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円卓の騎士ガウェインが、謎に満ちた探求の旅へ―
アーサリアンポップの傑作が今、蘇る
『五月の鷹(The Hawk of May)』を復刊したい!

一部先読み原稿を公開!

こんにちは、サウザンブックスです。
プロジェクト終了まで残り1ヶ月を切り、目標達成率157%、参加人数は567人となりました。深く感謝申し上げます。

より多くの方に本書の魅力を広めていきたく、作業中の翻訳原稿を一部公開いたします!
拡散のご協力よろしくお願いいたします!!


ガウェイン卿が身に覚えのない罪で糾弾され、「すべての女性が最も求めるものは何か」という謎解きの旅に向かう前夜の場面です。

(原稿は作業中のものになります。完成版とは異なります。)
 


 

 ガウェインとイウェインは、控えの間の窓辺で、チェッカー盤をはさんですわっていた。ギャレスは、反対側の窓辺で長々と横になって本を読んでいる。アグラヴェインとガヘリスは、横長の衣装箱の両端に向かい合ってすわり、たいして気がのらないようすでサイコロを振っている。暖炉の前のスツールにすわっているケイが、ときおり勢いよく立ちあがっては大広間を見わたすことのできる小窓をのぞきにいく。何度目かのこと、それまでと同様なんの成果も得られぬままもどってきたケイは、ギャレスの傍らで立ちどまった。ギャレスは本から顔をあげた。

「こんな暗がりで本が読めるわけがないだろう」ケイがいらだたしげにいった。

「問題は、我々が明かりを求めることのできる身なのか、それとも、全員が囚われの身なのか、ということだ」ガヘリスだ。

「兄貴が囚われの身なら、我々もみなそうだ」アグラヴェインが、怒りのこもった声でいう。

「ばかなことをいうのはよせ!」ケイはぴしゃりというと、扉に歩みより、戸口から「ロウソクを灯せ!」と使用人に向かってわめいた。小姓の少年は点火用の細長いロウソクで部屋の明かりをつけてまわり、ケイは暖炉に薪をもう一本くべた。少年が出ていくと、ケイは背筋を伸ばしてガウェインを見た。「あの娘の気が変わったということか? それとも、その晩おまえといっしょにいたことを父親に知られたものだから、あとからあんな話をでっちあげたのか?」

 ガウェインは立ちあがると、窓から離れた。

「まったくすばらしいよ。友人たちがいかに私の言葉を信じてくれているか、よくわかった」ガウェインは、苦々しげにいった。「あの娘にはその気があったのか、気が変わったのか、ほんとうにあれはすべてあの娘が企んだことなのか、だと? あの娘にその気があろうとなかろうと、あの娘とはなにもなかったのだ。だが、そういっても信じてくれるのは、どうやらパーシヴァルだけのようだ――もっとも、あいつがいくら肩をもってくれたところで、たいして役に立ちそうもないが」

「そのとおりだな」ガヘリスが楽しそうにいう。「あいつときたら、この世界には男と女がいるということも知らずに育ったようなやつだ。この件では、まともな判断なんかできないさ」

 ケイが興味を示した。「それでは、あいつは母親のところの修道女たちと自分の違いにも気づいていないというのか?」

「気づくものか。おそらく、修道女たちとそういう間柄になったことなどなかろう。あなたやガウェイン兄さんと知り合ったころのあいつときたら、ろくにひげも生えていなかったんだ。修道女のなかには、あいつよりよほどひげの濃いものがいただろうな……」

「パーシヴァルがどんな性教育を受けたかだと? それがそんなに大事なことか?」ガウェインがぴしゃりといった。「事実はこうだ。愛すべきうぶなパーシヴァルを除けば、おまえたち全員が私の潔白を疑っているということだ。そうとも、おまえたちは私のためにいろいろと弁解をしてくれるだろうさ。親切きわまりないことにな。しかし、心の底では、私が、もてなしてくれた主人の娘に乱暴をはたらいたとか、そそのかしたとか、あるいは彼女の善意につけこんだなどと思っている。ありがたい友人をもったものだ!」

