昨日までは、鹿革の持つ「魔力」のような魅力と、野生ゆえの「傷」という厳しい現実についてお話ししました。 「傷があるから、捨てられてきた」 この負の連鎖を断ち切るために、私たちが挑んだ「魔法」の正体を、今日から解き明かしていきます。
長野県飯田市。
ここに、日本最高峰の技術を持つタンナー(製革業者)「宮内産業」様があります。
野生の鹿革の活用は、熟練の職人をして「一筋縄ではいかない」と言わしめる難題です。 傷、シミ、色ムラ……。これらをどうにかして「欠点」ではなく、製品の「個性」として活かせないか。 宮内産業様との、気の遠くなるような試行錯誤が始まりました。
当初の目的は、非常に現実的なものでした。 表面に特殊な加工を施すことで、細かな傷やシミを目立たなくし、製品として使える面積(歩留まり)を上げること。 それによって、これまで廃棄されてきたB級・C級の皮を救い出すことでした。
しかし、完成したプロトタイプを見た瞬間、私たちは言葉を失いました。
傷を隠すために開発したその独自の製法は、革の表面に、まるで砂紋のような、あるいは和紙のような、他に類を見ない不思議な風合いをもたらしていたのです。
「傷を隠す」というネガティブな目的から始まった挑戦が、予期せぬ「新しい美学」を生み出した瞬間でした。
この、荒々しくもどこか上品で、和紙のような「和」のテイストも感じさせる独特のテクスチャ。 製革職人は、この風合いを「Desert(砂漠の嵐)」と名付けました。
砂漠を吹き抜ける風が描く、一瞬の芸術。 野生の鹿が山を駆けた傷跡が、職人の技によって、世界に一つだけの美しい模様へと生まれ変わったのです。 結果として、洋風のモダンさと、日本の伝統的な美意識が融合した、全く新しい革素材が誕生しました。
しかし、私たちの挑戦はここでは終わりません。
実は、Desert加工の初期段階では、「表面が少々弱い(擦れに敏感)」という新たな課題が見つかっていました。 「見た目が良くても、丈夫でなければ一生モノにはならない」
私たちはすぐに改良に着手しました。 宮内産業様と共に、製法を根本から見直し、表面の強度を上げ、より丈夫な素材とするための研究を現在進行形で続けています。 その執念の改良により、初期のネガティブ要素は克服され、現在では「完成の域」に達し、より丈夫で美しい素材へと進化を遂げています。
皆様にお届けする製品は、このブラッシュアップを重ねた、間違いのない品質のものです。 傷を愛し、命を慈しむ。 「ENDEAR」の精神が最も色濃く反映されたこの「Desert」の魅力を、ぜひ手に取って感じてください。
次回は、「和のテイストも兼ね備え、他の革にない独自の魅力的な素材として完成した(Desertの実力)」について、さらに深掘りしてお伝えします。
明日もぜひ、お楽しみに!
信州エシカルディアスキンプロジェクト ケルビム 堀内 智樹