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ぼくはゲイ「なんか」じゃない…。
地方都市に暮らす男子高校生たちの苦しみや友情と恋心を、
リアルに描く『ぼくの血に流れる氷』を翻訳出版したい!

「結婚の自由をすべての人に」東京二次訴訟原告/活動家の山縣真矢さんから応援が届きました!

 サウザンブックス社の記念すべきPRIDE叢書第1弾となった『ぼくを燃やす炎』で、ありがたいことに、生まれて初めて本の帯のコメントを書くという栄誉にあずかりました(おそらく、これが最初で最後?笑)。
 このたび、その『ぼくを燃やす炎』の主人公オスカルの親友であり初恋の相手でもあり、学校でのいじめのきっかけもつくったダリオを主人公とする姉妹編『ぼくの血に流れる氷』の出版をめざすクラウドファンディングが立ち上がり、すでに後半戦に差し掛かっています。
 ダリオという得体の知れない人物について、もっともっと知りたい! 読みたい! クラファン成立させたい!
今から刊行がとても楽しみです。

 『ぼくを燃やす炎』のオスカルは親友のダリオに恋をし、告白したことが原因でゲイであることが学校中で知られることとなり、苛烈ないじめを受け、自傷行為を繰り返すようになります。社会の縮図たる学校という空間に漂うホモフォビアが、オスカルに刃を剥き、孤立させ、居場所を奪いました。
 家に帰ったら帰ったで、家族に暴力をふるう「マチスモ」の権化のような父が、露骨なホモフォビアをオスカルにぶつけてきます。そこにも、オスカルの居場所はなく、ただ、浴室で、自室で、カッターの刃を皮膚に当てることでしか心のバランスを取ることができません。
そんな過酷な状況に彼を追い詰めた張本人が、ダリオです。

 『ぼくを燃やす炎』の中で、ダリオは、友人同士のちょっとした戯れとして、オスカルの気持ちを弄ぶかのように彼を性行為へと誘い、性欲を満たしますが、キスだけは拒み、その一方で、それだけでは満足できないオスカルから「好きだ」と告白された途端、ホモフォビアを爆発させ、「気持ち悪いんだよ」と吐き捨て、オスカルに軽蔑の目を向けて立ち去ります。
 けれども実は、ダリオもオスカルのことが好きでした。だから、オスカルに向けた「気持ち悪いんだよ」は、ダリオ自身に向けられたものでもありました。ダリオの内なるホモフォビアが、「ゲイであること」を強烈に拒絶し、唯一の家族である祖母に知られることを過剰に恐れるあまり、それが反動となってオスカルに向かい、彼の高校生活を地獄の日々にしてしまいました。
他方、軽蔑の眼差しを向けられたオスカルは、「全部、ぼくのせい」と自分を責めます。ここでも内なるホモフォビアが発動します。

 結局のところ、ホモフォビア=同性愛嫌悪なのです。
『ぼくを燃やす炎』のオスカルも、『ぼくの血に流れる氷』のダリオも、突き詰めれば、社会に巣食う、この「ホモフォビア」という妖怪に翻弄され、自分の身体を傷つけ、自分の心を傷つけ、悩み、苦しむのです。また、そのホモフォビアを内面化し、自身の中に取り憑く「内なるホモフォビア」に、悩み、苦しむのです。

ホモフォビアという妖怪は、スペインに限ったことではありません。

 法律上同性同士のカップルが結婚できないのは憲法違反ではないかと訴えている「結婚の自由をすべての人に」訴訟(いわゆる同性婚訴訟)の大阪地裁判決が、先日(6月20日)出されました。昨年3月の札幌地裁判決では「違憲」と判断されたのに、今回の大阪地裁は「合憲」としました。
 その判決文では、婚姻を「男女が生涯続く安定した関係の下で、子を産み育てながら家族として共同生活を送り次世代に承継していく関係」とし、この関係を法的に保護するのが婚姻の目的としました。およそ先進国の裁判所とは思えない書きぶりで驚きましたが、このような言説は「異性愛規範」をさらに強化するものであり、異性愛規範はホモフォビアの温床となってそれを補強し、社会にのさばらせます。

6月13日の神道政治連盟国会議員懇談会で配布された冊子が、同性愛を「精神の障害」「依存症」等とし、LGBTの自殺率が高いのは社会の差別が原因ではない、とするなど、人権を蹂躙する非科学的な内容のオンパレードだとして問題となっています。
 参考リンク

 日本においても、ホモフォビアやトランスフォビアが溢れかえっており、日本の津々浦々で、オスカルやダリオのような境遇にさいなまれている若者が、いま現に苦しんでいるのです。

 ホモフォビアという妖怪が世界を徘徊することがなければ、お互いのことを恋しく思っているオスカルとダリオは、傷つくことも、傷つけ合うこともなく、周りのことなんか気にする必要もなく、好き合い、愛し合い、付き合うことができたことでしょう。そんな世界が早く到来することを願って止みません。

 『ぼくの血に流れる氷』のクライマックスは、「プライドパレード」のシーンだと聞きました。そこに向けてどのような物語が展開していくのか。今から手に取るのが待ち遠しいです。



山縣真矢
1967年岡山県倉敷市生まれ。出版社に勤務後、現在はフリーランスの編集者・ライター。2002年から東京のプライドパレードの運営に携わり、2011年5月に任意団体「東京レインボープライド」の設立に参画し、2012年9月から代表に。2015年8月に「特定非営利活動法人 東京レインボープライド」設立に合わせて共同代表理事に就任。2019年9月に勇退し、現在は顧問。2021年3月に提訴した「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)の東京二次原告の一人でもある。また、故郷・岡山で2021年11月に初開催されたプライドパレード『岡山レインボーフェスタ』の主催団体「ももにじ岡山」のメンバーで、今年は10月16日(日)に開催予定。

2022/07/08 16:08