 ケイは気まずそうな顔をし、ガヘリスがガウェインに答えた。

「男たちは、そんなふうに思っているかもしれない。しかし、女たちは、だいたい半々に分かれているだろう。女のうち半分は、潔白だろうと思っている。というのも、兄さんは自分たちになんの関心も示さないのだから、ほかの女にも興味をもたないにきまっていると思いこんでいるのさ。あとの半分は、潔白を疑っている。なぜなら、兄さんが自分たちに関心を示さないのは、ほかの誰かとこのうえもなく不名誉なことになっているからではないかと勘ぐっているのだ」

「少しは黙ってられないのか?」アグラヴェインはサイコロを投げだして、脇に押しやった。「笑いごとじゃないんだぞ。これは、明らかに兄貴の命をねらう陰謀だ」

 ガヘリスは眉をあげ、つぶやいた。「なんてことだ。なぜ誰ひとりそのことに気づかなかったのだろう?」立ちあがって小窓に歩みよると、低く息をもらして大広間を見おろし、振り返った。「どうやら、国王がようやく話しあいを終えたようだ」

 そのとき、階段から足音が響いてきた。

 扉がさっと開いて、王妃が足早に入ってきた。そのうしろに、王とベドウィアがつづく。ギャレスとイウェインとアグラヴェインが立ちあがった。ベドウィアは振りむいて、小姓や侍女たちをさがらせると、扉を閉めた。王妃グウィネヴィアは、暖炉の前の背もたれの高い椅子に腰をおろすと、怒りで身を震わせながらガウェインを見あげた。

「ガウェイン卿、あの連中があなたを手にかけようとしているのに、国王は好き勝手にさせるおつもりですわ」

 王はいらいらと息を吸うと、首を振った。王妃は国王をにらみつける。

「これがどういうことかおわかり? あの――あの獣がわたくしを裁定者に定めたということが、どういうことなのか? わたくしがあなたに手を貸すことのないようあの男がしくんだことだ、と国王陛下はおっしゃいます。わたくしなら、あの男の卑劣な謎の答えを教えることができましたのに!」

「それでは、まちがいなく、ほかにも答えを知っている者がおりましょう」ガウェインは、どうということはないというように、努めて明るい声を出した。「ともかくも、答えがあるとわかって、ほっといたしました」

 王妃は皮肉な笑い声をあげた。

「どこかで答えにいきあたったとしても、それが答えだということがどうしてわかるのです? わたくしはほんの少しも手引きできないのですよ――それが正解だということを、わずかな言葉、わずかな身振りで示すことすらできないのです。国王がそうしろとおっしゃるのですからね!」

「陛下はそうなさる以外にないのです」ベドウィアがいった。もう何度も同じことをいったといわんばかりの口調だ。

「そうでしょうとも!」王妃はぐいと頭をそらした。はちみつ色の金髪がひと房、宝石をちりばめたちネットからはみだしている。王妃は、それをいらだたしげに顔から払いのけた。「裁きはおこなわれなければなりませんものね! その評判になにひとつ汚点のない国王の甥と、どこかの身持ちの悪い小娘のどちらが嘘をついているのかということになれば――〈明らかに〉それは国王の甥にちがいない、そういうことですのね?」

「告発されたときにはっきりと否定しなかったのは誰か、思い出してください。あれでは、いい印象を与えたとはいえませんな」ベドウィアは眉をあげて、ガウェインをじろりと見た。

「約束してしまったのです。そのために申しひらきすることができないのです」ガウェインは、うんざりしていった。「あの娘の命が危険にさらされるかもしれなかったのです」

「娘の命ですって?」王妃が叫んだ。「ご自分の命はどうなのです? 約束のことなら、心配はいりません。国王には、あなたをいかなる誓約からも解き放つ権限がおありです。そうでしたわね? ことに、今回のような場合には。だって、どう見ても、あなたは計略にかけられたに違いありませんもの」

「もう遅すぎます」ガウェインがいった。

 王妃は、冷ややかな目でガウェインを見た。

「なぜ?」王妃は、王のほうへ顔を向けた。「なぜですの?」

「ガウェインのいうとおりだ。今、ガウェインを約束から解放し、その約束のために申しひらきができなかったのだと説明すれば、人々は、ガウェインを救うために我々がでっちあげた話だというだろう」王がいった。

