こんにちは、サウザンブックスPRIDE叢書です。
『ぼくの血に流れる氷』出版プロジェクトへのご参加、誠にありがとうございます。
主人公のダリオが守りたかったもの、そして恐れていたものは何なのか…。いち早く原書を読んだ翻訳者の村岡直子さんに本書のレビューを書いていただきました!
『ぼくの血に流れる氷』レビュー
ゲイの少年オスカルの苦悩とひたむきな恋を描いた小説、『ぼくを燃やす炎』(通称「ボクモヤ」)。その姉妹編に当たるのが本書『ぼくの血に流れる氷』(仮題、通称「ボクナガ」)です。主人公はオスカルの元親友であり初恋の相手だったダリオ――。「ボクモヤ」を読んでくださった方なら、これを聞いたとき「え? オスカルを冷たくあしらった上にアウティングをしていじめの原因を作った、あのダリオ?」と思われたかもしれませんね。
そうなんです。「ボクモヤ」でのダリオは、オスカルを性的関係に誘っておきながら「これは友だち同士のお遊びだ」とうそぶき、意を決してオスカルが想いを告げると、さっと背を向けたばかりか「おまえ、気持ち悪いんだよ」とまで吐き捨てる、ひどいやつでした。だけど彼がそうしたのには、いや、そうせざるを得なかったのには、それなりの理由がありました。
ダリオもオスカルのことが好きでした。もしかしたら、想いの強さはオスカル以上だったかもしれません。でもオスカルのことを好きだと認めるのは、自分がゲイであると認めることにほかなりません。マチスモの考えが色濃く残る旧弊な村では、ゲイであることがばれるのは死活問題です。さらに、早くに両親を亡くし、親友だったオスカルやフェルとの関係まで自ら壊してしまったダリオは、失うことを何よりも恐れています。現在の彼の家族と呼べるのは、たったひとりの祖母と愛犬だけ。信心深くて昔気質の祖母にゲイだと知られたら、家を追い出されるかもしれません。今や心から笑えるたったひとつの場所となった家庭だけは、どうしても失いたくなかったのです。
大切なものを失わないためにダリオは、もうひとつの大切な存在だったオスカルに対して、血管のなかに氷が流れているかと思うほど冷たい態度をとりました。そんな自分がいやで、罪悪感に責めさいなまれて、夜ごと悪夢にうなされるようになります。だれにも相談できず、心を開けず、そしてオスカルへの思いも断ち切れず、七転八倒の苦しみを味わうダリオ。読んでいるうちに思わず、そんなに苦しまなくていいよ、と声をかけたくなります。人一倍ナイーブで傷つきやすいのに、脆さを見せたくないがために虚勢を張ってしまう。そうすることで自分もさらに傷つき、他者をも傷つける。「ボクモヤ」ではオレ様キャラだったダリオですが、その内面を知るうち、いつしかわたしのなかでは危なっかしくて、守ってあげたくなる男の子に変貌していました。
自己否定の闇に沈んでいたダリオも、やがて自分を変えるため、小さな(でも彼にとっては大きな)チャレンジを始めます。勇気を出して自分の弱さや卑怯さと向き合い、歩き出そうとするダリオの物語を、日本語にして皆さんに届けられる日が来ることを心から願っています。
村岡直子
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