナにあたる人物をヒーローに据えたのではないかと思えるものもあります。叙事詩のそれぞれの登場人物を大事にしながら現代の視点から創作をしていることが感じられ、『Ajaya』もそうした作品のひとつです。
著者は、本の冒頭にケーララ州のポールヴァリ村のある寺院で見た光景を記しています。カーストを問わず集まった10万人もの人々がドゥルヨーダナを主神とした、熱気に満ちた祭りを行っている様子です。「悪役」であり、支持している者が少ないと思われたドゥルヨーダナが、なぜ神のような扱いを受けているのか。それは村の伝承と関わりがあります。
村を訪れたドゥルヨーダナは、老婦人に水を求めました。老婦人は思わず持っていたヤシ酒を与えましたが、ドゥルヨーダナがそれを飲み干してから自分が彼に飲み物を与えられるカーストではないと気づいたのです。不可触民の老婦人は、真実を告げれば殺されると思いましたが、正直に話しました。するとドゥルヨーダナは「飢えと乾きにカーストは関係ない」と不問に付しました。
詳しくは翻訳がかなったときにAuthor’s noteをお読みください。インドの中でも、このような伝承のある地から見たマハーバーラタは、ドゥルヨーダナは、他の土地のものと全く違うかたちになる。そのインスピレーションを形にした大作を、ぜひ日本語で読んでいただきたいと思います。
発起人:Ajaya翻訳出版を目指すファンの会
代表 木川田朱美
京都市在住。ゲームからマハーバーラタを読むようになり、インドの文化に興味を持つ。好きなインド映画は「ジャイ・ビーム」。サンスクリット語は学習中。最近サリーを着ることができるようになった。
個人のX(Twitter):@mique
Ajaya翻訳出版を目指すファンの会X(Twitter): @Ajaya_jpn
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