世界の中の日本文学に光を当てる――
文芸誌『jem』日本文学の海外受容・翻訳の状況を大特集した号を刊行したい!

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◇日本の現代文学はいま、世界各地をどのように駆けめぐっているのか?一線で活躍する翻訳家、研究者の論考を集成した大充実の文芸誌◇
◇韓国科学文学賞優秀賞受賞の衝撃作、キム・ヘユン(日本初紹介作家)「ブラックボックスとのインタビュー」を一挙掲載!◇

* 日本文学の海外受容の状況を主な特集とする、文芸ZINE『jem』第2号を刊行するためのプロジェクトです。
* 目標金額に未達成の際はプロジェクトは非成立となり、決済されません。その場合でも自己資金を元に雑誌は刊行します。
* 目標金額を達成した後も、プロジェクト終了時まで募集は継続されます。
* 紙書籍の発行:2025年11月下旬(予定)/ 電子書籍の発行:2025年12月上旬(予定)

 

『jem』とは?

文芸誌『jem』主宰の木村夏彦と申します。弊誌は「日本語文学の普及と、海外に眠る煌めく原石の発見のための文芸誌」を謳い、2024年の12月に産声を上げたばかりのZINE(自主制作物)です。日本文学を海外に届けること、また海外の知られざる佳品の紹介の両方を柱に据えています。

創刊号では、未訳作を多く紹介する女性作家についての濃密なブックガイド、流麗な文章が味わえる美しい翻訳短篇、中国や韓国をはじめ日本文学の海外での受容を垣間見ることのできる骨太の論考やインタビューなどを掲載。日本語表記のなかでもユニークな存在に違いないルビに着目し、西崎憲など翻訳家から石川美南、堀田季何ら短詩型分野の異才、山本貴光、平山亜佐子など博識の文筆家まで多分野の書き手に偏愛のルビについて語ってもらうアンケートは「こんな発想はなかった!」と話題を呼びました。またロングインタビューやアンケート企画には中国、アメリカ、イギリス、カナダ、スペイン、ベネズエラ(日本在住の書き手を含む)の翻訳家・研究者など海外の書き手も多数参加。詳細は公式noteの内容紹介をご覧ください。

幸い弊誌は好評をもって迎えられ、編集者の目に留まったことがきっかけになり『群像』に刊行に至ったいきさつを寄稿することにも繋がりました(2025年5月号)。今後、より充実した内容を読者の方々にお届けできることを目指しています。なお、『jem』編集部とクレジットしてはいますが、友人の助けを多く借りながらも編集、そして今回のプロジェクトともに基本的に私ひとりで進めています(経験豊富な職業的編集者ではなく、本業と並行しながら暗闇のなかで手さぐりをするような毎日です)。

 

Vol.2 の内容

さらに充実した内容の第2号(11月下旬刊行予定)は特集「『世界の中の日本文学』の現在」、小特集〈覚醒する韓国SF〉。

今号も世界中の翻訳家、研究者に協力をお願いし、アラビア語、インドネシア語、ポーランド語、ハンガリー語、フランス語、英語、中国語(簡体字)という計7語圏についての論考を一挙掲載します(フランス語についてはメールインタビュー)。ワルシャワ大学、早稲田大学などで教鞭をとっている研究者、日仏翻訳文学賞、日本翻訳大賞を受賞している翻訳家など高度に専門的な知識を有する執筆陣による、信頼性の高い、充実した記事を集成します。アラビア語、インドネシア語といったイスラム圏、またポーランド、ハンガリーといった東欧の国々の事情に光を当てることにした理由については「プロジェクトに込めた思い」をご覧ください。

小特集〈覚醒する韓国SF〉では、韓国科学文学賞の優秀賞を受賞したキム・ヘユン(日本初紹介作家)「ブラックボックスとのインタビュー」(見込み字数25000字以上)を一挙掲載。人間の意識を機械に移植することが可能になった社会を舞台にした、美しく、深い余韻を残す傑作です。また批評家イ・ジヨンによる、韓国SFの巨大な流れを包括的に論じる大ボリュームの本格論考をこちらも一挙掲載します。韓国SFの隆盛を現代史との関連で知ることができるだけでなく、未訳作のガイドとしても必携の内容です。

 

プロジェクトに込めた思い

すでに存在している、そして未来に書かれる多様な日本文学の作品に更なる注目が集まることを願いながら私は雑誌制作の活動をしています。そのなかで、そもそも「世界中で日本文学のどの作品が、どのような読者に、どのように読まれているのか?」といった事柄についてまず理解を深めることに大きな意味があると考えるようになりました。

