『デザイン・フォー・サービス』はそろそろみなさんのお手元に届き、パラパラとページを開いていただいた頃かと思います。翻訳者の五十嵐さん、玉田さん、山崎さんに1年間以上にわたる作業について振り返ってもらいました。たくさん悩んで迷って、明快な答は出なかったかもしれないけど、読者のみなさんと議論がしたい、そんな気持ちがつまった本です。
五十嵐佳奈さん
本書を翻訳している最中、2018年3月19日に内閣官房よりサービスデザイン実践ガイドブック(β版)が、5月23日には経済産業省より「デザイン経営」宣言 が出されました。いま、「デザイン」に大きな関心が寄せられています。
とはいえサービスデザインは、まだまだ浸透していない言葉なのだと思います。サービスデザイン ってなんでしょう?知ってますか?人に聞いてみると、UXデザインならわかるけどサービスデザイン はわからない、だとか、デザイン思考とは違うの、といった返事が帰ってきました。
私は、もしあなたがものごとを総合的に捉え、継続して機能する何かを、作り出そうとしているのなら、それはサービスデザインしているのだと考えています。UXデザインもデザイン思考も、サービスデザイン の一環です。サービスデザイン という呼び名を持たずして、すでに数多く事例が存在しているに違いありません。日々切々と、自らのコンテクストの中で、そこにいる人々と共に最善の道を探しているデザイナーの姿が目に浮かびます。
本書では、英国にいるデザイナーたちの思索に触れることができます。日本にも、サービスデザイン に取り組む方がたくさんいらっしゃるはずです。どんな風に取り組んでいらっしゃって、それぞれ何に向き合い何を想うのか。気になります。多分デザインの事例は、これからもっと表に出るようになってくるのでしょうね。そうなってほしいですし、とても楽しみです。
最後に、翻訳は迷いの渦に囚われる日々の連続で、長い時間を頂戴してしまいました。出版にたどり着けましたのはひとえに、関係者の皆様のご尽力のおかげです。監修の赤羽さんをはじめ、編集の宮崎さん、サウザンブックスの皆様、そして玉田さん、山崎さん、本当にありがとうございます。
玉田桃子さん
ようやく、当該書籍の日本語翻訳版完成のご報告ができることを大変嬉しく思います。
このプロジェクトのお話を頂いたのは、2017年の秋のこと。この原稿を書いているのは、もうすぐ平成の御代も終りを告げようとしている2019年の春。長い月日が流れてしまいました。ご支援頂いた皆様をたいへん長らくお待たせしてしまいました。ごめんなさい。
「やっと、やっと、やっと出来上がりました!読みやすくはないけど、愛しい本が。」
この翻訳に取り組んだ約1年半は、私にとって非常に濃い時間でした。私をラフバラ大学に招いてくれた尊敬するスーパーバイザーが40代の若さで逝き、また英国行きを力強く応援してくれた第2の父親と慕う方もこの世を去りました。そして、きわめつけは家族が大きな事故に巻き込まれるという荒波のような時間。そのような中で日英を行き来しながらなんとか諦めずに取り組んできた数少ないことのひとつがこの翻訳です。難産でした。
『Designing for Service - “デザイン行為”を再定義する18の課題と未来への提言 』 は、サービスデザインの入門書でも、How-to 本でもありません。一読しただけでは、スッと頭に入ってこない内容や文書も多々あります。安心して下さい。英語ネイティブのブリティッシュですら、「OMG!」と頭を抱えるセンテンスも少なくないですから。「決して分かりやすくはないけれど、頭や心のどこかが刺激され、ワクワクする感覚」を楽しむための一冊と捉えていただければと思います。長いGWのお供にして頂ければ幸いです。
私が担当したPART4の中に訳しながら思わず苦笑してしまった箇所があります。日本で生活する人には理解しがたい「イギリスあるある」。これがヒントです。その箇所を訳しながら、「翻訳って難しい」とつくづく感じたのです。表面上の言葉は訳せても、国の文化や風土、所謂「お国柄」みたいなものは伝えきれない部分があります。それがどこか、なぜ苦笑してしまったのか、5月30日(木)に開催予定の出版記念イベントでお話しできればと思っています。
クラウドファンディングにご協力いただいた支援者の方々は元より共同翻訳者の五十嵐佳奈さん、山﨑真湖人さん、監修者の赤羽太郎さん、編集者の宮崎綾子さん、サウザンブックスの安部綾さん、翻訳家・実川元子さんのサポートに深く感謝します。
そして、最後だけ英語で書かせて下さい。彼らのサポートがなければ、私はこの翻訳を途中で諦めていた気がするし、一定の質を担保することが難しかったのではないかと思うから。
Dear Irina Surducan, Francesco Mazzarella and Fernanda Marangon
Finally, Japanese version of “Designing for Service” that I contributed as a translator is now published. I am writing this message to express my deepest appreciation to you. I could not have reached this moment without the support from you. As you all know what happened to me during this one and half year, which was like an emotional roller coaster. During those days, you always encouraged and saved me in many ways. Although we are physically live in different places, you are always in my mind. Thank you very much for everything you did for me and lots of love from Japan where cherry blossoms are beautifully blooming. See you soon somewhere on the earth!
山崎真湖人さん
悩みながら翻訳した原稿がもうすぐ世の中に出てゆくのですが、私は嬉しいよりも、心配な気持ちの方が強いです。他の方が書いた文章を、ご本人の書きたいことを解釈しつつ、なるべく分かりやすい表現を考えて書く、という作業。結構苦労しました。私とは言葉や文化、知識や経験などが違うからでしょうか、著者ご本人や読者の皆さんには申し訳ないのですが、いくら考えても真意がつかめない、すっきり納得しない、という箇所もありました。しかしオリジナルの内容や表現は理由があってそうなっているはずだ、と考え、極力変えずに訳したつもりです。私の理解力・表現力不足によって、あちこち不適切な翻訳になっているかも、いやきっとそう、と思うと心苦しい限りですが、まあその辺は声をかけてくださった赤羽さんや編集の宮崎さんのせいにして、明日も何とか生きていこうと思います。
本書の内容は、やっぱり深いんですね。ヨーロッパの方の気質なのでしょうか。著者の多くは実践者なんですが、思想的・歴史的背景を踏まえて、デザインを実践するってどういうことなのかを考えています。例えば、サービスデザインでよく言われるステークホルダーの参加がなぜ必要なのか、どういった社会・文化的な意味を持つのか、どんな課題があるのか、といったことを論じている。日本のサービスデザインも発展してるけど、そういうことあんまり考えずにビジネス的な指標とか短期的なよさだけ考えてやっちゃってない? それ続けてて、数年後に後悔することにならない? 社会的インパクトを考えるなら、短期的な効果・効率だけじゃなくて、自分たちがやってることの意味も、もうちょっと俯瞰的に考えたほうがいいんじゃない? なんて問われている気がします。サービスデザインってやることも考えることも多くて、複雑で、それだけでも大変なんですが、たまにはこんな観点から自らの実践を振り返ってみるのもいいのでは、という気がします。まあ、どうなんでしょう。読まれた皆さんといろいろお話しできることを楽しみにしています。