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グラフィックノベル史に燦然と輝く傑作
『Asterios Polyp(アステリオス・ポリプ)』を翻訳出版したい!

プロジェクト成立のお礼 その2(発起人矢倉喬士)

こんにちは。『アステリオス・ポリプ』翻訳出版プロジェクト、発起人の矢倉喬士です。

12月15日をもちまして、90日のクラウドファンディング期間が終了しました。最終的に、支援者数785人、支援総額6457050円を集め、達成率134%という想像を遥かに超える数字を残して企画を達成することができました。皆様のご協力の賜物です。心より感謝申し上げます。

この未邦訳の名作グラフィックノベルを翻訳出版に向けて出版社への持ち込みを始めたのが2020年の11月。それから高額の印刷費による出版の難しさを知り、この作品を世に出す方法はクラウドファンディングしかないと思い至り、サウザンブックス社に初めて連絡したのが2021年9月のことでした。その後1年をかけて準備を進め、2022年9月16日からクラウドファンディングを開始し、無事に成立して今に至ります。クラウドファンディング終了の翌日、思いがけぬ出会いがありました。『アステリオス・ポリプ』を7~8年前に翻訳出版しようと活動していらっしゃった翻訳者の方からお祝いのメッセージを頂戴したのです。2009年のアメリカでの出版以来、作品の素晴らしさに惚れ込んで、日本での翻訳出版を目指して活動してこられた方々が何人もいらっしゃったということは、いくつか噂程度に知っていました。自分が悪戦苦闘してきたのはわずか2年ばかりの間でしたが、それよりずっと以前から、この作品は日本の読者に出会うチャンスを掴みかけては、コストの問題に阻まれてきたのだと実感しました。

クラウドファンディングに本格的に関わるのは初めてでしたが、価値や評価が高いにもかかわらず世に出られなかったものを何とかして形にしようとする試みに参加できたことは、自分にとって大きな経験になりました。クラウドファンディングには、開始直後に少し話題にしてもらえる時期、中だるみ期、終盤のお祭り期の3段階があるように感じましたが、とりわけ、開始初期から中だるみ期を支えてくださった皆様に格別の感謝を申し上げたく思います。クラウドファンディングには雰囲気が大切で、最後の方にのぞいてみて成功しそうになっていたら協力しようかなという人間心理も大いに関係しています。その、「成功しそうな雰囲気」まで持っていくことがいかに難しかったか。今回の企画では、最終日の1日で、なんと100人の皆様から新たに支援を得られましたが、中だるみ期にはほぼ何も動かない日もありました。そのような時期に、あまり効果的に響かない感触を抱えながら告知活動に協力してくださった方々がいなければ、終盤のお祭りもありえませんでした。このクラウドファンディングのことを今も全く知らず、これから知る方も大勢いらっしゃると思います。これから新たに知って、一般販売で作品を購入してくださるであろう皆様にも、もちろん感謝の念はあります。しかし、作品が世に出るまでが一番大変で、しかもその中でも一番大変な時期に基礎を築く役割を担ってくださった方々(初期メン)がいたことを、知ってほしく思います。

今回の企画はめでたく成功しました。ただ、クラウドファンディングでの出版の危うさも感じました。終盤にさしかかって、「このレベルの作品が、クラウドファンディングでなくとも出版される世の中であってほしい」というコメントを頂戴しました。このようなコメントに対して、いやいや、普通の方法で出版できなかったからクラウドファンディングを使っているのでしょう、とツッコミたい気持ちにはなりません。「このレベルの作品」、すなわち、既に古典の地位を得ている偉大な傑作に対してクラウドファンディングを使う試みが、文化的な衰退の徴候を示すのみならず、さらなる衰退に加担する可能性は考えられます。この問題の是非は、古典とは何かという問いに歴史的に取り組むことでより見えやすくなると思いますが、一つ申し上げておきたいのは、それではどうすれば良いのかを一緒に考えて頂きたいということです。価値ある作品が、しかるべくして読者に届けられない大きな構造があるとき、どうすればそれが可能になるのかを。

とはいえ、クラウドファンディングでしか得られない素晴らしい要素があったことは、疑いようのない事実です。本がつくられる過程に参加する経験は、私自身、これまで生きてきてそう多くはありませんでした。消費型ではなく、体験型の出版事業には、それにしかない魅力があります。デイヴィッド・マッズケリさんのことを全く知らなかったり、書店で本を買う習慣がなかったり、あるいは、普段全く本を読まないとおっしゃっていた方々にもこの作品が届けられることを嬉しく思います。これからはせがわなおさんと翻訳を進め、さらに、グラフィックノベルでは翻訳に劣らず重要なデザイナーさん(これから交渉いたします)との作業を行って、少しでも日本語版『アステリオス・ポリプ』をより良いものにできるように努めます。2023年の秋頃、作品をお届けできることを制作陣一同も楽しみにしております。ご期待ください。

『アステリオス・ポリプ』翻訳出版プロジェクトを成功に導いてくださった皆様、重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。

 

矢倉喬士

 

 

 

2022/12/19 16:52