雑誌や書籍における日本文学の受容を扱った記事に意識して目を通すようになって十年間あまり、驚くような現象を目にしてきました。突出したベストセラーか三島由紀夫や川端康成のような文豪の古典のどちらかのみが翻訳されるという状況は多くの国ですでに過去のものとなっています。最近ではイギリスにおける年間翻訳書の売り上げトップ40(2024年)のうち43%が日本文学と推定されると『ガーディアン』が報じ、話題になりました(2024年11月23日付記事)。

他方で、主要文芸誌などで日本文学の海外受容が話題となる場合でも、アメリカ、イギリスでの状況のみが取り上げられることが多い傾向が以前から気になっていました。しかし、文化圏が変わると読まれ方も変わります。ときには、私たちにとって思いがけないようなかたちで。

今回アラビア語圏の状況について記事を執筆いただくエジプト在住の翻訳家(日本語からアラビア語)ラナ・セイフさんは、「日本という国が先進国でありながらいまだにジェンダーギャップが大きいことは謎である」と述べながらも、日本社会で女性が感じている「怒り」を表現した日本文学が、現在エジプトの若い世代の間で反響を呼んでいると「ニッポンドットコム」に掲載されたインタビューで語っています(外部サイトへリンク:2025年3月10日の記事)。また、起承転結がはっきりしているアラブ文学とは異なり、日本文学の「結末の曖昧さ」に魅力を感じるとも話しています。エカ・クルニアワンの長編などインドネシア文学を日本語に、森鴎外や谷崎潤一郎をインドネシア語に移しかえている太田りべかさんには、女性の社会的地位が低いと言われる(同じくイスラム圏の)インドネシアにおける日本文学の受容状況について寄稿いただきます。ふたつの論考は、ジェンダーの問題を多分に扱います。

私たちの間には違いも大きいかもしれませんが、共鳴できる部分も少なくないはずです。そして、その共鳴の質について「知ろうとすること」は、様々な国の文化・歴史について理解を深めることにもつながると固く信じています。

また今回、英語圏における現代詩の受容について田中裕希さんに執筆いただきます。翻訳を通じて詩が手渡されていくのには大きな困難がつきまといます。しかし、耀きとともに発見=発掘されるのを待っている原石がすでに無数に存在していると確信するからこそ、まず現状について知るための記事を皆様とともに読んでみたいと思いました。そして、西ヨーロッパと比して論考の数が相対的に少ないと思われるポーランド、ハンガリーといった東欧の国々の事情を扱う記事についても今回掲載します。劉佳寧さんの記事は幻想文学テーマ、パトリック・オノレさんへのインタビューも、(自身がフランス語に移し替えてきた)澁澤龍彦や夢野久作など幻想文学作家の話題を多く含みます。

 

クラウドファンディングに挑戦する理由

今号に掲載される記事や小説は、すべて書き下ろしまたは訳し下ろしです。原稿をお預かりする身分にすぎないとはいえ、15年、20年経っても読まれるものを創造しようという意気込みで臨んでいます。

創刊号では字数自由のアンケート企画が複数あったとはいえ、寄稿者にお支払いした原稿料は最低限とも呼びがたい額で、ボランティア労働を強いることになってしまいました。

今回の原稿執筆のために、時間を割き図書館に通いつめ、リサーチを重ねてくださっている方もいらっしゃいます。今度こそ上記の状況を改善したいと考えましたが、他に絶対必要な経費と合わせても、創刊号と同等の発行部数ではとても制作費が回収できません。文学フリマなどのイベントや通販での売り上げとは別に、制作資金を補てんする必要を痛感するようになったのがファンディングを思い立った理由です。

先に触れましたように、ときに必要な外国語でのメールのやりとりまで含めて編集およびプロジェクトは基本的に単独で行っています。こころやさしい友人の助けを借りながらここまで進めてきましたが、現在の制作環境が続けば3号から先の刊行は諦めざるをえません。海外の翻訳家の方から「誰かおすすめの日本人作家はいないか」と質問をいただくこともありますが、すぐれた日本語作家の情報をもっと外へ向けて発信する、日本文化にまつわる誤解やステレオタイプの是正をめざすサイトなどやりたいことは無数にあります。雑誌を継続的に読者の方々にお届けできることを目指し、ご支援を賜りたいと考える次第です。

