発起人の1人、パーレニーチェクが日本のマンガ研究者と初めて会ったのは、明治大学米沢嘉博記念図書館で開催された「チェコ・コミックの100年」展でした。サウザンコミックス編集主幹原正人さんとお会いしたのもその時です。小田切博さんは展覧会明大チームとして準備に関わられていて、大変お世話になりました。世界各国のコミックの知識と圧倒的な情報量、大衆感情がどのようにコミックに表現されていくかなどの文化と社会への深い洞察力の持ち主で、研究者、講師だけでなく、多くの書籍の著者でもある小田切博さんに応援メッセージを頂きました。
私が「チェコ・コミック」にはじめて触れたのは、2017年9月から翌2018年1月まで明治大学米沢嘉博記念図書館でおこなわれた「チェコ・コミックの100年」展のお手伝いをしたときのことです。
パヴェル・チェフはこの展示における第一期のメインフィーチャー作家であり、今回のクラウド・ファンディングの対象である『ぺピーク・ストジェハの大冒険』を含むその美しい色彩の原画に触れたことをたいへん幸福な経験として記憶しています。
東欧(現地のひとたちにとっては「中欧」という認識だということもそのときはじめて知りました)の文化国家であるチェコのカルチャーは日本国内でも人気が高く、絵本やアニメーションは有名ですが、この2017年の時点ではそのコミック文化はほとんど紹介されていませんでした。
「チェコ・コミック」という概念自体、展示前年の2016年7月にチェコセンター東京でおこなわれたパヴェル・コジーネク氏(同氏には明治大学での展示にもご協力いただきました)による講演「学べて楽しいチェコ・コミックの100年」で紹介されたのがおそらく初であり、「チェコ・コミック」作品そのものの翻訳の一般発売は今回のプロジェクトがはじめてのことになります。
もちろんこれまでも「チェコ絵本」や「チェコ・アニメーション」などのチェコの現代文化を紹介する文脈で「チェコ・コミック」にも関わる作家や作品の紹介はなされてきていますが、散発的な作家や作品単位のそれではなく、「チェコ・コミック」のような文化カテゴリ自体の国内流入に初期の段階から関わることができる機会はそうあることではありません。
その意味では、今回のクラウド・ファンディングはパヴェル・チェフという作家だけでなく、「チェコ・コミック」という日本人にとって未知の文化の本格的な初紹介であり、ぜひみなさんにもこのプロジェクトを通じて、今後チェコと日本の文化交流史に残るであろう、歴史的機会に立ち会っていただきたいと思います。
小田切 博(おだぎり・ひろし)
フリーライター。著書『誰もが表現できる時代のクリエイターたち』、『戦争はいかに「マンガ」を変えるか:アメリカンコミックスの変貌』(NTT出版)、『キャラクターとは何か』(ちくま新書)共編著『アメリカンコミックス最前線』(大日本印刷)。