image

グラフィックノベル史に燦然と輝く傑作
『Asterios Polyp(アステリオス・ポリプ)』を翻訳出版したい!

発起人からのご挨拶(矢倉喬士)

 こんにちは。デイヴィッド・マッズケリのグラフィックノベル『アステリオス・ポリプ』翻訳企画の発起人の矢倉喬士です。現在は福岡の西南学院大学に勤め、現代アメリカ文学を研究しています。クラウドファンディングが始まってから10日あまりが経過し、これまでに140名以上の皆様から100万円以上のご支援を頂戴することができました。それだけマッズケリ氏の作品が持つ力が大きく、多くの関心と期待を集めるに足る作品なのだと改めて実感しています。目標金額はまだまだ遠く、これから伸び悩む時期が必ず来ると思いますが、その都度できることを模索して試していくつもりです。

 さて、僕が『アステリオス・ポリプ』に出会ったのは、事前告知のページでも書いたように10年近く前に遡ります。大学の英語教材として1学期通して使える面白い作品を探していたときにこのグラフィックノベルに出会い、それ以降これを超える作品には出会っていません。大学の学部時代から、ドン・デリーロやトマス・ピンチョンやリチャード・パワーズなど「百科全書的」と称されるアメリカ作家たちの作風に慣れ親しんでいたおかげで(せいで)、様々な分野の知識が詰め込まれた作品を好んでいました。そうした本を読み進めることは、パズルを少しずつ完成させていくような喜びを与えてくれたからです。『アステリオス・ポリプ』もまた、魅力的なキャラクターたちや鮮やかな色彩や豊かなデザイン性を伴って、飽きの来ない楽しみを提供してくれる作品です。

 共訳者には、はせがわなおさんを迎えます。はせがわさんとは面識こそありませんでしたが、未邦訳の書籍や海外ドラマなどをブログで紹介されてきた活動を長年存じておりました。『アステリオス・ポリプ』の作品の性質を考えたとき、どうしても女性の共訳者が必要だと感じました。

 主人公のアステリオスは偏屈でいけすかない中年男性で、いつも物事の片面しか見られません。彼が描かれるときはいつも顔が横を向いており、目が両方揃って描かれることはほとんどありません。生物は二つの目で見ると視差が生じて、それによって事物の奥行きを理解できますが、アステリオスはそれがうまくできない人間として描かれています。物事を不十分にしか見られず、人間関係も損なってしまういけすかない男性キャラクターのアステリオスの物語を、同じくいけすかない男性翻訳者である僕が一人で翻訳するのは作品に適した翻訳体制ではないと考えました。また、クラウドファンディングによって多くの支援を得なくてはならない企画の性質上、いけすかない男の物語をいけすかない男性翻訳者が担当するのではリーチできる層が限られ、企画の成功率にも良くない影響があるだろうと想像できました。そこで、女性共訳者を迎えて、女性キャラクターのセリフは基本的に翻訳を任せることにしました。そうすれば、この翻訳体制そのものが、「異質な存在どうしは本当に理解し合えるのか、それとも世界は個の拡張に過ぎないのか」という作中の問いと格闘する作業になりえます。

 また、未邦訳書籍の紹介をしている人たちを何人か知っていますが、彼らの活動は適切に評価されていないと常々感じていました。彼らの多くはお金をもらっているわけでもなければ、翻訳者のように読者に広く感謝されることもなく、文芸業界は彼らを利用することはあっても包摂はしないといった状況を見るにつけ、未邦訳書籍の紹介ブログ運営者たちと何かをしてみたいという気持ちをずっと持っていました。『アステリオス・ポリプ』に登場する造形作家のハナは、幼い頃から男尊女卑的な家庭に育ち、年上の兄たちだけが親に愛されており、自分は人生においてスポットライトを浴びることがないのだと感じながら半生を送った人物です。この作品で女性共訳者を迎えるにあたって、文芸業界に長く貢献してきたにもかかわらず適切な評価を受けていない人にスポットライトを当てる機会にできるならば、作品の内容と合致したこの上ない翻訳体制になるはずであると考えました。断られるケースも想定して何人か候補を考えたなかで、ダントツの一番の候補がはせがわさんでした。

 ご挨拶が随分長くなってしまいました。史上最高(と僕は思っています)のグラフィックノベル『アステリオス・ポリプ』の翻訳出版に、考えられる限り最高の翻訳で臨みます。クラウドファンディング期間は残り80日程度ですが、どうぞご協力よろしくお願いします。


(グラフィックノベル全般に言えることとして、出版コストに対して読者数や売れ行きに不安があり、出版社が手を出したがらない傾向があります。そのような現状を少しでも良い方向に変えるために、グラフィックノベルの魅力を広く世に伝える活動ができればと思っています。そのような活動の一環として、9月29日(木)の19時から、福岡天神の書店「本のあるところ ajiro」にて、ニック・ドルナソというグラフィックノベル作家の全作品解説イベントを開催します。2018年の『サブリナ』(藤井光訳、早川書房)という作品が世界的ヒット作となった作家の未邦訳のデビュー短編集や新作を含む全作品のあらすじを紹介し、その後5人のゲストを迎えて話し合います。オンライン配信もあり、リアルタイムでなくてもイベント後2週間ご覧になれます。ぜひこちらのイベントでもグラフィックノベルの魅力をお楽しみください。)


【本のあるところ ajiro】
新作『Acting Class』発売記念 ニック・ドルナソ全作品解説トークライブ(9/29)

 

参加者150名が見えてきました!
 

2022/09/27 11:47