このプロジェクトの支援金については、「原稿料」「翻訳費」「編集・デザイン・DTP費」「印刷・製本費」「発送・流通・宣伝費」など、本の制作からお届けにかかる費用に使用させていただきます。

 

発起人について

木村夏彦(きむら・なつひこ)
慶應義塾大学文学部英米文学専攻卒業。普段は英語教師として、中高生を中心に英語を教えています。大学時代はアメリカ文学のゼミに所属していましたが、シンボルスカなどポーランドの詩やボルヘス、オクタビオ・パスなどのラテンアメリカ文学、マルセル・シュオッブなど「古め」のヨーロッパの幻想小説、それにSFなど、国を問わず詩と小説を熱愛していました。卒業論文はジェンダーSFについて執筆しました。

学業そっちのけで大学図書館の薄暗い地下書庫にこもり、青春の貴重な数時間をそこで費やすということも珍しくない、ちょっとオタクで後ろ向きだけど楽しい数年間でした。地理的には小さな国々にも、読者に発見されることを待っている偉大な才能が星の数ほど眠っている。そうした確信は、私の物の見方を根本的にかたちづくっています。当時から文芸イベントに足を運んではいましたが、自分で創作をするでもなく、長年単なる愛読者であり続けてきました。

変化の決定的なきっかけになったのは、オーストラリアでの半年間の語学留学経験でした。日本文化(文学を含む)に関する質問をクラスメイトから絶えず投げかけられ、どうすれば誤解されないように外国語で伝えられるかを帰国してからも日常的に考えるようになりました。

時おりしも、2010年代に日本文学の海外での読まれ方は大きく変容していきました。非力な自分も、雑誌というかたちで他の方に寄稿をお願いすれば、発信する側になれるのではないか。ある意味では日本の外で起きているムーブメントに背中を押されるかたちで、自分でも『jem』という雑誌を立ち上げてみたのです。

 

執筆者、掲載する作家の紹介

まずは3名の方をご紹介します。寄稿いただく方の残りの略歴は、活動報告の欄で少しずつ紹介していきます。

アンナ・ザレフスカ(Anna Zalewska)
ポーランド、シチェチン生まれ。日本学者、文学博士、ワルシャワ大学東洋学部日本学科准教授。主な著作にKaligrafia japońska. Trzy traktaty o drodze pisma(『日本の書道 入木道三部作』)(2015)、O czarnym kocie cesarza i inne opowieści. Koty w dawnej literaturze japońskiej(『天皇の黒猫の話ほか 日本の古典文学における猫』)(2022)など。主な翻訳に伊藤比呂美『カノコ殺し』(2024)、川上弘美『センセイの鞄』(2013)、川上弘美『古道具中野商店』(2012)、『古今和歌集第三巻 夏歌』(2018)など。

田中裕希(たなか・ゆうき)
詩人、翻訳家、法政大学専任講師。英語で詩作を行う。主な著書に詩集 Chronicle of Drifting(Copper Canyon Press、2025)。共同翻訳に瀧口修造の詩集 A Kiss for the Absolute: Selected Poems of Shuzo Takiguchi(Princeton University Press、2024)。The Paris Review, Poetry などに詩を掲載。最近では、歌人・大森静佳の短歌英訳を手がけている。

ラナ・セイフ(Rana Seif)
エジプト生まれ。翻訳家、通訳者。カイロ在住。毎日新聞中東支局にて9年以上にわたり通訳・翻訳を担当。アラビア語圏に日本文学を届けることをライフワークとする。主な文学作品の翻訳に今村夏子『むらさきのスカートの女』(2025)、八木詠美『空芯手帳』(2024)、漫画の翻訳に土屋ガロン・嶺岸信明『オールドボーイ』、 桜谷シュウ 『ニワトリファイター』、 清水栄一・下口智裕『ウルトラマン』など。

 

推薦コメント

「世界」で日本文学は売れている!賞をとっている!というニュースを目にすることが増えました。でもそのほとんどが英語圏という限られた地域、書籍という限られた流通形態、(純文学の長編)小説という限られたジャンルの情報でしかなく、それ以外の場所や言語で日本文学が実際にどう読まれているかは実はよくわかっていません。jemはその広大無辺な未踏の地へ一歩踏み出そうとしています。その挑戦を応援してくださるよう、みなさまにお願い申し上げます。
秋草俊一郎(日本大学大学院総合社会情報研究科准教授)

