デザイン研究者であり、オーストラリアのRMIT大学准教授である赤間陽子さんから、応援のメッセージをいただきました。プロジェクトの説明ページにも日本語訳を掲載していますが、赤間さんは『Designing for Service』原書の出版社webサイトに有識者レビューとして書評を書かれています。今回、改めて、日本の皆さんへメッセージをいただきました。グローバルなデザイン・ディスコースへのお誘いです。
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こんにちは赤間陽子です。私はデザイン研究者として活動する一方、オーストラリアの大学で人間中心デザインを教えています。オーストラリア初のサービスデザインの修士課程コースを創立し、これをMasters of Design Futures を通じて学生の指導をしています。また、2010年にはService Design Melbourneネットワークを立ち上げました。現在では1700名を超えるメンバーが所属、スキルアップのための勉強会やワークショップなどを開催し、活発に活動しています。
『Designing for Services』の編者であるDaniella SangiorgiとAlison Prendiville、そして本書に寄稿している多くの著者とは、数年来の知り合いです。私たちは国境を越えて共にサービスデザインの研究に携わる仲間であり、この探求領域を構築し、確立させるために一つに結ばれた同志なのです。
これまでの長い人類の歴史の中で、人々は組織化された社会に適合し、発展するようにサービスをデザインし続けてきました。その流れの上で、20年程前に研究と専門領域としてサービスデザインが、サービスを含むシステム全体を理解し、変化をコントロールし、道を差し示す必要性から生まれてきたのです。
これらのシステムには、エネルギーネットワークや廃棄物管理のような、目には見えない、しかし、人々の生活に重要な影響を及ぼすようなシステムも含まれています。こうしたシステムはしばしば組織や地理的な境界を越え、文化、政治、経済、環境が入り組んだ広い範囲に強い影響をもたらします。日本で生活する人々も、すでにこのグローバルで複雑なシステムの一部であり、私たちはどこに住んでいようと、どこで働いていようと関係なく、より大きくダイナミックな変化に関与せざるを得ず、かつ倫理的に協力しあって取り組む必要があるのです。
これがサービスデザインの面白さでありチャレンジです。本書『Designing for Services』には、理論と、それがどのように実現されたかがわかる実践的なケーススタディが統合された説得力のある論文が数多く収録されています。この本は日本の読者にとっても役立つはずです。それは、「欧米の先進的な事例を学ぶため」ではありません。日本の読者は、欧米的なデザインにおいて暗黙の階層や優勢な枠組みだと捉えるべきではありません。それよりも日本はすでにこのグローバル市民社会の一部であると認識して、世界中にいる変革者たちと、より実りある交流をするために、突出したコンセプトや適切な論点を学ぶべきでしょう。
本書は、著者達の幅広いサービスデザインの実践経験をバックグラウンドに書かれており、どの章も示唆に富んでいます。デザイン思考を売り込むのではなく、慎重に捉えています。私がこの本で気に入っている点は、洞察に満ちた報告が常にそうであるように、デザインが変化する際に見られる混乱や複雑さのニュアンスに注目しているところです。盲目的に「よりよい」経験をデザインすることへの期待しがちな傾向や、原因と結果を求め、融通が利かない手法への注意、その上、進行中に新しく現れ、変化する複数の物事とプロセスに立ち向かい取り組み会う姿勢。これらを学ぶことにより、私たちは、すでにダイナミックで激しく変化し続けている世界に、より注意深さをもって参加することができるのです。
この本は、サービスデザインを学ぶ大学の上級生、研究者、そして変化する世の中にアプローチし、関与する新しい方法を探している実践者のためのものです。なぜなら私たちは共に「よりよい」未来を作り出すよう期待やプレッシャーをかけられていることが多いからです。これは時に性急に結果と成果を求められることに繋がりがちです。社会が要求するその場しのぎの解決方法と安直な理解は、私たちの柔軟な能力を蝕み続けます。
私たちは未来を作る方法を、配慮とリスペクトを伴うやり方を求め続けなければいけないのです。これは日本でもそれ以外の場所でも変わりはありません。この本が裏付けているのは、これらの問いが、異なった領域(デザイン、政策、人類学、サービスマーケティング、ビジネスマネジメント、社会起業家、その他の学際的分野)の様々な理論と手法を融合し、借用し、切り刻み、練り直すことによって探求され、実践され、そして私たちが活動する文脈の中でそれらを活性化できるか試みられていることです。
この本の書評を依頼されたことは私にとって大変光栄なことでした。日本語翻訳についても支援できるのは更なる喜びです。私は言語の障壁を身にしみて理解しています。私自身、成長期を苦労して乗り切り、自分の専門範囲の中ですらうまく対処するためには、今なお努力が必要なことなのです。このレビューと日本語に翻訳された本書が、多くの日本の読者を世界のデザインの議論へと繋ぐことができれば幸いです。
赤間陽子(RMIT大学デザイン研究者、准教授)
日本で生まれ、英国とアメリカで教育を受けたのちロンドンで人権と環境NPO法人でコミュニケーションデザイナーとして活躍。その後オーストラリアのRMIT大学でデザイン講師を務めながらCommunication科博士課程卒業。社会問題への取組みにおけるデザインの役割を研究している。専門分野は参加型デザイン。このデザインは一般の人の創造性や創意工夫を高めて日々の生活の問題に取り組む姿勢を意味するものと考える。学生を育成する傍らオーストラリアのService Design Melbourneネットワーク代表、並びにDesign and Social Innovation in Asia-Pacificのリーダーを務めており、これらのネットワークでは人間中心デザインに関する知識を構築し共有する、学界、産業界、政府、共同体の実践的なコミュニティを育成している。日本では株式会社リ•パブリックのフェロー。2008年「British Council Design Research Award」受賞、2012年「Victorian Premier’s Design Award」最終選考進出。2014年には2つの「Good Design Australia Award」を受賞し、日本、米国、欧州とアジアなど国内外の研究機関から共同研究およびゲスト講演に招かれている。