「人々がなんといおうと、どうでもよいではありませんか?」王妃は、険しい目で部屋を見まわした。

「グウィニー、おまえにはよくわかっていないようだ。この件では、人々がなんというかということこそが重要なのだ」

「わかりましたわ」王妃は不快感をあらわにして、王を見た。「わたくしの頭では理解できないと思っていらっしゃるのね。男の問題に口をはさむなと。わたくしのかわいい頭を悩ませるなと――」

「グウィニー!」王妃の言葉をさえぎって、王がいった。「頼むから、少し話をきいてくれ。これが陰謀だということくらい、我々はみなわかっている。ガウェインはあの男の計略にかかって、充分な申しひらきをすることもできない。だが、この陰謀は、ガウェインひとりに向けられたものではない。私とおまえ、いや、我々すべてに対する陰謀なのだ。我々が実現しようとしてきた公正なる政に傷をつけようとしているのだ。私がガウェインを少しでも特別に扱えば、人々はいうだろう――ほかの者には秩序を守らせるが、身内の者には好き勝手をさせる、とな」

「けれど、ガウェインに対するあなたの扱いは、特別どころかほかの者以下ではありませんか」王妃が異議を唱える。「ほかの者の場合には、訴えでた者に裁きの条件を定めさせたりしないでしょう」

「身内には厳しくせざるをえないのです。ひいきしていないということを示すためにね。確かに、公平ではないかもしれません。が、そういうものなのです――身内に対するときには」ケイがいった。

「それでは、誰かがわたくしの陰口をたたいておもしろがるようなことがあっても、わたくしには夜の女ほどにも思いやりをかけてくださらないということですのね。そういうことでしょう?」王妃が憤然といった。いまや、不信の念が怒りにとってかわろうとしている。

「そういったところだ」王はそっけなくいった。「あの男を支持する声をきいたろう。明らかに打ち合わせてあったものだ。が、そうとわかっていても、人々はその声にまどわされてしまった。あのような状況では、我々はその場で身の潔白を証明するか、ことの成りゆきを受けいれるしかない」

「それではこういうことになりますわね」王妃はゆっくりといった。「あなたがガウェインに対する訴えを退ければ、人々はガウェインをかばっているといい、それを口実にあなたに対する反乱を起こす。もしあなたが訴えを認めれば、あなたは優れた家臣をひとり奪われることになる」

「最も優れた家臣というべきでしょう」イウェインがいった。

「ここにいる者すべてが認めるところだな」ケイが憂いを帯びた声でいう。

 ベドウィアが暖炉のそばにきて、炉棚にもたれた。

「しかし、事態はもっと深刻だ」ベドウィアは、オークニー一族の顔を順に見た。「最も優れた家臣であろうと、家臣をひとり失っただけでは、国を揺るがす大打撃にはならぬだろう。問題は、国王が失うのはひとりではないということだ。そうだろう、アグラヴェイン?」

「そのとおりです」アグラヴェインはうつむいて、床をにらみつけた。「陛下が兄の命を不当に奪うようなことがあれば、私は陛下に従うことはできません。そう思うのは私だけではありますまい。おそらく、ほかの兄弟も」

「それに、私も」イウェインが言葉をはさんだ。

「いかん!」ガウェインが声をあげた。

「すまない、兄さん。しかし、万が一にも〈そのような事態〉になれば、この問題はもう兄さんの手を離れる。そのときには、我々は、なにをなすべきか心を決めなければならない」ガヘリスがいった。

「でも、それはあんまりですわ!」王妃が声をあげた。「そんな事態になったとしても、国王のせいではありませんもの!」明らかに、夫の責任問題について考えを変えたようだ。

「そうかもしれませんが、」アグラヴェインは、頑として譲らない。「陛下と同様、我々にもまた果たさねばならぬ義務があるのです。一族の名誉に関わる問題ですから。叔父君ならわかってくださるでしょう」

「もちろんだとも」王の声には疲労が表れていた。「このような状況では、当然の成りゆきだ」

「それでは、あの連中がわたくしたちやわたくしたちの体制を打ちのめそうとしているときに、なにひとつできることはないというわけですのね?」王妃の怒りは落胆に変わった。