『jem』のVol.1を読んで、喫驚! よくこんな企画を立てたものだと思う。そして、執筆者、寄稿者のユニークで豪華なこと。編者、「木村夏彦」は最低、5人くらいいるのだろう。その木村夏彦さんから、Vol.2の内容をざっと教えてもらって、(喫驚)の2乗! 世界中に地引き網を仕掛けてあるらしい。そこにかかってくる魚は、じつにうまそうだ。Vol.2、絶対に読みたい! どうぞ、みなさまご協力ください。
金原瑞人 (法政大学名誉教授・翻訳家)

「翻訳文学の広大な砂浜にいきなりキラリと出現した『jem』。創刊号のアンケート企画から、これってホントにZINE? ホントにひとりで編集してるの? すごい!と他誌に類を見ない企画力と豪華な顔ぶれに、こちらの瞳もキラキラしてしまいました。第2号は、世界各地の翻訳家の論考が一挙掲載との噂に、すでにわたしの欲望はギラギラ高まっています。翻訳文学は人と人をつなぐジンブン世界の"人間の安全保障"。」
吉田恭子(京都文学レジデンシー実行委員会代表、京都大学人間・環境学研究科教授)


制作スケジュール

 

書籍情報

・仕様はA5二段組、ページ数は創刊号(180ページ)と同程度かそれ以上になる見込みです。
・前号に引き続き、装画、表紙デザインはYOUCHAN(トゴルアートワークス)さんが担当。

創刊号書影(参考)

 

リターンについて

◆オンラインイベント
・書籍刊行後に開催予定の出版記念オンラインイベントにご招待します。2025年12月~2026年1月の週末の夜を予定。
・編者に加え、可能であれば2号の寄稿者などをゲストにお呼びし、「日本文学が海外でいまどのように発見されているか」をテーマにトークを行います。当日話していただきたい話題のリクエストなどありましたらぜひお寄せください。
・オンラインイベントの開催日時や出演者などの詳細は、決まり次第お知らせいたします。
・当日参加できない方のため、オンライン配信後一定期間、録画をご視聴いただけます。

◆ミニエッセイ集「私のことのは散策記」
翻訳家・詩人などさまざまな書き手の方に「言葉についての発見」をテーマに書き下ろしてもらった、限定のミニ電子エッセイ集(各原稿は1700~1800字程度、論考などではなく短めの随筆の集成です)。PDF・ePubの小冊子。執筆者はアレクサンドラ・プリマック(詩人、編集者)、荒木駿(春秋社編集部、〈アジア文芸ライブラリー〉ほか担当)、小笠原鳥類(詩人)、小原奈実(歌人)、ラナ・セイフ(翻訳家)ほか現在交渉中(8~10名+リターンで寄稿権を購入くださった方3名)。寄稿いただく方の略歴は、活動報告の欄で少しずつ紹介していきます。寄稿権の詳細はリターンの項をご覧ください。また、こちらの電子ペーパーは一般販売の予定はございません。

◆世界にひとつだけ!YOUCHANオリジナルドローイング※個数限定
『jem』表紙画を手がけるYOUCHANさんがあなただけのためのドローイングを描いて、その原画をプレゼントします。


・大きさは136×120mmのミニ色紙サイズです。
・オプションとして、ご希望の言葉を入れることができます(値段は変わりません)。作家の名言、自作の詩や短歌など。日本語は40文字、英語(ローマ字をベースとする言語)は70文字まで対応いたします。
・どんな絵が届くかは到着までのお楽しみです。あなたの選んだ言葉をYOUCHANさんがイメージにふくらませてくれることもあるかも!?言葉なし(ドローイングのみ)でももちろんOKです。
・著作権の譲渡はしませんので、お渡しする原画を元に本やグッズなどを作ることはご遠慮ください。飾って愛でていただければと思います。スキャンした原画のデータはYOUCHANさんが後日商業利用することがあります。
・引用は著作権の失効した作家(1955年より前に亡くなった方)の言葉に限ります。翻訳権が絡んでくると複雑になるため、海外作家の場合は原文に限らせていただきます。

◆書籍(奥付)に名前を掲載【限定10名】
・プロジェクトをご支援いただいた証として、本の奥付にSpecial Thanksとしてご希望のお名前(個人名・団体名ともに対応可)を掲載いたします。
・お名前はすべての本に印刷されます。

 

むすびに

現在ではなく未来を基準に価値を創出するにはどうすればいいのか、熟考した末に今回のクラウドファンディングを企画しました。趣旨に賛同いただけるようでしたら、どうかご支援・応援をよろしくお願いいたします。

 


 

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