「組み立てる」ことの魅力をー
プロモデラー北澤志朗・カーモデル作品集制作プロジェクト

時には想像の翼を拡げて~実在しないクルマの模型を作るということ(北澤志朗)

 

 現在、製作中のこのクルマ。1980年代に一世を風靡した国産スポーツカー、トヨタ・スプリンター・トレノAE86。旧車となった現在も、峠の走り屋をテーマにしたコミックなど活躍し、絶大な人気を誇る名車ですが、そのボディを改造してピックアップに仕立てているところです。

 仕事で製作した別の模型にボディの一部を提供したドナーの残りをなんとなく見ていたら、それがピックアップに見えてきたのが、作り始めたきっかけでした。もちろん、AE86にはピックアップなど存在しませんが、スポーツカーを改造してスポーティなピックアップを仕立てるというのは、モーターショーのコンセプトカーなどではしばしば見られる手法です。

 捨てるつもりでいた改造工作の残骸が、私に「もしトヨタが当時AE86をベースにピックアップを作って市販していたら…」という妄想をプレゼントしてくれたのです。そこで、トヨタを初め実在する国産車のピックアップ・トラックの資料をかき集め、ベッド(荷台)のディティールを研究しました。また、AE86のボディの一部を改変した時に、構造的に無理が生じない形状はどんなものかを考察しました。もともとの実車のデザインと自然に溶け合うリア周りのスタイリングを、当時のトヨタのデザイナーになったつもりで考えました。

 

嘘をつく時は徹底して裏の裏まで考える。すると、嘘は物語に昇華するのです。

 自動車の模型とは本来、実在するクルマを精密に再現する所に存在意義があります。しかし時には現実のクビキを離れ、想像の翼を自由に拡げて模型を作ってみるのも、また一興。

 このモデルが完成した時どんな写真になるのか…それも大いに楽しみなのです。

(北澤志朗)

2018/06/22 08:39