「していただけることがございます。ぜひ、王妃様のお力をお貸しください」ガウェインがいった。「グリムの娘、グドルーンを保護してやっていただきとうございます。父親の手の届かないところで守られていると確信できれば、あの娘は自分から訴えを取りさげるかもしれません」

「なんですって?」王妃は背筋を伸ばした。「あの身持ちの悪い小娘をわたくしの住まいに入れるですって?」

「娘を買収したといわれるのがおちだ」ケイがいった。

「重要な証人であるから保護する必要がある、そういってはどうか」ベドウィアだ。

「そして、ガウェイン兄さんはそのあらがいがたい魅力で――女たちにとって命とりともなる魅力で――グドルーンに迫る……」ガヘリスが口をはさんだ。

「だれにとっての命とりだ?」ガウェインは顔をしかめた。「そのようなことをしたら、ますます事態を悪くするということがわからないのか? いずれにせよ、私はここにとどまるつもりはない。明日、宮廷を離れる」

「なぜです?」王妃がたずねた。

 ガウェインは肩をすくめた。「とどまれば、耐えがたい立場におかれることになるでしょう――国王もまた、同じ思いをなさることになる」

「ガウェインのいうとおりです。グリムとその一味は、ガウェインを一年のあいだ牢に閉じこめるべきだと主張しました。保釈金を積み、連中の思いどおりにはしなかったが、ガウェインが相変わらず王族の王子として扱われているのを見たら、あの連中はひどく騒ぎたてることでしょう」ベドウィアがいった。

 王妃は納得がいかないようだ。「けれど、ガウェインは、まだ正式に裁きを受けたわけではないでしょう――なぜ、あたかも罪人のように扱われなければならないのです?」

「まだ疑いがかかっているからです。疑いが晴れるまでは、国王にお仕えするにふさわしいとはいえません。いずれにせよ――」ガウェインは、ほほえんだ。「ここから離れれば、私の名誉だけでなく王妃様の名誉も守られることになります。これから十二か月のあいだ私がいつもおそばにいるとしたら、王妃様は、あの謎の答えを私に教えたいという誘惑にあらがうことがおできになるでしょうか?」

 王妃は軽蔑と怒りでかっとなって、立ちあがった。

「名誉ですって? みんな、気は確かですの? 死んでしまったら、名誉がなんの役に立ちましょう? グリムの一味とオークニーの王子たちとのあいだで王国が分裂するようなことになったら、名誉などわたくしたちにとってなんの役に立ちましょう?」

「そうではないよ、グウィニー」王がいった。「そういう考えは――」

 しかし、このたびばかりは、王妃も黙ってはいなかった。

「考えなんかではありませんわ」王妃は声を荒らげた。「常識です。あなたがた男性は、名誉だの正義だの真実だのについてご立派な考えを口になさいますけど、そのようなものにいったいどのような意味があるというのです? 名誉だの正義だのをうとましく思っている悪漢が現れたとたん、なにもかもクモの巣のように払いのけられてしまうのです。文明などというものは、万人が規律に従って行動してこそ、保たれるもの。欲しいものが手に入らず不満をもっている者が棒きれを一本突っこんだら、たちまち崩壊してしまうのです。けっこうですわ、それほど大切なら、その名誉とやらをしっかりお守りなさいませ。きっとずいぶんとお役に立つでしょうよ!」

 王妃は足音も高く部屋を出ると、たたきつけるように扉を閉めた。石造りの階段を駆けあがり、王妃の間に入る物音がきこえる。

「これだから女は!」イウェインはため息をついた。

 ケイは、言葉を慎めというように顔をしかめたが、なにもいわなかった。

「グウィネヴィアも本気でいっているのではない」王はいいながらも、実のところ、そうであってくれればよいがと思っていた。

「我々もみな、ときに、王妃様と同じことを考えたことがあるのではありませんかな?」ベドウィアがいった。

 ガウェインは窓際にもどると、チェッカー盤から駒を拾いはじめた。「ご覧のとおり、すでに我々のあいだにひびが入りはじめている」

「我々も、宮廷を離れたほうがよさそうだな」イウェインがいった。「おれはガウェインについていく」

「いや、私はひとりでいくつもりだ」ガウェインが答えた。

「だが、オークニー一族が宮廷を離れるという考えは、悪くないぞ」ベドウィアがいった。「民衆を煽りたてて我々を打ちたおそうとしているあの悪党どもを、誰かが監視していなければならぬ。とすれば、そなたたちこそうってつけだ。オークニー一族が、なんらかの理由で、ガウェインの不祥事の巻きぞえになったと思わせておく――あるいは、憤慨して宮廷を離れたと思わせておく。そうすれば、連中はもっとあからさまな行動に出るかもしれぬ。我々の考えているようなことをもくろんでいるとしたら、連中が一族の誰かに接近してくることもありうる!」

