大学でチェコ語を学び、チェコ語で「ダンス」を意味する『tanec(タネッツ)』というタイトルのzineを発行している藤田琳さん。『tanec(タネッツ)』第1号では、ゲーム、映画、音楽、アート、コミック、絵本、人形劇など、チェコの現代のカルチャーが紹介されています。現在、チェコに滞在中の藤田さんが『ペピーク・ストジェハの大冒険』翻訳出版プロジェクトに応援メッセージを寄せてくれました。
私が「チェコ・コミック(České komiksy)』という言葉と出会ったのは、2017年-2018年に明治大学米沢嘉博記念図書館でおこなわれた「チェコ・コミックの100年」展の時です。
2012年のチェコ留学中に購入した本の中にはコミックスも数冊ありましたが、恥ずかしながら当時は「チェコ・コミック」を一つのジャンルとして認識していませんでした。チェコといえば絵本!という思い込みが強かったのか、コミックスも絵本の一種と思って買っていたのです。
(蛇足ですが当時絵本と思って買っていた本の1冊が、スタニスラフ・ホリー作『Procházky pana Pipa(ピップさんの散歩)』です。ポップな色合いが楽しいサイレントコミックスの名作です。)
初めて目にしたチェコ・コミックの原画は、「チェコ・コミックの100年展」に展示されていたパヴェル・チェフのものでした。絵具の質感、綺麗な海の青色、エレガントでどこか可愛いらしさもある手書きの文字が特に印象に残っています。また、研究者の方の講演で伺った、政治体制やイデオロギーに翻弄されたチェコ・コミックスの歴史についてのお話もとても興味深かったことを記憶しています。
この展示で「チェコ・コミック」の世界と出会って以来、研究書を買ってみたり、(研究書のチェコ語は読み進めるのがなかなか難しくたくさん積読していますが…)チェフをはじめとするチェコの作家のコミックス作品を読んでみたり、チェコ・コミックのシーンを1人のファンとして追いかけています。
現在、私は、『ペピーク・ストジェハの大冒険』の作者、パヴェル・チェフの出身地のブルノに住んでいます。地元の作家ということもあり、ブルノの書店にはチェフの本がたくさん並んでいます。
『Knihkupectví Dlouhá punčocha(ながくつした書店)』のショーウィンドウ
上の写真は子ども向けの本を専門に扱う書店『Knihkupectví Dlouhá punčocha(ながくつした書店)』のショーウィンドウです。中央にあるのはチェフの作品『Jirka a indiáni(イルカとインディアンたち)』(2020年、Petrkov)。
※イルカは海のいきものではなくてチェコの男性の名前(イジーのあだ名)です。
店内の様子
店内には、もちろん『ぺピーク・ストジェハの大冒険』も(写真中央)。このコーナーにはさまざまな地域の児童向け作品が並んでおり、ハワイの作品とフィンランドの作品の間に挟まれていました。
コミックスの棚
チェフの作品は一番右に並んでいます。他にも日本でも人気のある『ハートストッパー』や『マウス』、その他チェコの作家の作品など。
店主のマルツェラ・ザホヴァロヴァーさんにチェフについて尋ねると、トルンカの美学を引き継ぐ素晴らしい作家で、またブルノっ子にとても愛されていると教えてくれました。チェフは読者との交流をとても大事にしていて、お店で一度サイン会を開いた際には、読者の子どもたち、大人たちとじっくり話していた姿が印象的だったとのことでした。
Knihkupectví Dlouhá punčochaの外観。小さいながら良質な本でいっぱいのお店です
内観
写真には写っていませんが、マルツェラさんにお話を伺っている間、平日にもかかわらず多くの人が訪れていました。
ブルノの街中で見つけたチェフのイラスト。旅行会社のロゴとパンフレットが貼られた掲示板です
今回のクラウド・ファンディングプロジェクトがはじまるという話を伺った時、チェコ人に愛されるチェフの作品は、初めて日本語に翻訳されるチェコ・コミックとしてぴったりの作品だと感じました。この作品を日本の皆さんと一緒に楽しめることをとても楽しみにしています。
藤田琳(ふじた・りん)
1992年生まれ。東京外国語大学チェコ語専攻卒業。
さまざまな人が「踊りたくなるくらいに好きなもの」を紹介するzine『tanec(タネッツ)』(チェコ語でダンスの意)を発行しています。現在は、次号発行に向けて取材中。チェコをはじめとした世界のコミックスを紹介する号になる予定です。