「我々をひきこむことなどできるわけがない。そうではありませんか?」アグラヴェインだ。

「連中は、そなたたちが国王に恨みを抱いているものと考え、そこにつけこもうとするのだ」

「そこだ。だからこそ、グリムは、ガウェインに一年もの猶予を進んで与えたのだ」王が指摘した。「そのあいだに、人々の不満をさらにかきたてることができる。それぞれの不満の種が違っていてもかまわないのだ。理由がなんであれ、不満の矛先を私に向けられればな!」

 ガウェインは、すべての駒を几帳面にきちんと箱におさめた。

「それでは、我々はみな明日、それぞれに旅立ち、一年後の今日、また集うということですね。どこで?」

「カーライルだ」王は答えると、ふいに友人たちに背を向け、大広間を見わたす小窓へと足早に向かった。「マーリンがここにいてくれたら」

「陛下、ご注意ください。そのお言葉、司教の耳に入りませぬよう」」ガヘリスがいった。

 王は窓敷居をいらいらと指先でたたきながら、大広間をじっと見おろしていた。ふいに、ガウェインは、戦いと数々の耐えがたい決定を繰り返した二十年間の歳月を叔父の顔に見て、激しい思いに駆られた――あのとき、グリムがベッドのなかの私を殺してくれていたら、どんなによかったろうか。グリムは、私に一年の猶予を与え、私ばかりか国王までも破滅に追いこもうとしている。いっそ、あのときに命を奪われていたほうがよかった。

 ガウェインには、大広間を見つめる王の心の内がわかった――一年ののちに集うとき、はたしてカーライルの宮廷はまだあるだろうか?

「ボールドウィン司教とマーリンは、品位をわきまえ、理性的に意見をたたかわせてくれるものと思っていたのだが。私には、あのふたりのどちらも必要だった」王がいった。

「予想を上まわるものでしたな。好戦的な司教と平和主義の異教徒、そうでしょう? 雄牛とラバをくびきでつなぐほうが、まだましですよ。いつかはどちらかを選ばなければならなくなるだろうと、はじめからはっきりとわかっていた」ベドウィアがいった。

「少なくとも、マーリンはそうせずにすむようにしてくれたわけだ」王は暖炉のそばへもどると、椅子に腰をおろした。「だが、ニニアンとともに去っていくとき、マーリンは、もう自分がいる必要はないといったのだ。必要ないだと? とんでもない! 六か月のあいだに二度も命をねらわれ、今度はこれだ!」

「二度目の暗殺計画については、ニニアンをよこして、知らせてくれたではありませんか」ケイがいった。

 ガウェインはきっとして、ケイを見た。

「ニニアンがもどってきたのだとすれば、マーリンはどこにいるのだ?」

「彼女はもどってきたわけではない。姿を現し、考えを述べると、また姿を消してしまった。マーリンが自分をよこしたのだとはいったが、マーリンの居所はいわなかった」王がいった。

「マーリンは、今回もなにかしてくれるかもしれませんよ」ギャレスがいった。

「かもしれん」王の口調には、ギャレスのような楽観的な響きはなかった。

 モーガン・ル・フェイの名を口にする者はいなかったが、部屋のなかの誰もが、その存在の重みをひしひしと感じていた。モーガンとグリムの関わりについて話しておかなくては、とガウェインは思った。しかし、王がモーガンの企てた暗殺計画のことを口にしたとたんイウェインの表情が凍りついたのを見て、ガウェインは思いとどまった。たとえグリムとモーガンのことを話したとしても、役には立たなかったろう。グリムが謎をだしたとき、王妃にはすぐにその答えがわかったようだが、なぜ王妃が答えを知っていたのかは、誰にもわからなかったのだから。

 

 

2020/12/17 13:44